第8話 幼馴染はお邪魔する
「おにーちゃん……いーや、みおのだんなさん! おはよおー!」
「……ああ、澪、おはよう」
――日曜日。
朝に旅館から帰り、昼になった。
ソファーで少し昼寝をしていると、澪が馬乗りになり、俺の顔を覗き込んでいて、俺は身動きできなくなる。
「一緒にごろごろしよーよ!」
「……ああ、いいよ」
「やったあ!! じゃあ、おにーちゃんは、みおの太ももに頭を置いてね!」
寝ぼけていたのもあって、俺は澪の柔らかな太ももに頭を置いた。……すごく心地よい。
「ころころーころころー」
と、最近おしゃれづいてきた澪が、小顔ローラーをころころしてくれる。最高のASMRだ……至福。
「きもちいいですかー」
「ああ、気持ちいいよ」
癒しの時間を過ごしていると、急にドアフォンが鳴り、俺はがばっと身を起こした。
「おい透、開けてくれ」
「わかったよ親父」
新聞を読んでいた親父に適当に返事をすると、俺は玄関を開け、
「お、おじゃましますっ!」
「サクラぁ……!?」
サクラが、恥ずかしそうにしながらも、家に入ってきた!?
「お、来たか、サクラちゃん」
「あっ、お邪魔します!!」
「おい……親父、どういうことだよ」
すると、親父は当然のごとく言い放つ。
「どういうとこもなにも。サクラちゃん、今日、家に泊まるから」
「「はああああ!?」」
俺と澪で絶叫していると、親父はよいしょと言って立ち上がる。
「じゃ、あとはよろしく。サクラちゃん、こいつらが変なことしたら、遠慮なく罵ってくれれて結構」
「はいっ!」
「お、おい親父、説明しろーっ!!」
「しろーっ!!」
と、親父は荷物を抱え、玄関へと進んでしまう。
「俺は今日から出張なんだ。で、サクラの家の両親も、たまたま出張が被った。てことで、今日は三人で仲良く過ごせ」
「そういうことはもっと早く……っ!」
「そーだよ、親父のあんぽんたん!」
「がはは、とにかく、また明日!」
そういうと、親父はさっさと家を出ていってしまった。
残された、三人。
……気まずい!!
「サクラさん、私たちのハッピータイムを壊してくれてどうもありがとう」
「こちらこそ、トオルとのラブラブナイトの予定をぶっ壊してくれてありがとう」
「お、お前ら……落ち着いて……」
と、サクラがわざとらしく手を絡めてくる。
「ねえトオル、トオルは私といたいよね?」
と、反対側に澪が抱きついてくる。
「おにーちゃんは、みおと一緒にいたいんだよね?」
おおぉ……誰かお助け……。
「「ねえ、どっちにするの?」」
「と、とりあえず、早めの夜ご飯にしよう! うんそうしよう!」
俺が声高らかに宣言すると、怪訝な顔をする二人。
「まだ5時なんだけど」
「みお、お腹へってなーい」
「まあまあそう言わず。美味しいものを作ろうぜ?」
「まあ、トオルがそういうなら……」
「おにーちゃんがいうならいーよ!」
修羅場すぎる。殺気が痛い。
どうにか切り抜け、俺はふうと息をついた。
「どーなつ! みお、どーなつ食べたい!」
「それ、夜ご飯じゃないだろ、もはや」
「いいじゃない、私もドーナツがいい!」
「わかったよ……」
と、サクラがテキパキと材料を用意し、一時間もすると、ほわほわと湯気をあげるドーナツができた。
「う、うまそう……」
「はい、あーん……トオル」
「おにーちゃん、あーん!!」
「むぐっ!?」
両側からドーナツを口に突っ込まれ、俺はもごもごと口をつまらせる。
「んふ……トオル、かわいい」
「サクラさん、おにーちゃんをじろじろ見ないでくれる?」
「なによ、そっちこそ」
「お、俺、お風呂入ってくるわ!!」
険悪なムードを断ち切りたくて、俺はその場から猛ダッシュ、お湯を沸かし、沸くなり風呂に飛び込んだ。
ふうと長いため息をつくと、俺は湯船に体をうずめた。
「……二人の間に何があったんだよ……」
