第3話 小悪魔な妹
「今日一日、どうでしたか? 澪さん」
夕焼けが広がる中、一日が終わる。
サクラと澪と三人で帰ろうとしていると、澪のクラスの先生が駆け足で近寄ってきた。
澪の過去を話したおかげで、先生方には澪に難しい言葉を使わないようにしてもらっている。兄として、感謝しかない。
「んんー……」
そういって、澪は俺の後ろに隠れてしまう。
「ほら澪、聞かれてるぞ」
「……寂しくて、眠かった……」
単刀直入に澪が言う。これには先生も、少し焦ったようにして苦笑いした。
「そっかー……。あ、あの、それでですねー……今日、制服が小さめだったので、大きめのサイズをご購入された方がいいと思うのですが……」
ですよね。知ってます。
それを全く気にせずに、惜しみなくお腹を晒しながらも、澪が俺の背中に頬ずりしてくる。
「お兄ちゃぁん……早く帰ろ……」
「そだな……。あの、先生、ありがとうございました。制服は、父と相談します」
「ありがとう、では澪さん、また明日!」
校門を出、帰り道をのろのろと歩いていると、澪が俺の肩に顔を預けてきた。ヒラメのようにして目を動かし、澪の方を見ると、とろんとした目をしている。
今日は約六年ぶりの学校だったのだ。疲れるに決まっている。
俺は、澪をおんぶする。
と、思ったよりも重さがあり、軽くよたついた。
「ちょっ、トオル、危ないよ!?」
サクラが、バランスを崩した俺を受け止めてくれる。
と、頬と頬が軽く重なり合い、真っ赤になってサクラが三メートルほど跳ね飛んだ。
「?? どうした?」
「っな、なんでもないっ!!」
真っ赤な顔になっているサクラに追いつきながらも、俺は澪を背負いなおした。
「おにいちゃん………」
寝言なのか、澪がふにゃりとした声を出した。
「あたま、なでなで……」
「……ああ、そういう約束だったな。家でな」
寝言だとはわかっているが、一応返事しておく。
「…………」
サクラが、唇を嚙みながらも俺を見ているのに気づかず、俺は帰路についた。
☆
「じゃ、またな、サクラ」
「う、うん……あの、後でおすそ分け、わたしにいくから!」
マンションにつきそういうと、サクラは急いで階段を駆け上がっていった。サクラは、俺と同じマンションに住んでいるのだ。
もっと詳しくいうと、俺が3階、サクラが5階だ。
俺は家に入ると、すやすやと寝息を立てる澪をソファーに下ろした。澪が身をソファーに沈める。
「疲れた……ポッキーでも食うか……」
俺は立ち上がると、抹茶味のポッキーを持ってきた。家にはポッキーが買いだめされている。
俺は、澪の横に腰掛けると、テレビを付ける。
ぼーっと見ていると、澪が「んー……」と言いながらも寝返りをうった。
と、はらりとスカートの裾が太ももから落ち、パンツがちらりする。
俺は慌てて目を逸らし、平静を装った。
「……んぁ、おにいちゃん」
「う、あ、起きたか」
俺の高ぶった脈が聞こえたから起きたか?!
俺の焦りを知らず、澪はもぞもぞと体を動かす。
そして、俺の太ももに頭を置いた。
「これ、ひざまくら、っていうんだよね? ……なんか、コイビトみたいだね♡」
「…………意味を理解してから言葉を使おう」
コイビト……互いにか恋愛感情があるもの同士に成立するものじゃないか。
俺はともかく、澪はその気は無さそうだ。きっと家族愛で止まっている。
俺はポッキーを食べるのに集中することにした。
といっても、抹茶チョコがかかっている方から食べるか、クッキー部分から食べるかとか、しょうもない事しか考えることがない。
「……お兄ちゃん、私にもポッキー、ちょーだい!」
「……はいはい」
俺がポッキーの箱を澪に傾けると、澪は首を振る。
「違う! お兄ちゃんの口から欲しいの!」
「はぁ……?!」
意味わからない澪の言葉に、俺は眉をひそめた。
「ほら……ぽっきーげーむ、っていうやつ! やってみたい!」
「………………」
最近、澪、攻めすぎじゃないか??
家族愛だから、そういうのは……
気づいたら、俺はポッキーを咥えて澪に先を向けていた。
くっ、第二の俺が……! 自制できねえ……!
「わぁ、こんなんなんだね! じゃぁ……やってみるっ」
そういうと、澪はぱくりとポッキーの端を咥えた。
至近距離で見る澪の目。そこに、俺が映っている。
「じゃぁ、せめてみる!」
「んんんんー?!」
澪が、もぐもぐとポッキーを食べすすめる。
ポッキーの長さ、残り2センチ程だ。
「おにーちゃんがせめてよ」
「頼むから喋るな……」
吐息が顔にかかる。
このままだと、第二の俺が爆発しそうだ……!
「じゃないと、私が全部食べちゃうよ?」
「…………」
いつからそんなに小悪魔になった?!
お兄ちゃんとして、こんな事を他の人にしないように言ってやらないとだが……。
「ぱく♡」
「……!」
あと1センチ。
第二の俺が覚醒しかける。
くっ……悪いのは、この第二の俺だからな!
そう、最後の1センチを食べとろうと、俺は唇に力を入れ……。
「っっっっぇえぇ?!?!」
どさっ、ばたん、どたたたっ!
急に音がなり、俺と澪は跳ね起き、辺りを見回した。
「〜〜〜〜〜っ!」
「さ、サクラ!?」
サクラが、顔を真っ赤にして尻もちをついていた。
「……いや、これは誤解で……」
「っ、ぅぅう……っ」
サクラが目に涙を溜めて俺を睨む。
「……らいばるのサクラさん。何しにきたの?」
最悪なタイミングで、澪が口を開く。色んな意味で誤解を生んでいる気がする。すごく嫌な予感だ。
「……っ!!」
サクラは、真っ赤な顔のまま、家を出ていった。
床にはひっくり返ったタッパーが転がっている。おすそ分けを届けに来ると言っていたから、きっとそれだろう。
「……いっちゃったね……」
澪が、タッパーを拾いながらも言う。
「俺、サクラのところに行ってくる」
「んえぇ! 行っちゃうの!」
澪が、半泣きで俺にしがみついてきた。
「ひとりにしないで……! ひとり、こわいよ……」
「……じゃあ澪も着いてこい」
「うん……」
澪が、弱々しく手を絡めてくる。
俺は、そっと握り返した。
「やっぱこういう時は、謝った方がいいんだろうか……」
「私たち、悪いことしてない!」
澪が頬を膨らませながらも言う。
「まあ、家に入ってきたのはあいつなんだが……こういう時は、謝るのが礼儀だと……」
「むーん……」
澪はまだ眉をひそめたままだ。
俺はある考えに行きつき、手を伸ばし、澪の頭の上に手をおいた。
そして、ぽんぽん、と撫でた。
「これ、してほしかったんだろ?」
「んんー」
澪は目を細めて俺に寄りかかる。
「ちゃんとごめんなさい、できるな?」
「うん……!」
なんて単純なんだ。
しかし、そういうところがかわいいんだが。
俺は澪の手を引き、家を後にした。
かわいさランク:lv.5
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