第76話 VS 魔王

「全ての魔物や魔族の攻撃が一切効かない存在が居るだと」


余にその様な報告が上がってきた。


最大の敵である勇者をマーモンが討ち取ってから数多くの話があがってくる。


しかも、その件数はうなぎ上りで増えていった。



考えられる事は、新たな結界魔法だが、不意をついて後ろから攻撃しようが長時間攻撃しても通用しないと言う事だ。


しかも、阻まれるのでなく、完全にすり抜けるという異常な状態が起きるという報告だ。



こんな馬鹿な話は無い。


もし人間がこんな結界を持つなら、何故勇者達は使わなかったのか、少なくとも異世界から来た者はそんな事が出来なかった。


四天王を招集してその対応をしなくてはならない。


空の女王、破壊の王、破滅の孤王、地獄の皇王 を招集した。



すると、全員がその存在を聞いた事があり、特に破壊の王を名乗るマーモンは戦った事があるとの事だ。



「マーモン、お前は件の者と戦った事がある、そう言う事か?」


「恐らくはそのリーダーの様な男と戦った、その技を奥義と言っていたから、そいつかその師匠が広めたのだろう」


「それで、強さはどうだった、無論お前が余裕で勝ったのだろう? 手ごたえは?」


「いいや、勝ってねーよ! 引き分け...考え方によっちゃ、俺の負けだな」


今、何と言った?


負けたと言ったのか?


「お前は勇者パーティーを潰し、勇者を殺しギルガムの街を皆殺しにした筈だ、その時勇者はオモチャ以下と言っていたな、お前の話なら勇者より強い奴が居た、そうとれるが?」



「ああっ、勇者を殺して、遊びで剣聖の女を鎖で吊るしていたんだが、その時に来たんだ、何でも【剣聖の女の幼馴染】とか言っていたな」


「ほう、それでどうした」


「そいつの名前はレージ、何でもくくり神拳という凄い拳法の伝承者らしい」


「それで戦ったお前から見てその強さはどうだ」



「勇者なんて目じゃねーな、彼奴は恐ろしく強い、何しろ俺の全ての攻撃を無効化したんだぜ、本気でやりあったら100日戦い続けても決着はつかねーと思った、まぁ人間にしておくには惜しい位の奴だから、そのまま痛み分けだ」


「成程、何かハンデをやってその結果と言う事か、本気で戦った訳ではあるまい」


「ああっ、確かにハンデはくれてやったが、メギドを喰らわしたが、それでもピンピンしていた...スゲー男だ」



【空の女王】


マーモンが言う事が本当なら、私では到底敵わない存在じゃない。


メギドを私が喰らえば、確実に死が待っている。


しかも、今の話が本当なら、私の高速の攻撃すら無効にされる可能性もある。


そんな恐ろしい力を持つ人間が、その技を広げ始めたのだとしたら...魔族はどうなる。


勇者所じゃない脅威じゃない...



【破滅の孤王】


儂の力はマーモンに似る所がある。


そしてメギドは使えない...儂の敗北は濃厚だ。


そんな存在に出会いたくは無い。



【地獄の皇王】


我の軍団すら通用しない可能性が高い。


そもそも、言う話が本当なら勇者じゃなく、恐らく人類最強の男はそいつだ」




「マーモンよ、そいつこそが最大の強敵では無いのか? 何故余に報告を怠った」


「レージは言っていた、俺が破壊というなら、自分は護身なのだと、自分をウサギに例えてな、俺がどんな物も壊すハンマーなら彼奴はどんな攻撃も通じない盾だ...最強の盾はハンマーすら防ぐ、だが盾はハンマーを殴ってこない、故に攻撃をしない彼奴は敵にはならない...俺はそう思ったぜ、だから報告しなかった...多分彼奴は俺たちを敵と思ってない可能性すらあるし、理性的だ、剣聖と幼馴染なら勇者とも顔見知りの筈だ、なのにあの状況でも、戦いは避けたんだ。 まぁ本音までは解らないが」



