第8話 授業と帰り道と妹達

《ふぅ何とか遅刻しないで済んだ》


そのまま、靴箱で靴を履き替え教室に向かった。


相変わらず、僕を見ながら女の子達は何か喋っている。


クスクス笑いをする子もいるから、何か馬鹿にされているのかも知れない。



《転校生なのかな? 初めて見る顔だけどカッコいいね》


《私もそう思う! あんな子を見逃す筈は無いから多分転校生だよ》


《芸能人やモデルでも..居ないよね、あのレベルは》



少しずつでも誤解を解いていかないと、せっかく綺麗な女性に囲まれているのに嫌われているのは悲しい。


「おはようございます!」


まずは挨拶から始めよう。


「「「「おはよう!」」」


うん、知らない女の子達だけど挨拶が返ってきた、少し嬉しい。


まるで天使の祝福なような笑顔..見ているだけで幸せになる、そんな笑顔..だから思わず僕は


「ありがとう」


精一杯の笑顔で返した、到底天使の笑顔には届かないけど。



名残惜しいけど、残念ながら急がないとホームルームに間に合わない。


「それじゃぁ..」


軽く、挨拶をして教室へと急いだ。



《ありがとうだって..あれきっと私に言ったんだ..》


《ちょっと図々しいですわ、あれは私に向けられた笑顔なのです》


《そんなわけ無いじゃない? あのお礼と笑顔は私の物です》


《あっ、又会えますわ..きっと》




「皆んなおはよう!」



「はい、おはよう」


「おはようさん」


「おは」


男女まばらだけど挨拶が返ってきた。


まぁこんな物かな。


《天空院が挨拶なんて珍しいな..》


《昨日いった事は本当なのかな? 挨拶かぁ初めて見たわ》


《まぁ良いんじゃないかな、挨拶したら返してあげても》


とりあえず、席についた。


カバンを置き教科書を出して授業の準備をした。


こうして、授業が始まったんだが...翼って馬鹿だったんだ。


《可笑しいな、翼の記憶が少しはある筈なんだが、全然解らない...》


《いや、言っている意味は解るけど、答えが思いつかない》



「それじゃ、天空院次の問いを答えなさい」


《全然解らない..くそトリスタンの名を持つ僕が解らないなんて、なんて生き恥だ》


「解りません」


「お前はいつもそればかりだな...もういい座りなさい」



「それじゃ、この問いが解る者」


「はい」


「それじゃ緑川」


「はい、それは、X=18-2になります」


「うん、正解だ」


《これは問題だ、僕が居た世界よりかなり進んでいる、翼が馬鹿なのもそうだが、僕はそれ以上に解らない、今日からもう勉強しないと》



はぁ自己嫌悪だ..何も解らない..



「あのさ..昨日謝ってくれたからいうけどさ..少しは現実に目を向けて頑張った方が良いと思うよ!」


「そうだね..頑張らないと不味いと思う」


《あれっ本当に素直だ》


「そうだよ、根拠のない<自分は選ばれた人なんだ>とか言っていると落第しちゃうよ?」


「そう思います ありがとう 氷崎さん」


「素直に聞く気になったんだね、だったらこれからは少しは身をいれて勉強する事いいわね」


「解った、ありがとう氷崎さん」


「余り素直なのも気持ち悪いわね、だけど貴方が1人勉強しないからクラスの平均点が下がるのよ、少しは頑張りなさい」


「解った、僕、氷崎さんの為にもクラスの為にも頑張るよ」


「べべべ勉強は自分の為にする物よ、他の人の..為にするものものじゃないわ」


《私が噛むなんて、可笑しいな、きもい筈の翼に一瞬ときめいてしまった..こんな人に..気のせいだよね、うん気のせいだ》


「解った、頑張るよ!」


「解ったなら良いわ」




《珍しいな、天空院が氷崎の忠告を素直に聞くなんて》


《昨日、謝った事嘘じゃ無いのかな?》


《少なくとも今日は女の子の悪口1回も言ってないよね》


《まぁそのうちボロがでるんじゃないの?》


《人間、そう変わるもんじゃないって》


《そうだよね》





しかし、翼って駄目人間じゃないか!


良くこんな駄目人間が「王よそれは違う、民という物は~」とか「貴族の諸君、貴族たるもの矜持が~」なんて言えたな。


授業に追いつけない僕が言えた義理じゃないが、どう見てもこのクラスで一番の馬鹿だろう。


「馬鹿の癖に他人より優れていると思い見下し、虚勢を張り、指摘されると切れるか変な話で煙に巻く」そんな人物だったんだな。


正直、女癖以外では僕は尊敬していたんだが...「僕の尊敬を返せ」そう言いたくなる。



今日一日は生き恥地獄だった。


さてと帰ろう..


