第22話 徹夜明けの朝錬
ようやく、小学生の分の勉強が終わった。
この世界の勉強は本当に面白いな..
僕は公爵家に生まれたから遅くまで勉強する事は苦ではない。
父上の書類の仕事を手伝ったり、場合によっては魔獣の討伐の指揮をとったりして眠れない事が多かった。
また、基本貴族として学ぶ事の多くは詰め込み式なので覚える事は苦にならない。
さてと、明日からは中学生の分がスタートできる。
もう少し頑張れば何とか追いつける..
《もう4時..今日は寝よう》
ピンポーン
《まだ、5時じゃないか..誰だこんな時間に》
ピンポーン
《不審者だといけないから僕が出よう》
「こんな朝早くから誰ですか?って心美さんじゃない..どうしたの?」
「おはよう、翼くん、朝練に誘いに来たよ..まだ起きていなかったの? さぁ着替えて、着替えて!」
「朝練って何?」
「翼くん、剣道部に入ったじゃない! だからこれから練習だよ!」
《そういえば僕は剣道部に入ったんだっけ..そうだった》
「お兄ちゃん、こんな朝早くからどうしたの? あれっ天上心美..さん..」
「どうしたの翼..こんな早くからお客様?」
「はじめまして! 翼くんのお母さまと妹さん、私は天上心美と申します、今日は翼くんを剣道部の朝練に誘いに来ました!」
《本当に剣道が好きなんだな!》
「おはようございます..こんな格好ですみません..母の速野(はやの)です、至らぬ息子ですが宜しくお願い致します」
「私は、まひる...宜しくね心美お姉ちゃん!」
《本物の剣道小町だよ..やっぱり元勇者のお兄ちゃんの彼女はこの位じゃなくちゃね..裕子ちゃんや恵子ちゃん ご愁傷さま》
「こちらこそ宜しくね、まひるちゃん」
「うん!」
直ぐに僕は着替えを済まして準備した。
その間、心美さんはコーヒーを入れて貰って飲んでいた。
母さんもまひるも本当は朝は遅い、明日からは早起きしてこっちから行こう。
今日の朝食は諦めた。
「お待たせ、それじゃ行こうか?」
「うん、行こう!」
「翼 大丈夫かしら? 朝弱いのに続けられるかしらね」
「大丈夫だよ!」
《まひるが翼を認めるなんて、お兄ちゃんとは仕方なく呼んでいたけど、心の中では馬鹿にしていた筈なのに..》
「どうして、そう思うの?」
「だって、お兄ちゃんだから!」
《どうしたのかしら? 何か尊敬しているように聞こえるんだけど》
《だってお兄ちゃんは元勇者だもん!》
「あのさぁ、こんな朝早くに学校に行っても閉まっているんじゃないの!」
「閉まっているよ!」
「じゃぁ、何で?」
「うん、だから天上家の道場で練習しようよ」
確か、天上家で練習するのは週一の約束だったはず..
「あのさぁ..」
「翼くんは私と朝練するのは嫌?」
ズルいよな..こんな風に見つめられたら断れないよな..
「いいんだけど...僕は授業についていけないから勉強もしたいんだけど...」
「あははは、可笑しいの!」
「僕、何か可笑しい事言ったかな?」
「翼くんは馬鹿でも良いんだよ、剣がこんなに強いんだから!」
「だけど、この先進学とか考えたら勉強しないと..」
《母さんは僕に大学に行って欲しいみたいだしな..》
「しなくて良いよ、大学に行きたいなら、剣道推薦で行けばいいんじゃない? 多分、おじい様が何処でも推薦してくれるよ!」
「推薦って..」
「私だって頭は良くないけど、多分推薦で大学に行って学費も免除になると思うよ..翼くんも一緒の大学に行こう!」
「学費も免除かいいな、それ、だけど僕でも大丈夫なのかな?」
「あのさ、翼くんはおじい様より強いんだよ! 実力を見たらさあっちこちからスカウトが来ると思う」
《目立ちたくは無いけど...学費免除で推薦は良いな..母さんも喜ぶだろうし..》
「よくぞ来られた翼殿!」
うわぁ家族総出で門の前に居るよ...
