第16話 天上家にて①

「お母さま! 今日これから友達を家に連れて行きたいのだけど良いですか?」


「心美、それは男の子なの? それとも女の子なの?」


「凄く凛々しくてカッコ良い男の子なんだけど」


「男の子! それは心美、解かって言っているのね? ただの友達を連れてくるそう言う意味じゃ無いのよね?」


「うん、お母さまだから先に言って置くけど、心美の全てを捧げて受けとめてくれた人なんだから..」


「そう、解ったわ、お父様にも言っておくわね、全員で歓迎するわよ..」


「うん、歓迎してあげて」




《流石に二人っきりじゃ無いか..》



「どうしたの翼くん..あっ解った、もしかしたら私と二人っきりだと思っていたんでしょう..私は構わないのだけど..今日はね家族に紹介するわ」



「まさか、そこ迄の事は考えてないよ..だけどいきなりお邪魔して良かったの?」


「いいの、いいの翼くんは特別だからね、多分これからも!」


《本当は私の家族はなかなか会えないのよ、特におじい様に稽古をつけて貰いたい人は2年待ちだったりするんだけどね!》


「そう、何か解らないけど嬉しいな、所で天上さんの家族も剣道は得意なのかな」


「私の事は心美って呼んでくれないかな!」


「どうして?」


「だって、私より強いんだからさぁ..そう呼んでくれると嬉しい」


「心美...さん」


「さん..ね、今は良いわ、だけど何時でも心美って呼んでくれて構わないからね、それでうちの家族なんだけど、全員、剣道は得意だよ」


「強いの?」


「強いよ、兄さんを除いて全員が私より遙かに強いよ! もう達人って呼ばれる位にね!」


《どの位なのかな? 騎士位かな? まさか騎士団長位..王都にいる宮廷騎士位並み..この世界の強さが解らないけど凄く楽しみだ》


「それは凄く楽しみだ」


「やっぱり、翼くんは私と同じだね...多分うちの家族も楽しみにしていると思うよ!」


《やっぱり私と同じだ..強い人の会えると思うとワクワクするよね》


「そう? ご期待に沿えると良いんだけど」


「沿えるよ、絶対に私がそのね..見込んだ人なんだから..」



「お嬢様迎えに来ました」


「えっ車、何で!」


「百合子様が早く会いたいという事なので私めがお迎いに参りました」



「そうありがとう、それじゃ翼くん 乗って乗って!」


《初めての車..緊張するな》


「うん、解かった、だけどこの車凄いね、何時も送り迎えして貰っているの?」


「いつもは歩き、その方が足さばきを覚えられるから..今日は特別よ、翼くんを招待したからね」


「そうなんだ」


《あの気難しい心美お嬢様があんなに笑顔でいるなんて..信じられない》


「どうしたの加藤?」


「いえ、何でもありません!」


「そう、なら良いわ」


《何時ものお嬢様だ、あの少年にだけなのか!だけど少年これからが大変だ、君が行く所は...地獄なのだからな》


「加藤、今度は翼くんをみつめてどうかしたのかしら?」


「本当に何でもありません」


「だったら早く車をだしたらどうかしら?」


「はい」




「着いたわ、此処が私の家、道場と家が一緒になっているのよ!驚いた?」


「道場なんだね!」


《余り驚かないのね!これ見て何も動揺しないなんて流石翼くんだ、普通は門構え見ただけで驚くのに》


「さぁ、入って入って」



僕は心美さんに手を引かれてついていった。


そして、着いた先は道場だった。


やはり、世の中そんなに甘くない、こんな綺麗な心美さんと簡単に仲良くなれる筈が無い。


家に招待して貰ったと思いちょっと舞い上がってしまったけど、道場への招待..一緒に剣の練習がしたかっただけなんだ。


まぁ良いや、剣術は大好きだし。



「ようこそ天上家へ私が、心美の母の百合子と申します」


「ご丁寧に、綺麗な方なのでお姉さんかと思いました、僕は..」


「まだ、名乗らなくて結構です。 またお世辞も結構です、その後を聞くかどうかは私達と立ち会ってからにしましょう? あっ勝たなくても結構です、己の強さを示せばそれだけで充分ですわ」


