第52話 賢者解放
水上さんから話を聞いた僕は平城さんが凄く気になった。
一応は釘をさして、問題のある人物は粛清されたかも知れないが。
恐らくは、そんな小物じゃ無くて、もっと上が絡んでいる筈だ。
推理してみれば解る。
恐らく今回の黒幕はアカデミーその物に、大物貴族、場合によっては王族、王まで関与している可能性が高い。
これはあくまで僕の考えだが、三浦さんと湯浅さんは払い下げ、つまり貴族に売られてしまったような物だと思う。
勿論、全部がお金と言う訳でなく、貴族としての忠誠等が絡んでいる気がする。
そして平城さんは水上さんの話だと虐められていた。
理由は
恐らくは苛め抜いて値をあげるのを待っている。
普通に考えて、態々元、賢者の彼女を虐める訳が無い。
最初に平城さんのステータスを見た時に凄い物だった記憶がある。
アカデミーが魔法を基盤にした組織なら、そんな人間は凄く貴重な筈だ。
優秀な人間に対するやっかみはあるかも知れないが、普通なら貴重な人材の彼女を庇う人間もいる筈だ。
水上さんは平城さんの賢者としての席が残っていると言っていた。
そこから、考えられるのは...
《徹底的に苛め抜いて、泣きついて帰ってくるのを待っている》
そうとは取れないだろうか?
アカデミーに居場所が無くなれば、平城さんはこの世界に頼る人は居ない。
そこに付け込んで、国に戻し《賢者》にしよう、そんな所じゃないかな。
そう考えたら、恐らく周りの人間は虐めを止める事が出来ない筈だ。
昨日、聖女である、水上さんが、人を殺して脅し迄かけた。
今なら、多分綻びが見えるかも知れない。
残念ながら、僕の容姿は変わってしまったし別人として生活しているから関与が難しい。
だが二人は同級生だ。
三浦さんと湯浅さんと一緒に行ってみるしかない。
二人に話をしてみたら...
「良いですよ、だけど、礼二さんって凄く優しいんですね」
「会った事も無い平城さんの為に動くなんて」
「いや、2人が頼まれていたし、話を聞いたら放っておけなくて」
こういうしかない。
「確かに、様子位は見に行った方が良いかも知れませんね」
「そうですね、私達の問題に巻き込んですいません」
確かに平城さんと僕は《接点がない》事になる。
まぁ良いや...兎も角状況を見に行った方が良い筈だ。
【アカデミーにて】
やはり様子がおかしい。
面談を申しこんだが、やんわりと断られた。
仕方ないから水上さんの名前を出した。
「仕方ない、聖女の水上さんから様子を見に行くように言われてきたけど、会わせて貰えなかったって伝えるよ」
「そうだね、そう言うしかないね」
「ちなみに、私達が会えなかったら、明日水上さんが来るから、後の対応頼みます」
「聖女様と知り合いなんですか? 平城とどういう関係ですか?」
既に、メッキが剥がれてきた《平城》って呼びつけだ。
「僕は違いますが、この二人は同じ異世界人です、水上さんとも、平城さんとも親友という仲です、もう関係ないか? 多分今日報告したら明日には聖女の水上さんが来ます...一緒にもし僕が来る事になったら《貴方が会わせてくれなかった》と伝えますね? 死なないと良いですね」
「あの、それって...止めて下さい、私にだって家族が居るんです」
「そうですね、ですが、聖女である水上さんは、既に貴方達が平城さんにしていた事について知っていますよ?後は確証を掴むだけです」
「本当ですか?」
「誰が関わっているか、解らないですが、かなり酷い事をしていたみたいですね...かなり上まで絡んでいるみたいですが、無駄です、水上さんが報告する相手は教皇様らしいですからね、まぁどちらにしても僕はもう関係ありません、正直言えば私はトカゲのしっぽ切りで殺される方が可哀想だから、まず平城さんに話を聞いて、実行犯を教えて貰って、指示していた人を聞くつもりでした...あっ実行犯は余程酷く無ければ、罰は無いようにしようという考えもあったんですよ...ただ命令に従ったのに、死罪とかかわいそうですよね」
「そこ迄、聖女様は掴まれていたんですか...それじゃ、私達も、そんな」
掛かったな、既にあらかじめ用意していたボイスレコーダーを回している。
「それじゃ、僕は帰ります、明日聖女の水上さんが来ますから...それじゃ」
三浦さんも、湯浅さんも席を立とうとした。
「家族がいるのに可哀想じゃないですか?」
「仕方ないんじゃない? まぁこの人だけで済めば良いけど、多分水上さん怒っていたから、家族も多分...行こう」
「仕方ないですよね...可哀想に」
水上さんは昨日人を殺したのだから...これで充分な脅しになる筈だ。
「待って下さい!あの、正直に話せば、温情は貰えますか? 私はスミマセン指示していた人間です、ですが私は逆らえないんです...しっぽなんです」
「解りました教えて下さい...貴方のお陰だと言う事も水上さんに伝えますから、安心下さい」
「助かります、あとスミマセン」
「他の方に恨まれないように匿名にしますから、そちらもご安心下さい」
「有難うございます...部下たちも助けて下さい」
「なら、助かりたいならその方達も連れて来て下さい、その方達も素直に話すなら、処分が無いようにします」
何だこれは...22人もいるじゃ無いか?