「これはいったい何事ですか?」
「これから、貴方に師事するのです、弟子が出迎えるのは当たり前の事ですわ」
「翼殿..師匠、どちらで呼んだ方が宜しいかな?」
「この前の非礼をお許し下さい..是非未熟な私めにも手ほどき下さい!」
これ絶対、毎日来なくちゃならないよな。
「解りました それじゃ手ほどきしますかね」
「「「「宜しくお願いします(わ)(ね)」」」」
「それじゃ、今日は皆さん普段着で靴を履いて下さい」
「靴を履くのに何か意味があるのかのぉ」
「それは後でお教えします..まずは準備お願いします」
「全員、準備は整いましたわ」
「それじゃ、今から走りに行きますよ..そうですねあの裏山を走りましょう?」
「ジョギングですか、意味は..」
「ごめんなさい..今は僕が教える立場ですよね..終わったら説明しますから今は何も聞かずに..走って下さい」
僕は先頭にたって走った。
一切休まず、獣道の様な山を走っていく。
多分、最初にダウンするのは心美さんだろう..心美さんが走れなくなったら辞めよう。
だが、意外な事に一番最初に走れなくなったのは巌さんだった。
「はぁはぁ、翼殿、もう俺は走れそうもありません!」
「だらしない、ほら僕が押しますから休まない」
《鬼じゃな..やはり》
《剣の鍛錬になったら人が変わったわね..素敵ね》
《僕ももうすぐ走れなくなる..まずい》
《はぁはぁ..私も限界は近いわ》
それからもひたすら山道を走った。
まぁ1時間位休まず、早いペースで走らせたからもういいだろう?
全員に落ちていた木の枝を放り投げた。
輝彦、心美、巌はよけきれずに枝が当たった。
百合子と鉄心は簡単によけた。
「はい、今輝彦さん、心美さん、巌さんは死にました」
「えっそれはどういう事なの?」
「聞くまでもないじゃろう? 気を抜いた所に物が飛んできた..これが小刀とかじゃったら怪我か死じゃな」
「そんな事も解からないなんて、やはり平和ボケしているわね」
「まぁ、そんな所ですね..折角だからもう一つの今日の練習の趣旨も教えます」
「それは一体なんなのでしょうか? 翼くん」
「これは天上流の欠点を無くす訓練なんだよ...だけど、これをすると剣道は間違いなく弱くなる」
「やはり、そうじゃったかの」
「何となくは解かっていましたわね...最初から突き付けてきましわね」
「私は解らないわ..どういう事なのかしら!」
「僕も解らないよ..何がなんだか..」
「俺も解らないな」
「鉄心さんか百合子さん、解ったのなら伝えて貰えますか?」
「儂が言おう..すり足を捨てよ..そういうことじゃ!」
「ちょっと待っておじい様、すり足は一番の基本、それを使わない剣道なんてないわ」
「だけど、心美さん、実際に戦いがあった時には靴を履いている事が多いはずだよ、そんな場面ですり足は使えるのかな、それにこんな山道じゃぁ使えない..だから捨て去る必要があると思う」
「儂は解る、儂の父親は戦争経験者じゃからの..確かに親父は戦争に行った時に軍靴での戦いで苦戦したらしいからの」
「それは別にしても確かに実際の戦いの多くは靴をはいた状態が殆どですわね」
「だけど、剣道の基本はすり足が基本だから、それを学んだら剣道では勝てなくなる、そういう事か!」
「何時かは、すり足を上回る力がつきますが身につくまではそうなると思います」
「儂はもう決めておるぞ、すり足は捨てる..そして親父ですら出来んかった上を目指すのじゃ」
「心美も決めました、戦場で負ける天上流に価値はないわ..翼くんにおじい様とついていくわ」
「僕も同じかな..剣道の才能はそもそも無いから、翼師匠の剣術を学んでみたい」
「私は..考えさせて下さい..」
「俺も」
「そうじゃな、道場の方もあるからの..慎重に考えるのじゃ..」
「その方が良いと思います、此処からは多分思っている以上の事になると思いますから..」
結局、暫く考えるそういう事で今日の練習は終わった。
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