第7話 可愛い妹にプロポーズする
「トオル、澪、お知らせだ!」
土日、親父がいきなり部屋でのんびりしている俺たちを呼んだ。
馬鹿デカい声で叫ばれる。これ、絶対隣人に聞こえてるよね。
「なーにー」
「なんだ」
これ以上親父が叫ばないために、二人そろって慌て気味に一階に降りていくと、親父がサングラスを付け、ボストンバッグを持って、にやりと笑いかけてきた。
変人だ。なぜ室内でサングラスをつけている。ボストンバッグも似合わねえし。
「お前ら! 今日は、旅館に行くぞ!!」
「「ええええぇえ!?」」
いきなりの親父の発表に、俺たちはただぽかんとすることしかできなかった。
☆
「おい澪! さらっと俺のパンツを入れるな! 返せ!」
「そういうそっちだって、私の靴下入れてたでしょー!」
「知らねぇよ、間違って入ったんだよ! 返すから返せ!」
「ごめんね、もう入れちゃったし!」
親父が『三十分後に出発するぞ! 準備をしてこーい!』と無茶を言うせいで、澪に俺のパンティーを取られた……くそっ!
なんとか準備を終わらせ、澪と共に車に飛び込む。
「はぁはぁ、親父の無茶ぶりはいつものことだが慣れない……」
「そーだそーだ」
「がはは! では、そういう澪に、プレゼントだ」
いや俺は? なんていう突っ込みはさておき、親父は澪に手のひらほどの大きさの箱を渡した。
「うわぁ……なあに、これ」
「開けてみろ」
澪がその箱を開くと、中に入っていたうすい液晶ガラスが、澪の顔を反射させた。
「んぇっ……これって……」
「そろそろお前にもいるかと思ってな。……スマホだ」
「すまほっ!!!」
澪は顔を輝かせ、箱からスマホを取り出す。
「わっ、かお、顔が映ってる! 見てお兄ちゃん、顔が!」
「顔が映るだけじゃないだろ」
はしゃぐ澪に、俺は手を伸ばしてスマホの電源を入れてやった。
「わあぁっ、電気が! 光ってるよ、お兄ちゃんっ!?」
いちいちかわいすぎるだろ。癒しかよ。
俺は澪のスマホをいじり、メッセージアプリをダウンロードしてやった。
「これ、なあに?」
「メッセージを送信できるやつだ。俺の連絡先を追加しておいたから、後で見ておけ」
「めっせーじをそうしん……っ」
しばらくスマホを食い入るように見つめ、それから約10分後に、俺のスマホに澪からメッセージが届いた。
澪:《あ》
透:《届いてる》
「よかったあ!」
澪がひまわりのようににぱっと笑う。かわいい……てえてえ……。
「お前ら、あと三時間はかかるぞー。寝るなり食うなりしとけ」
「あーい!」
「へいへい」
途中で、寝かけた澪が俺の肩に頭をもたれさせる、なんていうアクシデントもあったが……三時間後、なんとか俺たちは旅館に着くことができた。
「おい澪、着いたぞ」
「んぅうー……」
両手にスマホを握りしめながらも、ぐっすり睡眠中の澪。
仕方なく、俺は澪を背負って、車を出た。
親父がパッパッと手続きを終わらせ、堂々と親指を立ててくる。いや、旅館でそれをしないでほしい。恥ずかしい。
部屋に入ると、俺は澪を畳の上に寝かせることにした。
「おにいちゃぁん、ぎゅーして……」
と、寝ぼけながらなのか、澪が俺に手を伸ばしてくる。
……しょうがない、かわいい妹の頼みだ。仕方なく、従ってあげるとしよう。
俺は、畳に転がる澪に覆いかぶさるようにして澪を抱きしめる。
「……んふふ、こんなポーズしてると、ダメなことしてるみたいだね?」
と、澪がいたずらっ子のような瞳を俺に向けてくる。
それで、自分たちが今どのようなポーズをしているかを認識する。
これっ……やばい感じなんじゃ……!
「おいお前ら―、荷物は……って、はぁぁ……!?!?」
超タイミング悪く、親父が現れ、俺は澪からものすごいスピードで離れる。
……が、もう遅い。
「違うんだ、これは、澪が……」
「おやじー、トオルが向こうから私に覆いかぶさってきたのー!」
「トオル……お前ェ!!!!!」
親父から雷が落ち、その後一時間ほど、俺はお叱りを受けましたとさ。
一方で、澪はにやにやとして私を見ている。
澪のやつ……俺で遊んでるだろ……!
