生き別れの妹がかわいすぎる件。無知すぎて家族の域を越えようとしてくるのだが、それでもかわいいものはかわいい。

未(ひつじ)ぺあ

第1話 無知すぎる妹


「……というわけで、今日からお前の妹と一緒に暮らすことになった」


と、俺、松岸透まつぎしとおるが、急に親父から言われたのが今朝である。



俺に妹がいたのか! 

というとふざけてるように聞こえるかもしれないが、本気だ。


何しろ、生き別れの妹だからだ。


どうやら、妹が生まれた時に親父と母が離婚したらしい。そのため、面識ゼロ。誰だこいつ状態。


「よろしく、おねがいします……」


親父の横にちょこんと座っているのが、俺の妹、らしい。

くりんとした目が俺を観察するように眺めまわす。怖い。


みおというらしい俺の妹は、全体的に可愛らしい印象だ。パステルカラーが似合いそうなゆるふわ感がある。


しかし、それをぶっ壊すように、バッサバサな髪とボロボロの服が目に付く。


親父から聞いたところによると、記憶にない俺のは酒に溺れ、澪をほったらかしにしていたらしい。

親父が送っていた教育費も、全て酒に費やしていたらしい。なんて母だ。


結果、澪は小学3年生以降、15歳になる今まで学校に行かず、ほとんど無知なのだ。

それを聞き哀れに思った親父が、澪を引き取ることにし、今に至る。


「ああ……よろしく……」


「で、だ。まず、澪を風呂に入れてきてくれないか? 澪は風呂の使い方、分からんだろうし」


「はあ!? 俺がこい……妹をか?」


澪がとてとてと俺に近寄ってくる。すごい匂いに、俺は卒倒しかける。


「よろしく頼んだ。その間、俺は必要なものを揃えてくるよ」

「ちょ、待てよ……っ!」


言い切ると、親父はさっさと家を出て行ってしまった。


「くそ……と、とにかく、風呂へ行こうか」


表情のない顔で、澪は頷いた。


俺が進んでも付いてくる気配がないので、仕方なく手を引っ張って、俺は澪を風呂場へ連れていく。


「服は自分で脱げるよな?」

「……」


風呂場に突っ立ったまま、動こうとしない澪。自分でも脱げないのか……。


「しょうがないな……ほら」


俺は、ボロボロになった浅黒いワンピースを脱がせる。

その下に覗いた薄い下着を見てようやく、女子を裸に剝いているこの状況のヤバさに気が付いた。


「おい、痴漢とか騒ぐなよ……」

「ちかん……?」

「おい、言うなって」


俺は目をつぶり、下着を脱がせる。


しかし、つい目に入ってしまった胸は、ガリガリに瘦せていて、女子には見えない。

俺は切なく思いながらも、沸いたお湯に澪を入れた。


「うわあ……」


浮遊感に目をぱちぱちとさせ、目を輝かせる澪。

そうか、満足にお風呂に入れてないのか……。


俺は澪の体をごしごしと洗ってやった。お湯がものすごい色になったが、代わりに澪は見違えるように綺麗になる。


風呂を出たころには、生まれ変わったように可愛らしくなっていた。

タオルを体に巻き、澪は俺を見上げてくる。


「おお、可愛いじゃん。後は服を着るだけだが……と、ふう、腹減った」


久しぶりの重労働に腹が悲鳴を上げ、俺はポケットに常備しているクッキーを口にほおばる。

と、澪が欲しそうにクッキーを見つめていた。


「それ、欲しい……」

「しょーがないな……はいよ」


クッキーをあげると、たちまちクッキーは消え失せる。


「美味しそうに食べるな……ほら、もう1枚」

「おい、しい……!」


いつの間にかポケットは空っぽになり、先程とは打って変わり元気になった澪。

そして、体に巻いていたタオルを落としながらも、家中を走り回り始めた。


「ちょ、おい、タオルを巻け、タオルを!」

「おいしい、しあわせ……!」


俺は、慌てて澪を抑え込んだ。きゃふと言って丸まる澪。

そこに、がちゃりと玄関の扉が開く音がした。


