第53話 不完全燃焼
多分、これから揉める事になる。
だから、先に手を回す。
平城さんと一緒に警備隊の詰め所にいった。
「あの礼二さん、三浦さん、湯浅さん...アカデミーの関係は詰め所に訴えても無駄ですよ」
「今迄はね...とりあえず見てて」
「はい」
《無駄だよ、取り合ってなんてくれない》
「平城綾子さんは日本に括られたのでこれから先であれば、暴行や傷害等で訴える事もできますが、その時は《日本に括られていません》その為我々は動けません」
そうか、確かにあの時はまだ《日本に括られていない》過去の賠償は出来ないのか...
「ねぇ言った通りでしょう?」
「ですが、このデーターはしっかりと把握しておきます、同じ事が今度起きたら、直ぐに対応致します」
《嘘、次は対応して貰えるの?》
一応、冒険者ギルドに顔を出した。
弁護士の代わりがギルド職員だから、民事でと思ったが...
無理だった。
「その時はまだ《日本に括られていませんから無理です》 ですが、もうアカデミーに行かないで済むようには出来ます。日本には職業選択の自由があります。まして今回の様な場合は、身を守るために直ぐに辞めるのも良くあることです。 また今後一切アカデミーは平城綾子さんに関わらないという念書を書かせる事も可能です」
待てよ、そうか...三浦さんや湯浅さんは現在進行形で苦しんでいたから、ああなったのか。
それに対して、平城さんは《日本に括られて》からは被害にあっていない。
だから、こういう判断になるのか。
何だか判断基準が解らない。
納得いかない...何かないか?
「待って下さい! 平城綾子は《日本に括られてからも》精神的苦痛を負っていて私生活に影響があります」
「それは請求が可能ですね、それでは《即時退職》《関わらない》《少額の慰謝料》それらの交渉で良いですか?」
本当はもっと罰をくだして貰いたい、だけどそれしか出来ないなら仕方ない。
こういう所は何故か日本は弱かった気がする。
日本にだってブラック企業勤めは多い...仕方ないか
【平城さんと】
一旦家に帰ってきた。
取り敢えず、シャワーを浴びてゆっくりして貰ってから今後について考えようと思う。
まぁ、平城さんは健康だから僕とサナと一緒に薬草の採取を手伝って貰おうと思っている。
「その人が...」
「そうだよ」
「初めまして、平城綾子と申します、お世話になるね、えーと」
「私はサナ、宜しくね」
案外サナは人見知りしない...本当に助かる。
「あの、この部屋は何で日本製の物ばかりなの? どうやって手に入れたの?」
「それなら、これから先、平城さんも手に入りますよ」
「だって平城さんも日本人になって括られたから、買えるよ、詳しくは後でね」
「そう、解った、ありがとう」
シャワーを嬉しそうに浴びて、疲れていたからかベットを使って良いと言ったら、ダイブして眠ってしまった。
折角だから、その日夕食を外で食べたら、平城さんはカレーライスがある事に驚いていた。
平城さんは余程カレーライスが好きなのか、カレーライスを5回もお代わりしていた。
そしてドラッグストアに入ると...もっと驚き。
「日本に帰ってきたの」と誤解をしていた。
説明するとガッカリしていたが、飲料水の棚からコーラを買っていた。
「まさか、また飲めるなんて」と凄く感動していた。
僕は、仕返し出来ない事で不完全燃焼だったが...少なくとも平城さんは救えた。
そう思い満足する事にした。
【後日談】
ギルドの職員は弁護士としても優秀なのかも知れない。
即時退職の手続きの代行に、今後一切かかわらないという念書に慰謝料30万を翌日には持ってきた。
そして、凄い事に《今後一切かかわらないという念書》には何と王の名前すらあった。
これで晴れて、平城さんは抜け出せた事になる。
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