第28話 剣道部廃部とお嬢様参上
「先生、剣道部は廃部する事にしました!」
「どういう事ですか天上さん!」
「元々、5人居なければ認められない部を特例で認めて頂いていたのですから問題は無い筈です!」
「それで、辞められてどうするのですか?」
「より一層、道場にて剣に励むつもりです」
「そうですか? 残念ですが認めざるをえませんね、受理します」
「少し良い、翼くん!」
良いも何も教室まで入ってきているのだから拒めないよな..
だけど、周りの注目が凄い事になっている..
「何で心美様が天空院の所に来るわけ..」
「何の用事なのかしら?」
「しかし、いつ見ても綺麗だな..」
「別に良いけど? 場所変えない?」
「変える必要はないわ..実はねさっき剣道部は廃部してきたのよ」
「剣道部、無くしちゃったの?」
「ええっ、もう私には必要ない物だわ!」
「そうかな!」
「そうよ! それでじゃ、放課後迎えに来るから、そのね、教室で待っててね!」
「解った」
「用事はそれだけ! それじゃまた後でね!」
心美さんは笑顔で去っていった。
《何で、心美先輩と翼があそこまで親しいんだ?》
《そりゃ、同じ剣道部だからじゃないかな?》
《何だか、それだけじゃない気もするけど..》
《剣道部、廃部にしたとか言って無かった?》
《聞き違いだと思うよ...剣道小町だよ?》
《それより、放課後迎えに来ると言って無かった?》
《羨ましいな...》
「翼くん、迎えに来たわよ! さぁ行こう! 直ぐ行こう! 今行こう!」
笑顔でグイグイ引っ張って行こうとする..こんな綺麗な人に手を握られるとちょっと顔が赤くなる。
「ちょっと待って心美さん!」
気が付くと僕の右腕に心美は腕を絡げていた。
「時間は待ってくれないのよ!」
《心美さん、剣術が絡むと途端にせっかちになるな..》
《嘘だろう...心美先輩が、あんな笑顔をしているなんて..》
《それより、手を繋いでいるぞ..》
《嘘、腕を組んでいる...なんで翼なんだよ》
そのまま引きずられるように教室を後にした。
「さぁこれで剣道には未練はないわ..今日は何を教えてくれるのかな? 楽しみだわ..」
「あのさぁ、週一回の約束だったよね?」
「何言っているのかしら..剣道部は毎日稽古だったのよ...その分を一緒に稽古すると考えたら、剣道部が週に6回、天上家の稽古に付き合う約束が週1回、そう考えたら 週7回稽古に付き合って貰えるはずよ!」
「そんな事したら、毎日心美さんと過ごす事になるんじゃない!」
「私じゃ不足かしら? 何だったら家に引っ越してきても良いのよ? そうしたら寝ている時以外はずうっと一緒に居られるわよ!」
「....」
「どうして黙っているのかしら? 嬉しく無いのかしら?」
「嬉しいけど、それって結婚しているみたいだなと思って..」
「なんだったら結婚しちゃう?」
「えっ..」
「冗談よ! 冗談..」
「そうだよね」
《一瞬、想像しちゃったよ...そんな旨い話はある訳が無い..》
《翼くんと結婚出来たら..あの剣技もあれも全部私の物だわ..朝から晩まで、ずうっと剣術して..剣術..出来るわ》
そのまま歩いていると、目の前に黒塗りの豪華な車が止まった。
車からこちらにゆっくりと1人の少女が歩いてくる。
うん、前の世界でよく見た貴族の娘、そう見えた。
心美さんが日本風撫子美少女だとしたら、この人は西洋風貴族令嬢美少女だ。
「貴方が 天空院翼さんですわね、初めまして、私は、後藤田麗美と申しますわ、宜しくですわ!」
余りに自然に手を差しだした。
僕はその手を取り、手の甲にキスをした。
「僕が、天空院翼です、麗美さん、宜しくお願い致します」
「では本日は挨拶しに参りましただけですので、これにて失礼しますわ..ごきげんよう!」
「はい..」
《あれっ、この人って誰だ..あっ、あれか..》
麗美さんはスカートを翻すと去っていった。
「つ.ば.さ.くーん、今の人は誰かな?」
「後藤田麗美さん..ですね..」
「随分、親しそうだけど、ど.う.い.う関係かな?」
「遭ったのは初めてだよ、しいて言うならお父さんと知り合いという感じかな」
「そう、初めての人の手に、きききき、キスなんてしちゃうんだ..へぇー、軟弱者ー」
「あれは挨拶だよ」
「挨拶? 本当に..じゃぁ 私にもしてくれる?」
心美はおずおずと手を差しだしてきた。
その手をとり同じ様に手の甲にキスをした。
「えっへへへっ」
「どうかしたの?」
「何でもないわ..」
《挨拶なのよね..だったらこれ毎日して貰おう》
「どうしたの、本当に変だよ!」
「何でもないわ」
正直乗り気じゃありませんでしたわ...