幾ら、そいつが戦いを避け、理性的でも【人間】には間違いないだろう。


もし、人間との争いが起きたら、勇者が居ない今なら、そのレージとやらが出て来るに違いない。


マーモンから聞いた話からすれば勇者なんかより遙かに手強い。


四天王で話をした結果、マーモン以外の賛成により魔族による総攻撃を加える話になった。


「馬鹿め止めておいた方が良いぞ、折角ドラゴンが寝ているんだ起こす必要はないだろう」


だが、その警告虚しく、魔王を陣頭に総攻撃を加える事になった。


その攻撃の先は、聖教国だった。


今迄の魔族の中で、自分達と敵対する人類の要は此処だと解っていた。


そして、魔国から近い事もある。



魔王の決断は早かった。


流石に全軍は出ない物の約半数の魔族を率いて出軍をした。






【人類SIDE】


「司祭様、魔王が軍を率いて此処に来ています」


元教皇ロマーニの説得により、中央教会は今後、くくり教に引き渡される事になり、今正にイシュタスの像が壊された所だった。


これが王国、それも王都近くであれば、最早都市ごと【括られている】から破壊は不可能だが、ここ聖都はこの世界の建物ばかりだ。


しかも、今だ数多くのイシュタス教徒がいる。



「礼二教皇に連絡を頼みます」


「司祭様はどうされるのですか?」


「今こそ我々の信仰が試させる時が来たのです、くくり教徒が出ないで誰が出るのですか?」


その声の元に門の内側に信者たちが集まった。


その中には勿論、アンデルさんが居た。


今まさに門の外には魔王を先頭に数万の魔族が聖教国を取り囲んでいた。



既にイシュタス教徒は裏から逃げる様に指示した、此処にいるのはくくり教徒しか居ない。


だから、手は出せない筈だ。



「薄汚い魔族め、何とも醜悪な顔をしておる」


平然とロマーニは言い切った、彼は元教皇、魔族を一番憎む存在。


そして、くくり教を心底信じていた、故に一切の恐れは無かった。



そしてその傍にいる、アンデルも一緒だ。



「何だ、お前は、これ程の魔族を前によくも言えた物だ、後ろには魔王様もいるんだぜ、今からお前達に真の恐怖を教えてやろう」


「私はくくり教の司祭、魔族など恐れはしない」


そうロマーニが叫んだと共に、巨人の様な魔族の持つこん棒が振り落とされた。


だが、そのこん棒はそのまま地面を叩いた。


「そんな、俺のこん棒は間違いなくお前を捕らえた筈だ」


「私が信じる偉大なる女神、くくり姫はいかなる魔族からも守ってくれる、お前等等恐れない」


「馬鹿な、ならこれなら、獄炎の炎だ..あっ」



「私の信じる教皇様が言ったわよ、もしくくり姫様を心から信仰するなら魔王からですら守って下さるって、だからそんな物は通じないわ」


最初はその見た目に恐怖していた人々が、ロマーニや勇ましいシスターの様子を見て、その恐怖はどんどん薄れていった。



「くくり姫様は本当に魔族から我々を守って下さるんだ」


「魔王なんて恐れる必要が無い」



「魔族は立ち去れ」


「魔王は消え失せろ」


勝利の雄たけびが聞こえてきたが...




【魔王SIDE】



何て事だ、この世界の女神はイシュタスだった筈だ、それが違う神に信仰が変わっていた。


しかも、この女神を信仰するとあらゆる攻撃が効かなくなるのか...


手強い、イシュタスなんて比べ物にならない。


炎のブレスに、魔法、単純な暴力全てが無効にされる。


こんな物、誰がどうにか出来ると言うんだ...待てよ、此奴らに手を出せなかったが《物は壊せるじゃないか?》


門は明かに崩れている。


なら、簡単だ、此処を荒野の様に破壊尽くせば良い。


こちらも手を出せないが【あいつ等にも攻撃手段は無い】


ならば、それを止める手立てはない筈だ。


魔王は顔をゆがめ笑った。


「攻撃目標を変えろ、人ではなく物や建物を破壊しろ」


そう命令をだした。



此処が王都なら最早この攻撃すら効かないかも知れない...


だが、此処は聖教国の聖都、まだ街並みは日本化されていない...


魔王の目論見通り、街は破壊できた...


