第15話 天上心美
私の名前は天上心美。
天上流道場の娘として生まれた。
兄はいるのだけど、剣の才能が余り無いので、多分跡取りは私になると思うわ。
最も才能が無いとは言うけど...全国大会にはでているのだけどね...
そういう私は「剣道小町」なんて言われているけど、どうしても勝てない人が1人いる。
それが悔しい私は殆ど毎日剣道漬けの日々を送っている。
天上家は剣道第一主義の家だ。
お母さまは、「鬼百合」と呼ばれた女剣士で剣の世界で知らない者は居ない。
お父様は「豪剣」と呼ばれてお母さま程じゃないが有名だ。
どちらが強いのかと言えば天上家に生まれたお母さまだが、一撃の強さならお父様かも知れない。
そして、その二人が敵わないのがおじい様だ。
おじい様は2人より更に高みに居る...そんなおじい様には2人がかりでも敵わない。
剣聖なんて呼ぶ人も居るがおじい様曰く「まだまだ修行の身じゃよ、その呼ばれ方は過分すぎるのぉ」と断っていた。
だけど、日本、いや世界でもおじい様に勝てる人なんて思いつかないから剣聖でいいんじゃないかな? 私はそう思っている。
何が言いたいのかと言うと...私の人生は過去もこれからも剣道が中心だ。
それ以外は考えられない。
他の女の子に言わせると「可哀想」とか言われるが、私は剣道が死ぬ程好きなんだからこの環境は持って来いだ。
そんな私はいつも1人で剣道部の道場で竹刀を振っている事が多い。
何で1人なのか? それは全員辞めちゃったから..
最初は女子剣道部にいたのだけどね..練習で張り切っていたら..気が付いたら皆んな辞めちゃったの..
天上家の娘で中学から実績のあった私は、推薦でこの学園に入った...だから強くしなくちゃならないのよ。
だから、練習メニューの変更をお願いしたのよ。
そしたら馬鹿扱いされた挙句、可笑しな人扱い。
最終的には「貴方がそのメニューで出来るならやってあげるわ」って言うからやってみせたのよ。
私が出来たんだからやるのが筋よね。
「とりあえず、素振り200回を5セットしようか?」
そんな練習を続けたら二日よ! 二日で全員が辞めちゃったのよ信じられないわ..かなり練習量落としたのに。
女子剣道部が無くなっちゃったから..そのまま男子剣道部に吸収される形になったの。
本当に嫌だったのだけどね、剣道部に所属しないと大会に出られないから仕方ないのよ..
人の着替えを覗くような人も居たけど我慢したわよ..まぁ実力行使してきたら殺すけどね..
だけど許せないのは、練習について来れない事よ..
素振り3000回もまともに出来ないし、私がちょっと本気で掛かり稽古したらさぁ、直ぐに立てなくなるの?信じられない。
この私が覗きまで許してあげたのにさ..結局、最後は「もうついていけません」とか「幾ら心美さんの傍でも地獄には居たくない」とか言って居なくなっちゃったわ。
本来なら私1人の剣道部なんて認められないんだろうけど、実績を残しているからそのまま認められているわ。
全国大会個人戦2位、剣道小町の看板があるからかしらね...
ただ、1人になってからが煩いのよ..勝手に見学しにくるわ..剣道に興味が無いのに入部希望者がでるわ...
その殆どが「私目当て」最初は親切に対応していたのよ..だけど、全員が剣道に興味がない人ばかり..
挙句の果ては「君みたいな人に剣道は似合わない」なんていう奴迄いたわ..私から剣道をとったら何も残らないのに..馬鹿じゃない。
だから、無理やり引きずり込んで練習に付き合わせていたら、最近は随分減ったわね。
私と付き合いたいなら「死ぬ程、剣を磨きなさい」それしか言えないわ。
だって私自身が剣しか無いんだもの。
私にとって人と本気で付き合うという事は剣の延長にしかありえないのだから
そしてそう言う人じゃないと私だけじゃなく、私の家族ともつきあえないのだからね
そんな人なかなか居ないわね...剣道の大会の全国大会ですら居ないわ..
まぁ、女ならカマキリに似たブサイクなのが居るけど残念ね、貴方が男ならライバルじゃなく恋人になれたのに
不細工でも別に良いのよ..真剣に剣に打ち込んで居ればね..
なんて思っていたんだけど...
運命は怖いわ..突然現れるんだもの。
私が竹刀をいつものように振っていると視線を感じたのよ..
それがね舐めるように全身みているからさ、注意したのよ..まぁ多分覗きかなそう思っていたんだけど..
見学したいというから仕方ないなと思ったの..
そうしたら、また舐めるような視線で見てくるからさぁいい加減頭に来たのよ..
「さっきから何をブツブツ言っているのかしら? 剣道に興味がないなら出ていってくれない?」
不真面目だと思ったわ。
そうしたらさぁ、よりによって私の剣にケチをつけてきたのよ..正直腹がたったわ、剣一筋に生きている私に向ってね..
「いや、まだまだ甘いなと思ってさ」
何ふざけているのかしら? 人の人生否定する気なの? 喉でも突いて黙らせようかしらね!