おじい様とお父様がヤクザをしているから友達自体殆どいませんの。
女は若干の理解ある友達はいますが、男に関しては壊滅的ですわね..
まず、寄ってこないですし、偶に寄ってきても、私の嫌いな不良っぽい人ばかりですわ。
仕方なく、妥協に妥協をして付き合おうとしたら、お父様どころかうちの組員を見て逃げ出しますのよ...
せっかく、私が友達になってあげても良くって..そう考えてあげたのに..
仕方無いですわね..半分諦めましたわ。
正直これはお父様のせいですわ..これは凄いハンデですわ。
だから言いましたのよ「私に男友達が出来ないのはお父様のせいですわ」と
そうしたら、お父様は「まだ、お前には早い」と言うばかり、本当に子離れができていません。
それだけならまだしも「國本を越えるような奴じゃないと交際は認めない」ですって..
國本ってお父様の組の若頭...「行け行けの行ったきりの國本」と若い頃は呼ばれていて..凄い武闘派ですのよ!
そんなの勝てる男なんている訳ありませんわよ...
それなのにに、お父様が「この男と付き合ってみないか?」なんて突如言い出しましたの、可笑しいですわ? なんでもおじい様からの肝いりだとか..
しかも國本まで「あの男ならこの國本も賛成です」ですって 本当に可笑しいですわ?
《これはもしかして政略結婚が前提のお話なのですか? そして相手は多分組関係の方ですわね》
だから気が乗りませんでしたの..
何て、さっき迄思っていましたのよ..それが...
「あの方です、お嬢様..」
嘘ですわね..あれは、あれは人ではありませんわ..しいて言うなら、物語の中の人、王子様とか貴族の令息そんな感じでしてよ..
「本当にあの方ですの! 今更違うなんて言いませんわよね..」
お父様 グッジョブです、あの方と付き合えるなら、今迄のハンデは忘れてあげますわ..
「間違いありません」
「そう、だったら車を止めて頂戴!」
「はい、お嬢」
ゆっくりと近づいていきます...隣に邪魔者がいますが気にしませんわ..
「貴方が 天空院翼さんですわね、初めまして、私は、後藤田麗美と申しますわ、宜しくですわ!」
手を出してみましたの..これはただの冗談です..ですが私が見た幼い頃の夢ではここで王子様が跪いて手にキスしてくれますの..
《えっえっえー》
これは、これは、私が見た夢..そしてお顔を見たら..見たら...嘘ですわね、多分この方の顔が..私の王子様のお顔ですわ..
これは不味いのです、今の私は顔まで茹蛸のように真っ赤ですわ..
なごり惜しいですが、挨拶は済みましたので今日はこのまま立ち去りますわ..
ウサギと熊 (動物に対する残酷な描写あり 嫌いな人は避けた方が良いかも知れません)
天上家に着いた。
話し合いの結果、僕から剣術を教わるのは 鉄心さん、心美さんの2名になった。
百合子さんと巌さんは道場があり、門下生が居るため、天上流の型を崩す訳にいかず今は諦める形となった。
輝彦さんは道場で師範をしながら、剣以外の道も視野に入れ人生を考えるそうだ。
「私としては、こんな天上流よりもそちらを学びたいのですが..道場主としての肩書がありますので口惜しいです」
「百合子1人には任せられないのでね..」
「君に負けた事で諦めがついたよ、僕には才能なんて無いってね、別の道をこれからは探すさ」
だそうだ。
「あの、鉄心さんは良いんですか?」
「儂はもう形上は引退した身じゃよ..好きにさせて貰うさ...師匠」
「師匠?」
「請いて教えを頂くのじゃ..そう呼ばせて頂こう」
「それじゃ、翼師匠、宜しくお願い致します」
「それはやめて下さい、僕自身がまだ修行の身ですので..」
「おじい様と同じような事いうのですね」
「良いからやめて下さいね..やめてくれないなら教えませんよ..」
「解った(わ)」
「それで今日は何を教えてくれるのじゃ..」
「楽しみだわ」
「今日はウサギ狩りをしようと思う..幸い、道場の裏の山は天上家の山ですよね」
「うむ..そうじゃ..じゃがウサギ狩りじゃと..儂は弟子じゃからのいう通りにしますが..」
「ウサギさんを捕まえれば良いの?」
「そう、まずはその考えで良いよ!」
3人で山に登って行った。
「これではウサギを探すのも一苦労しそうじゃの」
「なかなか居ないわね..」
「あのさぁ、もう訓練に入っているんだから静かに!」
「「......」」
僕は周りの気配を探った。
よく見れば、獣道や糞等の手掛かりが山ほどある。
それらから考え茂みを探す..居た..