今まさに聖都の破壊が始まった。



【人類SIDE】



「ロマーニ様、これは」


「やはり気がつかれてしまった」


我々には手が出せない、王都の様にくくり姫様が守護している街では無い。


此処は、イシュタスの街のままだ。



「俺の家が、止めて、止めてくれ」


「私の、私の...お店が」


次々と街が破壊されていく。



「わはははっ、お前達には手が出せない、そしてお前達は我々に手が出せない...ならばお前達の大切な物を奪えば良い」


魔王の高笑いが続き、魔族の咆哮が鳴り響く。



ロマーニ達は教会まで後退していた。


此処は、教皇礼二様に住んで貰う場所、くくり姫様を祀る中心の教会になる場所、彼等にとってはかけがいの無い場所だった。


今まさにその場所に魔族が踏み込んでこようとしていた。



「その場所がお前達のかけがいの無い場所か...壊してやろう」


お互いに手が出せないと見た、魔王は後方でなく、前線に来ていた。



「ここは、ここだけは手を出させない」


ロマーニが両手を広げ、アンデル達シスターも同じ様に立ち塞ぐも、魔族や魔物達は体をすり抜けていく。


だが、その魔族の前に1人の人物が立ち塞がった。



「魔族は余程死にたいらしいな」


そこには日本の神のいでたちをした、礼二が立っていた。



「教皇様、来て下さったのですか? ですが...」


「教皇様」



「此処からは僕が変わります、皆は休んでいて下さい」



「はい、教皇様ですが...」


「大丈夫ですから、安心して下さい」



礼二の顔を見ると張り詰めた糸が切れたかのようにロマーニやシスターたちは座り込んだ。



「随分とやってくれましたね」



「貴様は何者だ」



「くくり姫の使徒、教皇を務めている、礼二」



「貴様が【護身】を語り、マーモンと戦ったというレージだな、だがどうだ、お前の護身では身は守れても大切な物は何も守れぬ」


「ならば、俺はお前から大切な物を奪わせて貰おう」


「ふっ、お前は究極の盾だ攻撃は出来ぬのであろう」



そう、僕はゴブリンにすら攻撃は出来ない。


恐らくマーモンもそうだ...だが魔王からなら奪える。


僕が走ると魔族が壁になった。


馬鹿な奴、そんな物は意味がない。


そのまま、魔王に近づく。


「どうせ、何も出来ぬのであろうが」


僕はそんな話を聞かないで、魔王の衣を握りしめた。


その瞬間魔王が着ていた衣が霧散した。


「貴様一体何をした、余の、闇の衣が」


そう、他の者は魔具をそんなに身に着けていない。


だが、魔王は勇者等から身を守る為に貴重な魔具を山程身に着けている。


日本に無い魔剣は触ったら霧散した、同じ事が魔具にも起きるであろうかとは想像がついた。


此処からは暫く、魔族には残酷ショーを見て貰う。


空の女王が空高く飛び立ち、その爪で攻撃を仕掛けてきた。


だが、それは僕の体を素通りする。


「お前達は僕の大切な者を傷つけ奪った、だが僕はそれでも平和な道を模索した、マーモンが幼馴染に酷い事をしたのに我慢した...奪われても奪われても我慢してやったんだ...それなのにまだ奪おうと言うなら、僕がお前から全てを奪ってやる」


「闇の衣は代々魔王に伝わる大切な物、それを奪った事は許さぬ、死を持って償え」


魔王は僕に殴り掛かってきたがそれも通りぬけた。


「そう、そんなガラクタより、僕の友達の手足は数百倍の価値がある...今度は此奴を貰うぞ」


僕は魔王の手を握った。


「ああっああああーーっ余の、余のデーモンズリングが、デーモンズリングが」


魔王の指に嵌っていた指輪が霧散した。


周りの魔族が止めに入ろうが片っ端から魔王の身に着けている高級そうな魔具を掴んでいく。


触れた瞬間にそれらの魔具が消えていく。


時間がたった時、そこに居たのはただの大きなスケルトンにしか見えない存在だった。


「余の大切な宝具が...貴様、赦さん、赦さんぞ」


「赦さない? 散々、僕から大切な物を奪ってきたお前が?今更だな、僕は魔族にだって命があるそう思って我慢してきた、だがそれでもお前は更に奪おうとした、なぁ、お互いが触れることも出来ない、これが理想だとは思わないか? 互いに争わないで暮らせるそうは思わないか?」


「我は魔王、人類は敵だ!」


「ならば、僕はお前を殺し、この世界を平和にしよう、ジョブ【尊】発動、草薙の剣召喚」


目の前の礼二が光り輝く、そしてその手には、神々しい剣が握られていた。



「待て、貴方、貴方様は...もしや人間ではなく、神なのでは無いですか?」


まぁ、僕は半人半神、間違ってはいない。



「だから、どうした、お前は人類の敵、そして僕は人類を守る存在関係ない」


そう言って僕は草薙の剣を軽く振るったら、簡単に魔王の腕は斬り落とされ、その余波で後ろの魔族数十体も吹きとんだ。



「やはり、神、そしてその手にあるのは神器、神よお願いがございます、余の身一つで魔族の命はお許し願いたい、余はどうなっても構わない」



「そうか、ならば...これで終わりにしよう、お互いに触れられないのだから、声を掛けるもよし、無視をするのも自由の筈だ、争わないで生きていけるだろう、魔王よ今の世界は弱い魔物も人間に狩られる事も無い世界でもあると思うぞ、冒険者や英雄が存在しないから、魔族や魔物も生き生きとし伸び伸びと生きれる筈だ、違うか?」


「貴方程の神が仕えるというくくり姫様という女神は魔族の事まで考えてくれていたのか、ならば余も考え直さなくてはならない」


「今迄が今迄だから直ぐにはむずかしい、だがまぁ気の許せない隣人からスタートさせれば良いと思いますよ、これで軍を引き上げてくれませんか」



「はい、今直ぐ軍を引き上げます、皆行くぞ」


魔王軍はそのまま全軍瞬く間に撤退していった。


「成程、道理で俺が勝てなかった筈だレージは神だったのか..がははははっ」


マーモンが高笑いをしながら帰っていた。




そして、僕もそのまま帰ろうとしたのだが...


元教皇のロマーニやアンデルさんが膝磨づいていた。


「何事ですか?」


「 礼二様は、礼二様は神だったのですね、道理で神々しい筈です」


「やはり、そうでしたのね、普通の人間に【括る】と言う様な奇跡の行為が出来る筈がありません」


「出来るだけ大事にしないで下さいね」


そう言い、立ち去ろうとしたが、裏から逃がした筈の、イシュタスの信仰者が戻っていた。


何でも裏側も魔族が居て逃げられなかったそうだ。



「教皇様が、神だったなんて、我々は何て事をしていたんだ」


「魔王ですら本当に寄せ付けない、これこそが真に守ってくれると言う事なのね」


「お願いです、私達を括って下さい」


望まれたので、此処で全員【括って】あげた。



これで恐らく、田舎や辺境にいる人は解らないが主要な国の殆どの人は【括った】状態になった筈だ。




「それじゃ今度こそ、帰りますね、これもくくり姫様に返さないといけないし」


「その乗り物は何でしょうか?」


「天の鳥船と言う物です、急いでくる必要があると言ったらくくり姫様が貸してくれました」


「流石は神...空を飛ぶ船に乗るなんて」


「これは本来は私ではなくくり姫様の乗り物なんです、今回は特別に借りただけです」


「そうですか、流石は女神です」


「神迄も降臨させて魔王と戦わせてくれるなんて、やはりくくり姫様は素晴らしい神様です」


「イシュタスなんて信仰していた私は飛んだ道化ですな」



何時までたっても終わりそうに無いので僕は強引に話を終わらせ帰った。






暫くして落ち着き、中央教会に再び来た時に僕は愕然とした。


くくり姫の像の横にその1/3の大きさで【神:礼二の尊の像】と書かれた像が作られていた。


「これは何でしょうか?」


「私は大司教です、神が目の前に存在するのに祀らない訳にはいきませんわ、神:礼二様」


「えっかみ、れいじ...様」


「そうですよ、神:礼二様、このロマーニ生きている間に神に仕えられるなんて思いませんでした、これからはより一層心から仕えさせて頂きます」



何でだろうか...僕は大事ににしないで欲しいと言ったのに、これ充分大事じゃないか、最早笑うしか出来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る