俺は立ち上る湯気の中、はあとため息をつく。
このままじゃ、今夜を乗り切れる自信がない。
「トオル、入りまーす」
「っ?!!?」
途端、がらりと扉が開けられ、湯気の中に一人の少女――サクラをとらえ、俺は息を呑んだ。
「サクラ、おい、な、なにして……」
「なにって……一緒にお風呂、入ろうかなって……」
「はあ!?!? 出てけ!!」
「昔、よく一緒に入ったじゃん? ダメ?」
桃色の瞳をしばたかせ、サクラの姿がようやくあらわになり、俺は慌てて目を伏せる。
バスタオル姿。破壊力あり。
細い脚をさらけ出し、巻かれた髪をいじりながらも、サクラは近づいてくる。
「とっ、とにかく出てけっ!!」
「なんでー?」
サクラが前腰にかがみ、拍子に大きな胸がはだけ、俺は顔を真っ赤にする。
「や、やめてくれ……」
「いいじゃん、入るよ??」
サクラが入ってこようとした瞬間、バンっ!!!! という爆音とともに、風呂場の扉が開け放たれた。
「おにーちゃん、一緒にはいろー!!」
「おっ、おま、ばっ……!?!?」
「妹ちゃ……!?」
――よりによって、澪は全裸だった。
……今、風呂にはいるべきではなかった。俺は馬鹿だ。
その時の俺にできたことは、
「た、頼む……出ていってくれ……」
そう、二人に拝むことくらいだった。
☆
「サクラさんのバカ。バカバカバカ」
「妹ちゃ……澪ちゃんのせいよ。お風呂を覗くとか言い出すから!」
「…………」
俺が着替え、真っ青になりながらもリビングに行くと、二人が同時に振り返り、愛想笑いを浮かべた。
「お兄ちゃん……ごめんね」
「ごめんなさい」
「許さない」
「ごめんってー!!!」
俺はソファーに転がると、二人の顔を見ずに指示する。
「お前ら、風呂に入れ。その後、俺の部屋にある二段ベッドで寝てくれ」
「えーお兄ちゃんとねたーい」
「ワガママ言うな」
「ひーんっ」
「いいから寝ろーっ!!」
俺はそう叫ぶなり、毛布にくるまって背を向ける。
「……じゃ、行く?」
「ん……」
二人が去ると、俺は小さくため息を付いた。
まず、覗いてきたあいつらが悪いんだからな……な!!
と、睡魔に襲われ、俺はすうと、意識を失うようにして眠りについた。
「おにいちゃん、寝ちゃったあ……」
「ほんとだ……」
お風呂から出ると、澪はトオルに恐る恐る近づいた。
「やっぱ寝てる」
「そうね……」
サクラはしばらく考え、そして、赤い顔をして、ソファーにダイブした。
「さ、サクラさんっ!?」
「私、今日、トオルと一緒に寝るから!!」
「え!? み、みおもーっ!!」
澪もソファーに飛び込み、トオルに密着した。
「サクラさん、私の部屋のベッド使ってもいいんだよ?」
「澪ちゃんもね」
お互い譲らず。
しばらくすると、トオルをはさみ、二人はトオルに抱きつくようにして眠っていた。
――いや、サクラだけは起きていた。
「トオル……」
彼女がそう言って、そっと頬に唇を重ねていたことは、誰も知らない。
――次の日。
「お前らアアアァァッ、どういうことだあああぁぁああ!!!!!!」
親父の大絶叫で、俺は目覚め、真っ青になった。
学校に行きそびれ、さらに……はあああ!?!?
誤解されかねない格好で、俺が寝ている……なぜサクラと澪が、俺の横に!?!? しかも、抱きつかれてるんだけど!?!?
「お前ら、全て話せ!!!! でないと許さん!!!! 不純だ!!!!!!!」
「「「違うッッッ!!!!(泣)」」」
その日、俺たちは三時間かけて親父に弁論した。
もうこんなのはこりごりだ、普通の日常を誰か返してくれ……!!!
生き別れの妹がかわいすぎる件。無知すぎて家族の域を越えようとしてくるのだが、それでもかわいいものはかわいい。 未(ひつじ)ぺあ @hituji08
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