「少年、俺は名前もまだ名乗らんよ..此処は天上家、名前を名乗りたいなら、名を教えて貰いたいなら剣で示せ」


「僕も同意だね」


「わっぱ、まぁ気張らず頑張れや」




「ごめんね、翼くん、家ってこんな家なんだ!」


「謝る事ないよ、強さに正直な事は良い事だよ..」


「そう言って貰えると助かる..頑張ってね」


「解った」



「随分と心美はその少年を買っているのね何故かしら? 母さまにはただの優男にしか見えないわ」


「翼くんは心美が全てを捧げた人です。当たり前の事ですわ」


「そう、解ったわ..母さまが目を覚ましてあげるわ、最初から私じゃ大人気ないわ、輝彦貴方が相手なさい!」


「やっぱり僕が最初な訳ね、はいはい、心美んに恨まれたくないけど仕方ないね!」



「お兄さま、最初にいっておきますが、翼くんはお兄さまより遙かに高みに居ますわ」


「はははっまさか..強い剣士なら僕が知らない訳無いよ..だけどこんな奴..知らないな..」



「輝彦、慢心するのは貴方の悪い癖ですよ..さっさと始めなさい」


「ほら、竹刀だ、解ったよ母さん、じゃぁどこからでもどうぞってね」


「それは始めて良いって事ですか?」


「ああっ何処からでもきたまえ」


「防具はつけなくて良いんですか?」


「君相手には要らないね、君はつけても良いよ?」


「僕も要りません」


《全身、隙だらけなんだけど良いのかな? だけど剣士なんだから多分これは誘いだよね》


まずは小手調べだ..一見油断させておく作戦なのかも知れない。


僕は飛び込む様にして間合いに入った、そしてそのまま頭めがけて竹刀を振り下ろした。


こんな軽い物じゃ致命的な物にはならない、だから振り下ろす際に竹刀に思いっきり力をいれ振り下ろす必要がある。


騎士が戦場で剣で甲冑の上から殴る様な方法、これなら多少はダメージを与えられる筈だ。


バシッ


「えっ..」


「馬鹿が過信しずぎじゃな」


そのまま輝彦は気を失った。


「凄い、凄いわ翼くん..こんな技も知っているなんて..」


「お父様、あれはまさか、薩摩」


「うむ、示現流に近いが微妙に違うかもしれん、なかなかやりおる」



「やれやれ俺がやるのか、正直輝彦に勝ったんだから、心美の友達なら充分じゃないか?」


《友達ならそれでいいでしょう! だけど、貴方、心美を見て見なさいな..あれを》


《そうか、将来の結婚相手候補、そこまで考えろと言うのか?》


「少し、大人気ない気がするんですがね」


「油断するでないわ..あの子まだ引き出しをもっていそうじゃ」


《お父様がわっぱじゃなくて、あの子..貴方じゃ荷が重そうね》


「貴方、油断しないで」


「お前迄、まぁ良い本気で行くよ」


「くれぐれも気をつけて」




「少年、さっきお前が倒したのは輝彦、心美の兄だ、その分だと心美にも勝ったのかな? まぁあの子が連れて来たという事はそういう事だな」


「えっまぁはい!」


「だが、どちらも日本一には一度も成っていない未熟者だ...本物の剣士の技をお見せしよう」


《お見せしようと言われてもね..確かに強そうだけど..殺気が全然ない...多分人を殺した事もないし、本当の地獄を味わってないんだろうな》


「楽しみにしていますよ」


「そうか」


凄い勢いで竹刀がうなりをあげている。


《確かに速い、当たったら竹刀でも怪我をするかも知れないね..だけどさ当たらなければ意味がない、前の世界では訓練でも実剣でやってたんだ、当たれば死ぬかも知れないそれを体に沁み込ませるためにね》





「凄いわ翼くん、お父さまの剣を簡単に凌いでいるわ..」


「本当に凄い子ね、謝っておくわね、貴方は本当に良い子を連れてきたわ...はぁ私の方が男を見る目が無い、そういう事ね」


「そうじゃな、巌は押されていそうじゃな..最近少しは腕をあげたがそれだけじゃ、実際に 「私に勝てたら」という条件はクリアしないで結婚したんじゃから半端もんじゃ」


「お父様、そんな事言っていたら私、いき遅れてしまいましたわよ、私は強いですから..下手すりゃ一生結婚なんて出来くなります」


「だが、その子はどうじゃ、子供なのに巌より強いではないか?」


「....そうですわね..」




「ちょこまかと逃げるなんて男らしくないぞ!」


「解りました、それじゃ逃げません!」


《ふぉふぉ今度は正面から行くのかの..》


《流石にこれで主人の勝ちは決まりましたね、豪剣の巌..正面から戦えば負ける筈がありません》


《まだ解らんよ、まだあの子何か持っていそうじゃわい》



「翼くん、なんでそのまま行けば勝てたのに..」


「うん、これは勝ち負けを決める試合じゃないでしょう? 僕という人間を知って貰えれば良いんでしょう?」



《あの子の勝ちじゃな..あの剣戟の中、心美と話ししておるの》


《しかも余裕迄ありそうですね..》



「だけど、心美さん、僕は負ける気はないよ..本気で正面から行ってみたい、そう思っただけだから、行きます!」


「何! この俺が押し負けるだと..」


「手数を出すやり合いも楽しいですが、こういう力対力のせめぎ合いも楽しいですね」


「子供でその力..とんだ化け物だね少年...だが悪くないなこういうのも」


「そうですね...」


「俺の名前は巌だ、天上巌、認めるぞ、その力を」


「ありがとうございます! ですが、これで終わりにさせて頂きます」


「こい、少年」


僕は巌さんの竹刀を絡めとるようにいなしてそのまま頭に竹刀を叩き込んだ。


そして距離をとり..構えた。


「少年、お前の勝ちだ」


「えっですが、まだ巌さん動けるじゃないですか?」



「待て、待て、お主何か誤解しとらんかの?」


「まさかルールを知らないの?」


「ごめんなさい、翼くん、翼くんは剣道を知らなかったのを忘れていたわ」



「ともかくこの試合はお主の勝ちじゃ」



はぁ、そうだったんだ、ただ当てるだけで良かったんだ...てっきり動けなくなるまでやるもんだ、そう思っていたよ。





「だから、あんなに勢いをつけていたんじゃな」


《そんな発想は古武術位にしかないのぉーより実践的じゃな...だが誰がこの子を指導したんじゃ.》


「凄いわね、翼さんで良いのね、覚えたわ、心美とのお付き合いは許しましょう..ですが今度は私が相手ですわ」






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