第24話 【閑話】勇者の事情(完結編)

「目が悪くなる魔法ですか? 良くなる魔法でなくてですか?」


「そうだ、無い物か?」


俺は今日、宮廷魔術師 師団長の所に来ている。


勇者という立場は要人でも簡単に会えるのでこういう時は良い。


「ブラインドという魔法はありますが、これは相手の視力を奪う物なので何も見えなくなります」


「それじゃ駄目なんだ...あくまで視力が悪くなるだけの物が欲しい」


「理由をお聞きしても宜しいですか?」


俺は誤魔化す事にした...それが一番誰も傷つかない。



勇者の力を手に入れる為に大きな代償を払う必要があった事。


その代償は女神でも解らなかった。


そして、その代償が「女性が醜く見える」そういう物だった。



《これで良い筈だ、俺は本当にこの世界の女が不細工に見える..多分こうなる事は女神は知らなかっただろう..これは俺にとって大きな代償だ》



「そうだったのですね...凄く辛かったでしょうね、だから王女様や聖女様にも辛くあたっていたのですね」


「ああっ、本当に尽くしてくれる..良い奴ばかりなのに顔がモンスターに見えるんだ..正直狂いそうだ」


「そこまでだったのですか?」


「そこ迄だ」


「ですが、それなら女性の居ない人里離れた場所で暮らすという事ではいけないのでしょうか?」


「俺の力は..遺伝するらしい、この世界の為に、5人以上の女性と子供を作ると女神と約束した」


「そうですか...ならば、私がどうにかしましょう...幾つかの方法はございます...いずれも禁呪ですが勇者様に使うなら誰も咎めないでしょう!」



「そうか、一生恩にきる」



「それでこれが勇者様に対して有効かと思える対処魔法です」



1.「ホワイトマスク」


 この魔法に掛けられた人間は全ての人間が白い仮面をつけた状態に見える。

 男も女も全員。

 この魔法はその昔、勇者に仕えた魔術師の大規模魔法を封ずる為に、敵味方の区別が解りにくくする様に魔王が編み出したとされる。


2.「障害フェイス」


 この魔法に掛けられた人間は人の区別がつかなくなる。

 顔にモザイクが掛かったように見え区別がつかない。 男女全員。

 この魔法はその昔し、勇者に仕えた 優秀な斥候の動きを封ずる為に 報告が出来ない様に魔神が作ったとされる。



3.「女神パラダイス」


 全ての女性が女神イシュタリアに見える。

 この魔法は、その昔、女神の美貌に対して暴言を吐いた美少年に女神が用いたとされる。

 女神イシュタリアを愛する者には至高の魔法と言われるがつかわれたことは歴史上2人しかいない。

 

 ちなみに、用いられた1人は先の美少年...暫くしてから狂い自殺した。


 もう一人は、女神教徒。 女神を心から愛してやまない彼は勇者でもないのに、命を賭して先の魔王と戦い続けた、そして、自分の命と引き換えに魔王を倒した。


 その事に感銘を受けた女神はその教徒に二度目の命を与え、褒美をとらせようとした。

 だが、その教徒の望みは「女神、その物であった」 その使徒の美しさと自分を思う心に答えたい反面、自分が女神である以上答えられない。

 その時に過去に使った魔法を思い出した女神は「私は貴方の気持ちに答えられない..その代り貴方の世界を私で満たしてあげましょう」そう伝えこの魔法を用いた。


その教徒が亡くなった時は何とも言えない幸せそうな顔をしていたという。





?番は駄目だ、幾らマスクをしているとは言え、元の顔が思い出されるだろう..


?番はこれを選んだら破滅だ、誰が誰だか解らなくなったら生活が真面に出来なくなる。



そう考えたら?番しかない。


この世界の女の醜さは顔だけだ..体に関しては普通に色々なタイプがいる。

幸い、女神は凄く美人だ..そう考えたら、これしか無いのかも知れない。

ただ、全ての女性が女神の顔に見える事に若不安を感じるが、今よりはずうっと良い..良くてブス、本当に不細工だとゴリラ以下..正直オークやゴブリンと変わらない位不細工な女もいる..これの方が良い筈だ。



「それでは女神パラダイスで」


「やはり、そうですよね、美しい女神様に全ての人間が見える..私は怖くて(げほん)出来ませんが最高の筈です では神託を使って魔法を行使する必要がありますので 神官を呼んできますね」



宮廷魔術師 師団長が 10人程の神官をつれて来た...皆不細工な女だ。


「それじゃ行いますよ..」


「頼む」


目を瞑り、そのまま居ると目に何か熱い物が入ってきた。



「終わりました、どうですか?」


俺は静かに目をあけて、不細工な神官をみた。


《エロイ、美しい女神の顔ではぁはぁ言いながら床に倒れている》


この世界に来てはじめて下半身がうずいた。


「成功だ..師団長どの..一生恩に着ます..これ使って下さい..」


「この様な物は頂けません..」


「良いんだ..」


俺は金貨の大量に入った袋を師団長に渡した。


「解りました、これは今後の魔法研究資金と教会への寄付に致します」


「おう、じゃあな..」



俺は走った..街の女が全部、女神の顔に見える..だが、やはり、相手するのはあの5人だ。


「どうしたのですか 翼様」


「皆んな、俺が悪かった...愛している!」


《顔だけだったんだ..顔が真面ならそれぞれが独特の良いスタイルをしている》


「本当ですか? あの永遠の愛は、誓って頂けるのですか?」


「ああ、勿論だ..」


その日の翼は今迄の事が嘘だったように5人相手に愛し合った。



月日は流れ、子供も生まれた...だが生まれた子供のうち、女の子は全員母親と全く同じ顔だった。


30歳になって女性たちの体つきが変わっても顔は若くて美しい女神の顔だった。


美しき女神の顔に囲まれながら...翼は生きていく..


翼が死ぬ時には笑っているのだろうか? 悲しんでいるだろうか? 


その答えは 勇者 翼しか知らない...



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