これが全部、加害者か、こんな環境で働いていたら精神が可笑しくなる。
聞けば聞く程酷い話だ。
朝5時から夜中の1時まで働かせていた。
活躍が出来ないように《魔法を教えない》
賢者なのに平城さんは呪文も教えて貰えてなかった、そうする事により此処から出て行かなくする為だ。
仕事は事務職のみで、難しい仕事を与えていた。
現地人じゃない平城さんでは理解が困難な仕事を優先させて与えていた。
そして失敗すると人格を否定する様な罵詈雑言を浴びせていた。
そしてパワハラにセクハラ。
蹴ったり、殴るのは当たり前、人前で服に手を入れられ胸を揉まれたり、股やお尻も直接手を突っ込んで触ったりしたそうだ。
更にトイレやシャワーも数人の男性で覗き...寝ている平城さんに抱き着いたりしていた。
「まさか、犯したりして無いだろうな...そうだったら」
「それは絶対にしていません、王からの達しで《絶対にそれをしてはいけない》と命令がありましたから」
王まで関わっていたのか...最悪だ。
命令されていたから、命や操は大丈夫...だけど、その事を平城さんは知らない。
知らない平城さんは、毎日が怖くて仕方なかっただろう。
女子高生が逃げ場所が無い状態で、こんな事されていたら怖くて仕方なかっただろうな。
「解りました、貴方達は正直に話したから、聖女様にも教皇様に言わないように伝えます、後は平城さんに会わせて下さい、現状確認させて頂きます」
「有難うございます、私もこんな事したく無かった...おい、直ぐに平城さんをお連れしろ」
「はい」
「あのぉ、本当に助けて貰えるのでしょうか?」
「ええっ約束しますよ」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「有難うございます」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
直ぐに平城さんが連れて来られた。
僕が見た平城さんは前に見た時と違って窶れていて、見た感じ20代後半に見える位老けていた。
綺麗な黒髪はフケが浮いていて、目には凄い隈が出来ていて少し窪んで見えた。
多分、洗い物する時間も無かったのかも知れない。
襟裳が垢だらけだった。
これがこの世界のやり方か...
法整備されていない、これが異世界なのだと解った。
「暫く、僕ら4人にして下さい」
そう言うと、安心した様に彼らは去っていった。
《自分達は助かった》そう思ったのだろう。
【平城さんと】
「あれっ、湯浅さんに三浦さん...嬉しいな会いに来てくれたんだ、だけどその腕大丈夫?」
「そうね、大丈夫とは言えないけど、今は幸せかな?」
「私ももう走れないけど、今は幸せだよ」
今の僕は黒木礼二じゃない。
平城さんにとっては初めての人間だ...三人で話させた方が良いだろう。
三人は自分達の境遇について話していた。
暫く話すと三人は抱き合って泣いていた。
特に平城さんは鼻水まで出しながら泣いていた。
「平城さん、初めまして礼二と申します」
頃合いを見て挨拶した。
「初めまして、平城綾子と申します、2人を助けてくれてありがとうございました..」
「いえ、同じ日本人ですから当然の事です」
「そうですか...」
多分遠慮しているんだろうな...彼女は奥ゆかしい子だから。
「それで、本題ですが、僕たちの助けは必要ですか?」
「あの...それでは迷惑を掛けてしまいます」
「僕は水上さん、三浦さん、湯浅さんに頼まれて此処に来ました...貴方が僕たちを信じてくれるなら、寝床に充分な睡眠、食事、住む場所は保証します、勿論無償ではありません、働いて貰います、だがそれはほぼ日本に近い生活でです」
平城さんは戸惑っている。
確かにこの環境じゃ、そうなって仕方ない。
「あの...何かリスクがあるんじゃないでしょうか」
「多分、魔法が使えなくなります、あと女神への信仰を捨てて貰います」
平城さんは驚いた顔をしている。
「それだけですか? それだけで良いならお願いします」
多分、日本に括れない人は《女神への信仰》が強い人だ。
この世界の人間は一神教だから、ほぼすべての人間が信仰している。
ジョブも女神が与えた物だから信仰が薄くなると消えるのかも知れない。
馬鹿な異世界人だ...
こんな馬鹿な事しているから、平城さんはもう既に女神が好きでない。
恐らく、魔法を使わせても、賢者の力はおろか、真面に魔法も使えなかった可能性もある。
だって《平城綾子を日本に括りますか》そう僕には聞こえてきたから。
「それじゃ平城さん帰ろうか?」
「何処に行くのですか?」
「僕らの家に」
「此処から勝手に出て行って大丈夫なのですか?」
「勿論、もう平気だよ...そうだ」
横を見ると三浦さんも湯浅さんも頷いていた。
「「「日本へようこそ」」」
そのまま不思議な顔をした平城さんを連れて僕たちはアカデミーを後にした。
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