「ただいま。……どういうことだ、これは?」

「誤解しないでくれ。こいつが裸で走り回るから……っ!」


かなりヤバい状態だと、再度認識する。


「……とにかく、澪の服を買ってきた。合うといいが……」


手渡された下着と淡い水色のワンピースを、俺は澪に着せる。


「おおぉ……かわいい……」


すると、誰もがうなる美少女へと進化した。



「あとは髪型だが……美容院へ行くか……」



美容院へ行き、伸びきった髪を鎖骨辺りまで切り落とすと、完璧な美少女になった澪。俺はこの世にこんなにかわいい女子がいるのかと震えることしかできない。


「……と。後は、知識だけだな」


そう。ここからが大きな問題だったのだ。







「36×6は……ああぁあー!」

「これくらいできるだろ! 頑張れよ!」

「うううぅー……だって難しいもん!」



――二か月後。


美少女へと進化した澪だが、知識が全くない。これが問題であった。

勉強はもちろん、礼儀や作法は全く✕《ペケ》。教育に時間を費やすせいで、趣味のゲームができなくなった。最悪だ。


「しっかし、語彙力はしっかりついたのになぁ……それ以外は小三レベルか……」

「うるさい、お父さん。私だって頑張ってるの!」


澪が頬を膨らましながらも反論する。よくもあの状態からここまで言い返せるようになったと感動する。


「んはあ、疲れたー……休憩!」


そう言い、澪はごろんとソファーに転がった。

パンツを晒しながら。


「おい、見えてるぞ……全く……お前には恥じらいというのがないのか……?」


「はじらい?? これのどこが?」


スカートをめくって首を傾げる澪。頼むから、少しは恥じらいを持ってくれ、頼む。


「んまあこれは、透の役目だしな。よろしく頼む!」

「親父の甲斐性なし!」

「おやじのかいしょうなしー!」


澪もたどたどしく繰り返す。


澪の語彙力は、繰り返すようだがそれはすごいもので、あっという間に基本的なことは覚えてしまった。

そして、少し前から俺が言う言葉を繰り返すようになった。オウム返しである。


「くっ、ダブルパンチ……覚えてろよ、お前ら」

「べーだ」

「べ、べーだ」


つまり、澪に言わせたい言葉を言えばいいのだと分かり、わざと可愛いセリフを言ってみたりもする。


「じゃ、仕事行ってくるからな。透、いつも悪いな。来週には澪と学校に行かせてやるから、あと少しの辛抱だ」


俺は、澪の世話をするために、二か月間学校を休んでいる。

別に俺は学校が好きではない。かといって、嫌いでもない。つまり、どうでもいいのだ。だから、そんなに気にしていなかった。


「……てか、親父、今『澪と』って言わなかったか?」

「いわなかったか?」

「大丈夫だ。学校側には事情を伝えてある。安心しろ」

「しろ」

「そういう問題じゃないだろ!」

「だろぉ!!」

「澪うるせえ! ……いろいろと心配な点はあるんだがな……ま、どうにかなるっしょ!」


そう言うと親父はにかっと笑い、弁当をつかむと、さっさと家を出ていった。


「くっそぉ!! いつかぎゃふんと言わせてやる……!」

「……ねえねえお兄ちゃん、私、見てみたいものがある」


と、澪がくいくいと俺の袖をつかみながらも聞いてきた。


「お、なんだ? 澪の事だし、ろくなことじゃないんだろうが……」


「みお、男の子用のパンツが見てみたい!」


想像を超える要求に、俺は目をむく。


「いや、急になんで……」

「だって、男の子用のパンツには、おちんちんを出す穴があるんでしょ?」


泣きそうである。妹の純粋さに、心が折れそうだ。


「……俺の服が入ってる戸棚から勝手に見とけよ……」

「いや! お兄ちゃんが履いてるところを見たいの! みーしーてー」


そういって、強引にズボンをおろそうとしてくる澪。

これなら、無知の方がましだ……てか、その情報、どこから知ったんだ!?


