第2話 甘々な妹


「よし、準備はできたな。……そして澪、それはなんの真似だ」


「なにって……今日からがっこー、行くんでしょ?」



一週間後の朝、学校登校日。


姿で、目をキラキラさせる澪に、俺は溜息をついた。


「お前ね、制服を渡しただろ? まさか、その格好で行く気か?」

「へ? ……この格好じゃ、ダメなの?」


当たり前だろお!! と絶叫したいのをぐっとこらえる。

万に一、下着姿で登校することを学校側が許したとしても、俺が絶対に許さない。


「いいから着ろ、制服を!」

「ふぇえー!?」


俺は澪を引きずり、澪とシェアしている部屋に連れていった。家は、父と俺との二人住みだったため、部屋数が少ないのだ。

そのため、俺と澪で一つの部屋をシェアしている。


「ほら、これだ! これを着ろ!」


ぐちゃっと、澪のベッドの上に散らばっていた服の山から、制服を発掘する。


「だって……これ、一週間前に一回着てみたけど、小さかったんだもん……」

「んなわけないだろうが! 届いた時、着ただろ! その時はぴったりだったじゃないか! すぐに着ろ!」

「ひぇーん、分かったよ……」


いきなり服を脱ぎ始める澪に、俺は慌てて部屋を出た。

澪の着替えシーンに興味がないと言えば嘘になる。というか、俺は一度、澪の裸を見たことがあるじゃないか。

なんとか心を鎮めていると、とたとたと足音が聞こえてくる。



「着替えれたんだけどー……やっぱり、小さいかも……」


がちゃりと回るドアノブ。俺は勢いよく振り返り、そして絶句した。


ぱっつんぱっつんだったのだ。


お腹は丸出しで、スカートはきわきわなライン。いったいどうなればこうなるのか、俺はただ口をパクパクとさせた。


「やっぱり、小さいよね……?」

「……あ、ああ」


こんな格好で学校には行かせられない。俺は、澪を学校に連れていくことを断念する。



と、ピンポン、と軽快な音が鳴り、俺は玄関へ向かうと扉を開けた。



「ひ、久しぶり……」



そこには、俺の幼稚園からの幼馴染、板波サクラが立っていた。

綺麗な銀髪に、くりんとした瞳。学校でもかわいいと評される、自慢の幼馴染だ。



「おおなんだ、何か用か?」


すると、綺麗に巻かれた髪を指でいじりながらも、サクラが口を開く。


「ひ、久しぶりだから、学校一緒に行こうかと思って……」

「ああ……別にいいが……?」


恥ずかしそうにもじもじとするサクラ。いったいどうしたんだ?