☆
「えび! えびだよ、お兄ちゃんっ!」
「うんよかったな」
豪華な夜ご飯が運ばれてき、はしゃぐ澪。
親父の視線が痛いため、俺はあえて雑に澪に返事をする。
「ねぇお兄ちゃん……あーん、して? やだ?」
「や……やだ」
「お兄ちゃ……っううぅ……」
「わかったわかった、してやるって」
「トオル!!!!」
「すみませえええん!!」
正直に言うと、最悪だ。
美味しい海鮮料理が、親父の視線で台無しである。
――夜。
俺は腹に海鮮料理をつめ、さらに睡魔に襲われ、布団に潜り込んだ。
とんだ目玉を食らって、精神共に限界だ。
ちなみに澪はただいま入浴中だ。(お風呂に一緒に入ろうと誘われたが、涙を呑んで我慢した)
と、親父が俺の布団の横に座った。
「……トオル。澪はかわいいのは知っている。でも俺は、お前のために言っているんだ。……同年代の、ほぼ初対面の男女が一緒に住むことは、想像を絶するほど気を使うことはわかってる。でも、成人するまでは待ってくれ」
「おう……って、 成人?」
ぽかんとする俺。親父は力強く頷く。
「ああ。成人したら、何をしてもいい。澪の胸を触るでも、その先に進んでもいい! ただ、今は我慢しろ!」
「はぁぁ!? いや、よくねぇよ! 実の妹だぞ!?」
「結婚はできなくても、事結婚はできる! そういうもんだ、がはは!」
笑い事じゃねぇよ!!! というか、俺と、澪が、その先だと……?
「お風呂、でたよお! んあ、お兄ちゃん、もう寝ちゃうの?」
と、澪がとてとてと歩いてきた。
「……トオル、そういう事で。よろしく頼んだぞ、それじゃ!」
「おい親父……」
親父は布団にくるまるなり、いびきをかき始める。どういうことだよ……ったく。
「じゃ、お休み、澪。夜更かしするんじゃねぇぞ」
「ん……」
名残惜しそうにする澪を無理やり無視し、俺は電気を消した。
☆
――ごそ。がさがさ。ごそそっ。
夜中、ぼんやりと目が覚めると、そんな音が響いていた。
なんだ、だれかトイレにでも行くのか?
――ひた、ひた、ひた。
足音が、どんどんと俺に近づいてくる。
そして、
「お兄ちゃん……」
ひや、っと背中に冷たい足を感じ、俺は悲鳴をあげそうになる。
なんだ、誰かが俺の布団に入ってくる?!
「おにいちゃ……」
寝袋のような形の布団のため、狭いというのに、そいつはぎゅうぎゅうと入ってくる。
背中に、ふにゃりと柔らかいものが当たり、心臓が暴れる。
これは……澪……??
すう……と、布団の中に潜り込むなり寝息を立て始める澪。俺は、とにかく布団からでようともがく。
が、動けば動くほど、澪の胸がもろに当たり、どうしていいのかわからない……!!
と、澪の冷たい足が、俺の足に絡みついてくる。
「お兄ちゃん……大好き♡」
ね、寝言にしてははっきりしすぎてないか……!?
俺の耳にささやく声。
……こいつ、起きてないか??
「んうううー……」
「澪」
「すやぁ……」
「澪」
「ぐーぐー……」
「親父が起きた」
「ひぇ??!」
試しにそう言ってみると、澪が声を上げた。
……やっぱりな。
「おい澪、何の真似か知らんが、自分の布団に戻れ。今すぐにだ」
でないと心臓が割れそうだ。あと、第二の俺が顔を出している。
「だってぇ……お兄ちゃん、ずっと隣にいてくれるとか言いながら、いてくれないもん! 一人は嫌だもん!! 今日、お兄ちゃん冷たかったもん!」
「し、静かに……」
澪をなだめる。
「……ううう……」
「拗ねるなって。……いつか、どうしてもというならお嫁に貰ってやるよ」
「ふぇ……!! お嫁さん……!?」
目を――厳密には声をきらきらさせて、澪がはしゃぐ。動くな。当たる。
……てか、俺は何を言っているんだ?? 待て、今俺はなんて……(手遅れ)
「じゃあ、けっこんしきはどこにする!? けっこんゆびわは! 子供は何人ほしい!?」
「お、おい、ほら、これは本気では……」
「お兄ちゃん、大好きっ!!!」
そう言うと、澪はすぽんと布団から抜け出し、そして俺の顔の方に回ってきて、
「ちゅー!」
「……っ!?!?!」
俺の額に、キスをしてきた。
「おやすみ、私のだんなさん!」
「う、うおおおおぉ……」
なんてことを言ってしまったんだという焦りと、澪の地球を超えて宇宙までとびぬける可愛さに、俺は一晩悶絶することになる。
かわいさランク:lv.100
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