第7話 可愛い妹にプロポーズする


「トオル、澪、お知らせだ!」


土日、親父がいきなり部屋でのんびりしている俺たちを呼んだ。

馬鹿デカい声で叫ばれる。これ、絶対隣人に聞こえてるよね。


「なーにー」

「なんだ」


これ以上親父が叫ばないために、二人そろって慌て気味に一階に降りていくと、親父がサングラスを付け、ボストンバッグを持って、にやりと笑いかけてきた。

変人だ。なぜ室内でサングラスをつけている。ボストンバッグも似合わねえし。


「お前ら! 今日は、旅館に行くぞ!!」

「「ええええぇえ!?」」


いきなりの親父の発表に、俺たちはただぽかんとすることしかできなかった。







「おい澪! さらっと俺のパンツを入れるな! 返せ!」

「そういうそっちだって、私の靴下入れてたでしょー!」

「知らねぇよ、間違って入ったんだよ! 返すから返せ!」

「ごめんね、もう入れちゃったし!」


親父が『三十分後に出発するぞ! 準備をしてこーい!』と無茶を言うせいで、澪に俺のパンティーを取られた……くそっ!


なんとか準備を終わらせ、澪と共に車に飛び込む。


「はぁはぁ、親父の無茶ぶりはいつものことだが慣れない……」

「そーだそーだ」


「がはは! では、そういう澪に、プレゼントだ」


いや俺は? なんていう突っ込みはさておき、親父は澪に手のひらほどの大きさの箱を渡した。


「うわぁ……なあに、これ」

「開けてみろ」


澪がその箱を開くと、中に入っていたうすい液晶ガラスが、澪の顔を反射させた。


「んぇっ……これって……」

「そろそろお前にもいるかと思ってな。……スマホだ」

「すまほっ!!!」


澪は顔を輝かせ、箱からスマホを取り出す。


「わっ、かお、顔が映ってる! 見てお兄ちゃん、顔が!」

「顔が映るだけじゃないだろ」


はしゃぐ澪に、俺は手を伸ばしてスマホの電源を入れてやった。


「わあぁっ、電気が! 光ってるよ、お兄ちゃんっ!?」


いちいちかわいすぎるだろ。癒しかよ。

俺は澪のスマホをいじり、メッセージアプリをダウンロードしてやった。


「これ、なあに?」

「メッセージを送信できるやつだ。俺の連絡先を追加しておいたから、後で見ておけ」

「めっせーじをそうしん……っ」


しばらくスマホを食い入るように見つめ、それから約10分後に、俺のスマホに澪からメッセージが届いた。


澪:《あ》

透:《届いてる》


「よかったあ!」


澪がひまわりのようににぱっと笑う。かわいい……てえてえ……。


「お前ら、あと三時間はかかるぞー。寝るなり食うなりしとけ」


「あーい!」

「へいへい」




途中で、寝かけた澪が俺の肩に頭をもたれさせる、なんていうアクシデントもあったが……三時間後、なんとか俺たちは旅館に着くことができた。


「おい澪、着いたぞ」

「んぅうー……」


両手にスマホを握りしめながらも、ぐっすり睡眠中の澪。

仕方なく、俺は澪を背負って、車を出た。


親父がパッパッと手続きを終わらせ、堂々と親指を立ててくる。いや、旅館でそれをしないでほしい。恥ずかしい。



部屋に入ると、俺は澪を畳の上に寝かせることにした。


「おにいちゃぁん、ぎゅーして……」


と、寝ぼけながらなのか、澪が俺に手を伸ばしてくる。


……しょうがない、かわいい妹の頼みだ。仕方なく、従ってあげるとしよう。


俺は、畳に転がる澪に覆いかぶさるようにして澪を抱きしめる。



「……んふふ、こんなポーズしてると、ダメなことしてるみたいだね?」


と、澪がいたずらっ子のような瞳を俺に向けてくる。

それで、自分たちが今どのようなポーズをしているかを認識する。

これっ……やばい感じなんじゃ……!



「おいお前ら―、荷物は……って、はぁぁ……!?!?」


超タイミング悪く、親父が現れ、俺は澪からものすごいスピードで離れる。


……が、もう遅い。



「違うんだ、これは、澪が……」

「おやじー、トオルが向こうから私に覆いかぶさってきたのー!」


「トオル……お前ェ!!!!!」


親父から雷が落ち、その後一時間ほど、俺はお叱りを受けましたとさ。


一方で、澪はにやにやとして私を見ている。


澪のやつ……俺で遊んでるだろ……!