静かに気配を消しながら近づき..ウサギの逃げる方向を塞ぐ..
「ほら、捕まえた!」
「ほう見事な物じゃな..」
「ウサギってそうやって捕まえるのね..」
「それじゃ、2人とも僕は此処で休んでいるからウサギを捕まえてきてね ノルマはそれぞれ3羽で良いや!」
「あい解った」
「ウサギと剣術、何か関係があるの?」
「それは後で教える..とりあえず、さっさと行け..」
《うむ、それで良い、教える時は厳しくなければいかんからの》
「解った、行って来る..」
僕は木の根っこに寄りかかり休むことにした。
本当に休むのではなく、周りを警戒している。ちょっとだけ注意が必要な気配がある。
1時間位たったろうか、鉄心さんが帰ってきた。
「3羽捕まえてきたぞい」
「思ったより速かったですね..もう少し時間が掛かると思っていました」
「儂は田舎育ちでのこの手の事は得意なんじゃ..」
「そうですか? それじゃ心美さんが帰ってきたら続きをしましょう?」
「続きとな? これはウサギを捕まえる訓練じゃ無かったのかの? 弱い動物ほど気配を感じ隠形に優れる、それらを捕まえる事によって神経を研ぎ澄ます、それとは違っているのかの?」
「半分、正解です」
「これで全部じゃ無いのかの..奥が深いの」
それから1時間半...ようやく心美さんが帰ってきた。
「ウサギさん、何とか捕まえたわよ..」
鉄心さんと違ってかなりボロボロだ..
「それでこれからどうするのじゃ..」
「そうですね、鉄心さん 一羽ウサギを下さい..」
「こうします..」
「そんなウサギさん..いやぁ!」
僕はウサギの首を跳ねた..そして皮を剥がした。
「なんで、そんな事するの、そんな残酷な事、なんで平気に出来るの?」
そんな言葉は無視だ..
最初に足を切り落として肉の解体を終わらせた。
「こんな感じだ..それじゃ二人ともやってみて..」
「これを儂らにやれというのじゃな...意味はあるのじゃな?」
「その辺りから説明しないといけないんですね..良いですか? 戦うという事は弱肉強食なんです。ウサギは弱いから強者から逃げる為に努力する..もしかしたら二人とも何も考えずに追いかけていたんですか?」
「どういう事なのじゃ..」
「つまり、これは力関係はともかく立派な戦いです..貴方達はそれに勝った、だからウサギは殺され戦利品になった...それだけです」
「だからといって、そんな、こんな可愛いウサギを殺すなんて..できないよ.」
「鉄心さんも同じですか?」
「儂は..やるぞ..なぁに、小さい頃はニワトリを絞めて食っていたんじゃ..簡単な事じゃよ」
「キュウ..」
「おじい様..そんな事..するんですか..」
こんな簡単な事をするのに、決意がいるのか?
こんな事、冒険者になろうという奴なら子供の頃から経験する..
冒険者になって最初の頃は、薬草の採集と小さな魔物や、こういった小動物の狩りだ..
解体が出来なくちゃ、素材の回収も出来ないから、冒険者には成れない。
メイドだってそうだ、こういう生き物を殺す仕事は新人の幼いメイドの仕事だ..
