第77話 幸せくくり姫

「あははっ礼二らしいわね」


くくり姫に僕の像が出来てしまった事を話したら笑われてしまった。


ちなみに【天の鳥船】は僕専門に作ってくれた物だ。


だが、只でさえ大きな話になりそうだったので借りた事にした。


「笑いごとじゃないよ...最近では何処を歩いても手を合わせられるんだから」


「でも良いじゃない? 神や仏になって手を合わせて貰えない人生なんて地獄よ?」



その事は嫌と言う程知っている。


信者が居なくなったせいで、最初に会った時くくり姫は消えかかっていた。



「また、そんな悲しそうな顔をして...もう終わった事だから気にしないで」



「確かにそうだね」



「まぁ、どうせ礼二は此処に来るんだから、丁度良いわよ、二つの像が並んで夫婦みたいで凄く良いわね」



「それでね、礼二お願いがあるの!」





【魔王.魔族SIDE】



「これで邪神との付き合いも終わりだな」


「魔王様、それは一体どういう事でしょうか?」



「終わりにするしか無いだろう? もう人間を生贄にする事も出来ないし、襲う事も出来ないんだから仕方なかろう」


「確かにそうですね」


「お前は他人事で無いだろう? 悪魔神官だろうが?」


「何をおっしゃいますか? 邪神を祀らないのであれば私はお役御免ですよ」


「だな、最早人間が我々を襲う事も無ければ、我々が人間を襲う事も無い、確かに平和な世界だ、そこにはもう邪神は入り込む余地は無い」


「そうですな、ならば、我らは何を祀れば良いのですかな?」


「くくり姫という神は人間の神、そう考えたらあの男の神でも祀るか?」


「レージですか?」


「結局はあの男、いやあの神は魔族を平和にしてくれた、それにもし、邪神が何かしでかした時には守ってくれる神が必要だ」


「それでは、邪神像を破壊して、あの神の像をを作って祀ると言う事で良いのですか?」


「まぁ話が纏まってからだがな」



結局この魔王の判断は簡単に受け入れられた。


「レージなら俺は歓迎だ、俺より強い神なんだぜ、あの陰気な邪神よりよっぽどましだ」


「儂も同じだな、あの状態から誰も殺さずに戦を納めた、惚れ惚れする様な男神じゃ、生贄を寄こせという奴よりよっぽど良い」


「あははっ私も同じね、敵じゃないって考えたら、あの神様凄く可愛いよね、陰気で気持ち悪い邪神よりずうっと良いわ」


「我が軍は数の暴力、弱い者も多い、あの男神の世界なら戦う事無く平和に眠る事ができる、賛成だ」


四天王は全員、礼二を神として祀る事に賛成した。


そして強い魔族は魔王との戦いを見て、その強さと魔王を殺さない懐の深さから、理想の神と考え、弱い魔族はこれで人間の脅威から守られたと考え感謝した。


結果、理性のある種族は全て、礼二を祀る事に賛成した。


魔族だから礼二と言う発音が難しいのかレージというのはご愛敬だ。


礼二は知らない間に邪神の後釜に座ってしまった。



【邪神SIDE】


何が起きたのか解らない、日に日に体が弱体化していく。


この世界の魔族の神は我しか居ない、だから魔族からの信仰は我に来る。


弱体化などする筈がない。


魔王に神託を降ろすも声も届かない...何が何だか解らない。


こんな急激に神力が無くなる物なのだろうか?


まさか魔王が勇者に倒されたのか?


いや、それは考えられない、今の魔王は生贄を使う事で考えられない位に強い。


それに魔王が負けた位では此処まで弱体化はしない筈だ。


まるで、そう、魔族が皆殺しにされて、我の信者が誰もいなくなった。


そう言うレベルの話だ...もう既に結界も維持できない...


誰かが来た、イシュタスか、あるいは勇者か、不味いぞ今なら我は討伐されてしまう。


「み~つけた」


黒髪の死んだような目をした少女、恐らく女神がそこにいた。


一見愛らしい少女に見えるが、その目の奥には光が無く、恐ろしい者に見える。


されど、我も邪神、怯える訳にはいかぬ。



「どこから入ってきたのだ、見た所神のようではあるが、人の世界に入るなど無粋ではないか」


「確かにそうだね」


「ならば出て行くが良い」


「女が押しかけるなんてはしたないと思うわ...だけど愛なのよ、愛の為なら仕方が無いの」


何だ、この女神、会った事が無いが我を愛しているのか。


「我を愛している?」


「馬鹿言わないでふざけているの? 私が愛しているのは礼二だけよ」


何を言っているのか解らない、この女神は狂っているのか。


「何を言っているのか解らぬ」


「礼二を愛しているの、だから貴方には何も恨みは無い...だけど、礼二との愛の為に貴方を頂戴」


そう言うと、死だような目をした女神の目が更に腐った様な目に変わった気がする。


そしてその女神は禍々しい刃物...鉈の様な物を取り出して私の首を跳ねた。


我は邪神、例え首を跳ねられようが脳味噌を破壊されようが核がある限り死なぬ。


だが目の前で体の中のの核が取り出された。


「此処に邪神の心が宿っているのよね、これは邪魔ね...悪いけど壊すわ」


なっなっそれを壊されたら我は我は消滅する。


「これで、邪神は消滅したはずだわ、この肉体を礼二に取り込めば邪神に礼二は成れる筈だわ」


《邪神、貴方は悪くはない、だけど、神になっても礼二は下級神、物凄く永くは生きられるけど何時かはお別れがくる、それが3000年後なのか900万年後なのかは解らない、だけど、確実にその時がくる、多分私はその時の寂しさに耐えられない...だからごめんなさい、貴方は私から何も奪っていない...だけどこの体...は貰っていくわね》




【くくり姫、礼二SIDE】



「どうしたの改まって」


「そのね、今日は礼二の為にご飯を作ったのよ」


「くくり姫の手作り? 凄く嬉しい、ありがとう」


「神は食事は要らないから、普通は作らないんだ、だけど礼二は凄く頑張っていたから作ったのよ...凄く美味しくないけど、神力の回復に必要だから食べてね」


「嘘、不味いの?」


「多分、凄く不味いと思う、だけど礼二には必要だからお願い」


「解った」


どれだけ不味いのか解らないけどこんな顔で言われたら食べるしか無いだろう。


「ありがとう、礼二、はい、あーんほら食べさせてあげる」


思った程不味くはない、何だか臭みがある肉だけど、それだけだ。


「思った程は不味くないよ」


「そう良かったわ、それでねこれはこの鍋全部食べないといけないから残さず、吐かないで食べてね、はいあーん」


「うん、解ったよ、所でこれは何の肉?」


「うふっ内緒」



《これで未来永劫、礼二と居られるわ、夫婦になって、邪神になった礼二と女神の私でこの世界を永遠に治めていくの...うん本当に幸せ》



くくり姫は可愛らしい笑顔で礼二に微笑んだ。





※寿命の話は神でなく仏からとっています、上の神が無限に生きられるというのは独自解釈です(諸説ありますが帝釈天には寿命がありますが、大日如来は寿命が無い、この辺りからの考えです)

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