「えび! えびだよ、お兄ちゃんっ!」

「うんよかったな」


豪華な夜ご飯が運ばれてき、はしゃぐ澪。

親父の視線が痛いため、俺はあえて雑に澪に返事をする。


「ねぇお兄ちゃん……あーん、して? やだ?」

「や……やだ」

「お兄ちゃ……っううぅ……」

「わかったわかった、してやるって」

「トオル!!!!」

「すみませえええん!!」


正直に言うと、最悪だ。

美味しい海鮮料理が、親父の視線で台無しである。



――夜。

俺は腹に海鮮料理をつめ、さらに睡魔に襲われ、布団に潜り込んだ。


とんだ目玉を食らって、精神共に限界だ。


ちなみに澪はただいま入浴中だ。(お風呂に一緒に入ろうと誘われたが、涙を呑んで我慢した)


と、親父が俺の布団の横に座った。


「……トオル。澪はかわいいのは知っている。でも俺は、お前のために言っているんだ。……同年代の、ほぼ初対面の男女が一緒に住むことは、想像を絶するほど気を使うことはわかってる。でも、成人するまでは待ってくれ」

「おう……って、 成人?」


ぽかんとする俺。親父は力強く頷く。


「ああ。成人したら、何をしてもいい。澪の胸を触るでも、その先に進んでもいい!   ただ、今は我慢しろ!」

「はぁぁ!? いや、よくねぇよ! 実の妹だぞ!?」

「結婚はできなくても、事結婚はできる! そういうもんだ、がはは!」


笑い事じゃねぇよ!!! というか、俺と、澪が、その先だと……?



「お風呂、でたよお! んあ、お兄ちゃん、もう寝ちゃうの?」


と、澪がとてとてと歩いてきた。


「……トオル、そういう事で。よろしく頼んだぞ、それじゃ!」

「おい親父……」


親父は布団にくるまるなり、いびきをかき始める。どういうことだよ……ったく。



「じゃ、お休み、澪。夜更かしするんじゃねぇぞ」

「ん……」


名残惜しそうにする澪を無理やり無視し、俺は電気を消した。








――ごそ。がさがさ。ごそそっ。



夜中、ぼんやりと目が覚めると、そんな音が響いていた。


なんだ、だれかトイレにでも行くのか?



――ひた、ひた、ひた。



足音が、どんどんと俺に近づいてくる。

そして、


「お兄ちゃん……」


ひや、っと背中に冷たい足を感じ、俺は悲鳴をあげそうになる。

なんだ、誰かが俺の布団に入ってくる?!



「おにいちゃ……」



寝袋のような形の布団のため、狭いというのに、そいつはぎゅうぎゅうと入ってくる。


背中に、ふにゃりと柔らかいものが当たり、心臓が暴れる。



これは……澪……??



すう……と、布団の中に潜り込むなり寝息を立て始める澪。俺は、とにかく布団からでようともがく。


が、動けば動くほど、澪の胸がもろに当たり、どうしていいのかわからない……!!


と、澪の冷たい足が、俺の足に絡みついてくる。


「お兄ちゃん……大好き♡」


ね、寝言にしてははっきりしすぎてないか……!?

俺の耳にささやく声。


……こいつ、起きてないか??


「んうううー……」

「澪」

「すやぁ……」

「澪」

「ぐーぐー……」

「親父が起きた」

「ひぇ??!」


試しにそう言ってみると、澪が声を上げた。

……やっぱりな。


「おい澪、何の真似か知らんが、自分の布団に戻れ。今すぐにだ」


でないと心臓が割れそうだ。あと、第二の俺が顔を出している。


「だってぇ……お兄ちゃん、ずっと隣にいてくれるとか言いながら、いてくれないもん! 一人は嫌だもん!! 今日、お兄ちゃん冷たかったもん!」

「し、静かに……」


澪をなだめる。


「……ううう……」


「拗ねるなって。……いつか、どうしてもというならお嫁に貰ってやるよ」

「ふぇ……!! お嫁さん……!?」


目を――厳密には声をきらきらさせて、澪がはしゃぐ。動くな。当たる。


……てか、俺は何を言っているんだ?? 待て、今俺はなんて……(手遅れ)


「じゃあ、けっこんしきはどこにする!? けっこんゆびわは! 子供は何人ほしい!?」

「お、おい、ほら、これは本気では……」

「お兄ちゃん、大好きっ!!!」


そう言うと、澪はすぽんと布団から抜け出し、そして俺の顔の方に回ってきて、


「ちゅー!」

「……っ!?!?!」


俺の額に、キスをしてきた。


「おやすみ、私のだんなさん!」

「う、うおおおおぉ……」


なんてことを言ってしまったんだという焦りと、澪の地球を超えて宇宙までとびぬける可愛さに、俺は一晩悶絶することになる。






かわいさランク:lv.100

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