「何をしているんですか? 心美さんもさっさとやって下さい!」
「私には...私には出来ないわ..」
「そうですか..なら僕にはお教えする事は何もありません..帰って下さい!」
「嫌です!」
「だったらウサギを殺して..出来ないなら..去って下さい!」
「それも出来ないわ!」
「鉄心さんの方はどうですか? 下手糞ですがちゃんと解体は出来ているようですね、後1羽頑張って下さい!」
「下手糞なのは、ニワトリなら絞めた事もあるがウサギは初めてじゃからな..仕方ないんじゃ」
「今日は別に覚悟の問題ですから構いません」
《この世界じゃ皮や肉は売れないしね》
「もういいですよ..心美さん!」
「それじゃ翼くん..」
「心美さんには剣道の道があるじゃないですか? それで強く成れば良い..出来ないからって友達じゃ無くなる訳じゃないですから..」
「それって..」
「これが出来る事が、最低条件です、それすらできないのなら諦めて下さい..」
《いやだ..翼くんの目が怖い..違う怖いんじゃない..諦めたような目をしている..嘘だ、これが出来ないと友達でなんて居てくれない..》
「翼くん、心美やるよ..ちゃんとやるから..そんな..そんな目で見ないで..」
「そう、だったら、さっさとやる!」
「うあわわわわわわわわわっ はぁはぁはぁー」
ウサギの首が宙に飛んだ..
「心美、心美ちゃんと出来たよ..」
「そこから、ちゃんと皮を剥がして解体して下さい!」
首の無いウサギがピクピクしながら逃げようとしている..
「ああああああっうわああああん..ごめんね、ウサギちゃん...ごめんね..うっうっ、はぁはぁ..」
皮を剥がれて首がない..それでもウサギは本能なのか一生懸命逃げようとしていた..体をピクピクさせながら震えながら..
「何、手を止めているんですか? そこから肉の解体があるんですよ..」
「はぁはぁはぁ..ちゃんとやるよ、心美ちゃんとやるよ..」
ウサギに叩きつけるように心美はナイフを落とした..
「これで良いんだよね? ちゃんとしたよね? だから..(ボソッ)捨てないでよ...」
良くは無いな..これは切ったというよりめった刺しした状態だ。
「どうかした!」
「もう大丈夫..だよ..ちゃんとやるから..」
結局、心美さんは泣きながら3羽のウサギの解体をやり遂げた。
可愛らしい顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら...
パチパチパチ
僕は今、ウサギの肉を木の枝に刺して焼いている..塩コショウでだけで食べるウサギステーキだ。
「これはなかなか美味じゃな..」
「どうですか、心美さんは?」
「これ美味しいわ..」
《良かった、これで食べれないなら、僕にしてあげられる事は無い..》
「良かった、これでまた一緒に居られるね...」
「嘘、そんな事言わないでよ..心美何でもするから、ちゃんとするから..」
「しかし、いきなり荒療治じゃな..一番最初からこれとは..」
「鉄心さん、これはある国の話です..幼い子供が狩をして動物を捕まえて生活の足しにする、そんな生活をしているのです」
「アフリカとかの話かの?」
「そういう国ではこの程度の事は当たり前の事です..日常なのですから..」
《前の世界では6歳から冒険者見習いをしている子供が山ほど居た》
「そうじゃな..だが、それと剣と何の繋がりがある」
「はっきり言いますね...そういう環境で育った子がいたら、恐らく10歳位の子ですら心美さんを簡単に倒すでしょう?」
「聞き捨てならないわ..幾ら翼くんでも..」
「その子達は毎日狩をして場合によっては戦って生きています..心美さんは殺せない、相手は殺しに掛かってくる..最後までやるなら負けるのは心美さんです..だって殺せない心美さんに対して相手は一度勝てば良いんだから」
「そうなる..確かにそうなるのぉ」
「....」
「では、今の社会で強くなろうとするなら..ここからスタートしなくちゃならない..僕はそう思います..だからこれは必要な事なのだと思います。」
「それで、一体、翼殿は何をしようとしておるのじゃ」
「二人の目標は...とりあえず熊の討伐です」
「あの、翼くん、熊ってあの熊..ベアー?」
「それです、それを簡単に倒せる強さ、そこが到達点です」
《日本にライオンは居ないし、白熊も居ない、象もサイも居ない だから暫くは熊で妥協するしかない》
「それは豪快な話じゃ..だが真剣で熊とやり合う、悪く無いの」
「そんな事考えていたの..凄いわ..だけど、翼くん..そんな事できるの?」
「できるよ..《ギア3》...こんな風にね..」
「「えええっ..」」
翼は茂みに居た熊に突っ込み、ただの枝で首を跳ねてみせた。
「これはただの熊..目標はヒグマです..頑張りましょう! 」
この程度の事なのに二人は何故か驚いた顔をしていた。
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