だけど、そんな事したら問題になるわ...だから少し我慢してあげる事にしたのよ..
何処が甘いか聞いてあげるわ!
「私の剣の何処が甘いっていうのよ! 聞き捨てならないわ、天上家の剣にケチをつける気!」
「気に障ったのなら謝りますごめんなさい」
「謝らなくて良いわ、嘘じゃないなら指摘してみなさい!」
「剣道に当てはまるか解りませんが..まず第一に下半身の強化不足に攻撃の軽さ、ただ見ただけでその二つが浮かびますね」
《多分、嘘ね だけどもう少し茶番に付き合ってあげるわ》
「本当にそうなのかしら? だったらどこが悪いか答えてみなさい!」
そうしたら素振りをさせるのよ、そして私の体を触って来るのよ!
やっぱり! そういう奴だった..最低ね、だったら少し痛い目に遭って貰うわ、貴方が悪いのよ!
「危ないな、当たったら痛いじゃないですか?」
《嘘、何で躱せるのよ..何で》
「当てようとしたのよ!..だけど、なんで嘘躱せるの?」
「この位なら..」
完全に死角を突いた筈なのに...信じられないわ、まぐれよ! まぐれ! だけどまぐれとも言い切れないわね
良いわ、見極めてあげる。
「あのさぁ、貴方から見て私は未熟なのよね、だったら貴方の剣を見せてくれる!」
「いいですよ」
本物なのか偽物なのか見てあげる。
「何、その構え! マンガか何かの真似? そんな変な構え剣道に無いわよ!」
やっぱり嘘だったのね失望したわ..私を騙したのね..
「僕のは剣術ですから..」
もう何も期待して無いわやって見なさい、馬鹿にしてあげるわ心が折れる位罵ってあげるわ
「そう、剣術ねはいはい..じゃぁどうぞ!」
「それじゃ..」
嘘嘘嘘..凄く綺麗、こんなの見た事ないわ、見誤っていた、この人私より遙か高みにいるわ..お母さまと同じ位の所に、素直に謝るわ。
こんな事できる人が居るなんて。
「凄いわね...貴方、ごめんなさい謝るわ、私の甘い所教えてくれる!」
こんな凄い人から指導を受けれるチャンス見逃がせないわ..土下座してでも教わりたいわよ。
もう触られたって気にならないわ..ちょっと恥ずかしいけど..
ここでようやく私気がついちゃったのよ...この人、凄い美少年なんだって、私って本当に可笑しいのよ、剣に関わってないとアイドルだってジャガイモに見えちゃうの...
この人と並んだら..うん私の方が見劣るわね..まるでそうね、佐々木小次郎みたい..剣が強くて優雅でカッコいい..うん。
正直教えて貰った事は何となく解った。
だけど、それが出来るようになるとどうなるのかしら?
「あのね、それで教えて欲しんだけど!それが全部出来るようになるとどうなるの?」
私より高みにいるんだから言葉使いも変わるわよ..ええっ。
「最初は今迄の心美さんの形」
嘘でしょう、凄い凄いって思っていたけど、見ただけで私の型が出来るようになるの!..
「それで、これが課題を全部クリアした型」
嘘でしょう、こんなに見違えるように変わる訳..こんなのお母さま、いやおじい様からだって教わって無い..
「凄いわ、全然違うわ..明らかに速いわ」
「まぁ、こんな感じですかね..」
さらっと言うわね..天上流の新しい形を貴方は教えてくれたのよ..それなのに..もう我慢できない!
「ありがとう、それで良かったら、一緒に素振りしない? 1000回位!」
「ありがとう、それじゃしようか?」
「はぁはぁはぁ、凄く気持ち良いわね、今度は私が打ち込むから受けてくれる?」
凄く打ち込みやすいわ...私にあわせてくれているのよね...
「はぁはぁはぁ、凄く良いよ..本当に凄く..私の全てを受け止めてくれる? くれるよね? 」
「本気で攻撃するから全部受け止めて頂戴..」
「凄い!凄い! はぁはぁ..本当に凄いわ、これもあれも、全部受けてくれるのね..はぁはぁはぁだったらこれはどう..」
「凄く気持ちい...いいわ..本当に、この時間が終わってしまうのが勿体ない位..本当に気持ち良いわ!」
本当に良いの、本当に良いのね..
「ずるいわ..私ばかり本気になって翼はすましていて、はぁはぁはぁ本当にずるい!」
私は剣道家なのよ、私が好きな人に捧げるのは他の女の子と違うの..
私が捧げるのは「剣」なのよ..私にとってこれはね心を捧げるのと同じなの..
これを捧げるという事はね「私の全部を捧げた」って事なのよ..
普通の女の子が「好きな男の子に体を捧げる」のと同じ事なのよ..
凄いわね、全部受け止められちゃった..
「凄かったわ、本当に私の全てを受けきっちゃうなんて、翼...いえ翼くん..今日私の家に遊びに来ない!」
私は今日初めて男の子を家に誘った。
だって、全部捧げられる男の子に出会えたんだから仕方ないと思うの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます