第56話 僕の友達ではない。

恐らく、王都で勇者達が過ごすであろう最後の日、僕は藤堂と東郷に会う為に街にでた。


ギルドであらかじめ彼らの行動について調べて貰っていた。


水上さんは下手したら恨まれている可能性がある。


だから、平城さんに一緒に来て貰った。


姿形が違う僕には会っても誰か解らないだろう。



買い物途中に偶然を装い会う。



「あれっ藤堂君に東郷さん」



「平城さん、そう言えばアカデミーにいるんだっけ久しぶり」


「本当に懐かしいね...その横の人はもしかして」



「うん、私の将来の旦那さん」


《平城さん何を言っているんだ...》


《お芝居ですよ、お芝居》


なんだお芝居か、驚いたな。



「へぇー中々のイケメン...と言うか凄いイケメンじゃない、私は東郷梓、剣聖をしています、良かったら愛人、ううん旦那にならない? 私剣聖をしているんだ、生涯楽させてあげるよ」



変わってしまったな、昔は自由奔放で我儘だったけど、こんな権力や金を使う様な奴じゃ無かった。


そしてもう一人...藤堂、お前はそれを見て何とも思わないのか?



「勇者様もそう思いますか?」



「ああっ梓は剣聖だ間違いないぞ、それが良い」



「惜しかったな、もう既に僕には平城さんが居るから」



「そう、だけど、そこ子と違って私は正式な剣聖よ帰って来たら貴族確定、私にした方が良いわよ」


「俺もそう思うぞ、帰ってきたら俺は王族だ、顔を覚えておいてやるぞ」



本当にもう、昔の藤堂や東郷じゃない。


最早、権力の虜になっている。


権力に取りつかれ、その能力に取り込まれたなら好きにすれば良い。


少なくとも友達の旦那を権力を使い奪い、それに抵抗が無いならもう仲間じゃない。


ここには正義感が強かった藤堂も我儘だけどどこか憎めなかった東郷も居ない。



「すみません、本当に、既に家族に紹介済みですから申し訳ございません」



「そうか、それじゃ仕方ないな」


「ちょっと、藤堂...」


「その位の男、手柄を立てた後なら買って貰える、市民の平城の男なんだから諦めろよ」


「でも...」



「エルフの男でも買って貰えば良いだろう...エルフに勝てる美貌の男は居ないらしいから」


「そうね...解ったわ、そんな男要らないわ、それじゃあね、平民の平城さん」




この世界の女神イシュタスの名前と権力を行使する...なら義務を果たすしかないな。


此処に居るのは僕の友達じゃなくて、只の勇者と剣聖だからな。









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