「お兄ちゃん、誰か来たんですかー……??」

「………っ!? 誰っ、その巨乳美少女!?」


澪が階段を下りてくると、サクラが目を見開いて、ぽかんとした。


「えーとだな……」

「おにーちゃん! トオルは私のお兄ちゃんだよぉー!」

「お、おにい……っ!?」


澪の言葉にさらに目を見開き、サクラが困惑する。

そりゃあそうなるだろう。幼稚園からの仲だ。妹だと言っても、疑われること間違いなしだ。

でも物は試し。言ってみることにする。


「こいつは、俺の生き別れの妹なんだ」

「い、いきわかれ……」


しばらくぽかんとしていたサクラだったが、飲み込んだというように頷く。


「なるほどね。朝から連れ込んでた女についての口実なのね」


「なぜそうなる……」

「違うよ、私はれっきとしたお兄ちゃんの妹ですっ!」


澪が頬を膨らませながらもサクラに詰め寄った。


「そのショーコに、でぃーえぬえーが繋がってますっ!」

「???」


澪の片言の言葉に、サクラは後ずさった。

俺たちの関係がもし疑われた時の対処法としてこの言葉を覚えさせたのだが……逆効果だったようだ。


と、ナイスタイミングで親父が現れる。

歯ブラシを咥えながらも、親父は片手を上げた。


「おお、サクラちゃんじゃないか、ご無沙汰してるな」

「あ、親父さん……」


親父と呼ばれ、親父は変な顔をする。


どうやら親父には、娘にパパと呼ばれる夢があったらしい。

しかし、澪は俺を真似、さらにサクラも昔からの付き合いのため、自然と親父呼びになった。


しかし、澪が親父を『パパ』なんて呼ぶのは気に食わない。

かわいいお兄ちゃん呼びが薄れてしまう。



「あのー親父さん、このきょにゅ……女の子は誰なんですか??」


「ああ紹介してなかったな、こいつが、今一緒に住んでる澪っていって、透の生き別れの妹だ」


「ほ、本当に生き別れの妹なの……!?」



ようやく信じてくれるサクラ。俺はホッとして息をつく。


「てことで、今日から澪は同じ学校に通うんだ」


「……確かに、似てるっちゃ似てるかしら……って、お、同じ学校?!」


サクラは澪を観察目を俺に向け、驚愕する。


「そしたら、私の『学校一の美少女』のステータスは……」

「残念だが、1番は澪だ」

「む、無念……」


サクラがガックリ肩を落とす。

すると、澪が用心深い視線をサクラに向けながらも、俺に縋りついてきた。


「……ねぇねぇ、この人誰? 私のらいばる?」

「ぁあこいつはサクラっていって、俺の幼馴染。それだけだ」

「なんか雑くない?!」


澪は、まだじとーっとした目をサクラに向けている。


「……サクラさんは、お兄ちゃんの事がスキなの?」

「……っ?!?!」


サクラが顔を赤くし、視線をさまよわせる。


「こら澪、そういう事はプライバシーっていうんだ」

「ぷらいばしー……」

「そうだ。な、サクラ?」


すると、ビクッとしてサクラが俺の方を向いた。


「んぁ、えーっと、うん、そう!」

「サクラさん、顔赤い。怪しい」

「こら、敵視しない」


しばらくサクラを睨んでいた澪だが、俺がぽんぽんと頭を叩くと、ようやく視線を外した。


「……サクラさんを敵認定する」

「勝手に認定しないで?!」


三人でわいわいやってると、

「おいお前ら時間やばいんじゃないのか?」

「「げ!?!」」



俺は、澪の制服が色んな意味でヤバいことを忘れたまま、学校へと走った。









「なんだ、あの巨乳美少女は……」

「めちゃくちゃかわいいじゃないか……」

「お腹出してるのとか、太もも出してるのとか、パねぇ……」


澪が一年生の部屋に入った瞬間、そんな声が聞こえてきた。

しまった、制服がヤバいんだった……!!


教室入った途端に騒がれる我が妹。悔しいような、もどかしさに襲われる。

その感情から逃げようと、俺は二年生の部屋に駆け込んだ。



「ねえトオル、なんであんなにぱつんぱつんな制服頼んだのよ。……まさか、趣味?」

「んなわけないだろ……二か月前に着た時は普通だったんだよ……」


サクラが俺の机に頬杖をついて聞いてくる。

ただでさえ、人気者のサクラと話しているだけで視線を感じる日々なのに、澪が妹だと知られると、まずいことになるだろう。


ということで、俺は澪に何をされても、無を徹することにした。




「おー兄ちゃんっ! やす……やみすじかん? やすみ? ……やすみじかん、だから会いに来たよーっ!」


「ねえねえお兄ちゃんっ、大好きって言ってー!」


「お兄ちゃん、なんで無視するのお……」


「どうしよう怒ってる……? お兄ちゃん、こっち向いて?」





む、無視できねえ……!!!

俺は頭を抱える。悩んでいるのではない。かわいさが脳に来たのだ。



「お兄ちゃん……」

「澪……」


俺は覚悟を決め、廊下のど真ん中で、澪を抱きしめた。

辺りがざわっとする。


「うふふ……お兄ちゃんの匂い、久しぶり!」


こんなにかわいい妹を無視しようとした、俺がバカだった!!



「私、一日中ずっと、寂しかった……だから、家帰ったら、いっぱいなでなでしてね?」



ますます甘々になりそうな、俺の妹であった。




かわいさランク:lv.2

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