「さようなら!」



「うぇ、私にいったのか、さようなら」


「はいはい、さようなら」


「じゃぁね」


「おう、じゃぁな」



やはりまばらだな...




《ねぇ、天空院くんだけどさぁ》


《挨拶はするようになったね》


《今迄は挨拶しても無視だったのに...》


《今日は自分から挨拶してたよ》


《変わろうとしてんじゃねえの》


《まぁ、氷崎の話も珍しく真面に聞いていたしね》


《まぁ暫く様子見た方がいいんじゃね》


《今迄が今迄だからね》





今日はどうするかな?


あれっ、まひるじゃないか、横にいる二人は友達かな? 


やはり、兄妹なんだから挨拶位はするべきだろうな。


「まひる、今帰り? 横に居るのは友達?」


「お兄ちゃん何で?」


《うわぁ、よりによってこんな所でお兄ちゃんに会っちゃったよ...最低》


「今、学園の帰りなんだけど、見かけたからさぁ..そうだ、初めまして、まひるの兄の翼と申します、これからも妹を宜しくお願いしますね」


《見られたくなかったな、まぁこの二人はお兄ちゃんがキモイってちゃんと話していたから良いか..》


「もう、お兄ちゃんあっちに行ってよ!」


「解った、直ぐに行くからそう言わないで..それじゃね、まひるを宜しくね」


「.....」


「......」





「ごめんね、お兄ちゃんが不愉快な思いさせて、もう話掛けないように言うからさぁ」


「あのさぁ、まひるちゃん、お兄さんの事オタクでキモイって言って無かった?」


「えっキモイじゃん」


「どこがキモイのかな? まひるってブラコンだったんだね、あんなカッコ良いお兄さんだから紹介したく無かったんだ...」


「えっ、何の事?」



「まひるちゃん、酷いよ、私の好み知っているよね、それなのにさ...あんな綺麗なお兄さんが居た事黙って居たなんて、親友なのに」


「何言っているか解らないよ?」


「うちのお兄ちゃんが真面で羨ましい? あんな王子様みたいなお兄さんが居るのに! 可笑しいよ!」



「まひるちゃん...わたし、親友に嘘はいけないと思うの!」


「そうそう、親友は喜びを分かち合う物だよね!」


「二人とも何だか怖いんだけど..いったい何なのかな..」


「いい、まひるちゃんこれからの答え次第で、私付き合い方変えようと思うの」


「私もそうだよ」


「本当に何なの、さっきから怖いよ! 本当に何言っているか解らないし」


「「お兄さんを紹介して!」」


「冗談だよね?」


「だってねぇ、凄くカッコ良いんだもん、あんな男の人が居るなんて..信じられないよ」


「あんな綺麗な男性と一緒に暮らしているなんてまひるが羨ましくてなりません..で紹介してくれるよね?」


「冗談でしょう! 悪い冗談はやめて怒るよ!」



「まひるこそ、酷いよ、幾らブラコンでも紹介位してよ親友でしょう?」


「そうだ、そうだ、紹介位してよ、親友なら」



「私はブラコンじゃないから..だけど本気なの?」



「「本気です」」


「ちなみに紹介しなかったら?」


《何が気に入ったのか知らないけどさぁ お兄ちゃん平気で人を傷つけるからな..紹介したくないよ..話もオタクみたいな話しかしないだろうしな》


「親友辞めちゃおうかな?」


「LINEOの登録外しちゃおうかな?」



「本気で言っているの?..はぁ仕方ない..良いよ紹介するよ..だけど、毒舌だから嫌な思いしても私のせいじゃないからね」


「うん、あの王子様キャラなら許しちゃう」


「そうそう、漫画の毒舌イケメンキャラ、いいね」


「それで何時紹介すれば良いの?」


「「はぁ..何言っているの今でしょう!」」


「なに」


「これから、まひるの家に遊びに行くから紹介してよ」


「そうそう、お兄さん帰ってくるまでずうっと待っているから宜しくね」


《これ、何かの虐めなのかな? 違うよね、気持ち悪いお兄ちゃんを見て馬鹿にする虐めじゃないよね?》


「いいよ、解ったよ」


「あれっまひる 何で泣きそうな顔しているの?」


《そんなにお兄さん紹介するの嫌なのかな、だけど友情と恋愛は別物よ》


《そりゃそうか、ブラコンだからそうかな...だけどこれは譲れないよ》


「別に何でもない」


はぁ、足が凄く重い...帰りたくないな...


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