「とにかく、ダメなものはダメだ。これを、セクハラという」

「せくはら?」

「そうだ。とにかく、お前は学校に向けて、勉強をするべし!」

「うえぇーん!」


涙目で、俺の足にしがみついてくる澪。拍子に、足にやわらかいものが当たった。


……もしかして、巨乳になってないか??


「お前、ちょっと立て」

「ひぁ!?」


無理やり立たせ、見下ろす形で澪の胸を見る。


……やっぱり、巨乳になっている。


あの時のガリガリさはどこへやら、服を押し上げる、メロンのような大きさになっていた。カップというのはイマイチ知らんが、Gくらいありそうな大きさである。


「たくさん食べるようになったからか……?」

「お兄ちゃん、へんたい。見すぎ」


澪はそう言い、短いスカートを翻しながらもソファーに倒れ込んだ。

ちらりとパンツが見える。


「ねえお兄ちゃん、ぎゅーってして」

「要求が恋人なんだよ!!」

「お願いいー」


澪の精神年齢、五歳といったところだろうか。

小さいときに親からの愛を受けなかったからか、普通の子より甘えたさんだ。


「……はいはい」

「んやったあ!」


しょうがないから、俺が親の分愛情を注ごうと思う。

俺が与えられた愛を、分けてやるだけだ。下心なんてない。


「ぎゅー」


俺がソファーに倒れ込み、覆いかぶさるようにして抱きしめると、もろに胸のふくらみが当たった。

そんなことは気にせずに、澪は幸せそうに笑った。


「私、お兄ちゃんがいてよかった!」

「俺も、澪に会えてよかったよ」


ふわふわとした髪をなでてやると、澪は目を細めて喜ぶ。


「ねえねえお兄ちゃん、コイってしたことある?」

「突拍子だな、また。……したことないけど」

「じゃあ、コイビトもまだなんだね?」

「どこからその言葉を……まあ、まだだ」


「じゃあ、私がお兄ちゃんの初めてのコイビトになれるよう頑張るね!」

「…………おま……!!」


俺が赤くなったことに気付かずに、澪は嬉しそうに笑った。


「そのために、勉強して賢くならなきゃね! よし、勉強の続きしようよ」

「……お前にはついていけないよ……」


服を乱しながらも、澪が立ち上がった。

澪の脳内をいったん見てみたい。きっと、どこかのねじが外れている。


「ちなみにだな澪、お前恋人が何かちゃんと知ってるのか?」

「? 知ってるよ? 好きな人同士がちゅっちゅする事でしょ?」

「お前……俺の事が好きなのか?」


すると、澪は目を輝かせて頷く。


「うん、大好きっ!!」


「うん。それは家族愛だね」


澪がきょとんとする。ダメだこりゃ。


「まあ、恋愛としての好きになっても、俺が振り向くかはわからないからな。とりあえず、勉強だ。ほら、数学の続き、やるぞ」


「ふぇーい」


澪が机に向かう。

教えようと後ろから覗き込むと、澪から漂う甘い香りに気付く。


これが、漫画に出てくる『かわいい妹』とやらなのか。

とうとう、俺も手に入れてしまったのか。


だとしたら、俺は超絶の幸せ者だ。



――かわいい妹を貰ったなら、そのかわいさを、俺が全力で育ててやる!


とりあえず、『妹 かわいく 方法』で調べる。



「ねえねえお兄ちゃん、早く勉強教えてよー!」


「ふむふむ……こうすれば…………っよし!! 澪、今日から筋トレをしよう!」

「ふぇえ!?」



こうして、ほぼ初対面かつ、純粋無垢な妹を手に入れた俺であった。





かわいさランク:lv.1

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