第51話 聖女の王都見学2日目 狂信者

夜一人で眠ると、凄い罪悪感と恐怖が襲ってきた。


飛び散る首や内臓...ホラー映画の世界を実際に目にした。


しかもそれを行ったのはモンスターで無く自分。


だけど、仕方ない...この世界は命が軽い世界なのよ。


こうしないと死んでしまう。


もう、祥吾と梓は諦めることにした。


幾らいっても解らない。


今日もお小遣いが沢山あるからと王都で贅沢三昧をしていたらしい。


祥吾は多分、終わる気がする《弱い者いじめが嫌いで優しく、博愛の塊》確かにそうだけど、あの優しい祥吾が人を殺せるのか?


人の言葉を話す魔族を斬れるのか...無理じゃないかな?


女に手を挙げない信条の彼が、魔族のサキュバスやダークエルフを斬り殺せるのか...無理何じゃないかな。



梓はどうだろう、基本彼女は努力しないで何でも諦めるタイプの人間だ。


「スマゲだけしてたいわ~」


と勉強も碌にしない。


一応、進学を目指しているが、それは進学すれば《4年間働かない期間》が増えるからだ。


そんな彼女が、戦いの人生を送れるとは思えない。



此処はゲームや小説じゃないのよ...もう同級生が何人も死んでいる。



《自分達は違う》何て言い切れる訳は無い。



しかも、恐らくだけど、異世界人は、表向き大切にしているが、本当はそんなに大切にには扱わない。


多分、役に立つ最高の道具の一つなんだと思う。


ただの道具...此処をでて仕事の斡旋も意味がない...平城さんを見れば解る。


あそこはアカデミーだから、この世界ならかなり良い場所の筈...それがあれだ。


ならば、此処から逃げる方法は、黒木みたいに、縁を切るように居なくなるしかない。


だけど...こんな世界で《1人で生きていけるのかな?》


多分、無理だ。



明日は、この世界で生きている、日本人に会えるかも知れない。


もし、此処を飛び出して生きて行く方法があるなら、その方が良いかも知れない。




【二日目】




祥吾も梓ももう駄目かも知れない。



祥吾は婚約者の第二王女のアイシャ姫とデートに出るそうだ。


アイシャ姫は確かに綺麗だ...だが所詮は第二王女政には参加しない、そしてその周りにはアイシャ姫のお付きこれまた凄い美女に囲まれている。


多分アイシャ姫は...生贄だ。


恐らくは祥吾を落とす為だけに存在している、そう言っていいそれしかしていない


他の王族が仕事をしているなか、彼女とその取り巻きだけが《何も仕事をしていない》



梓はと言うとイケメンの貴族の男に言い寄られている。


スマホの恋愛ゲームが好きな女の子がこんな状況に何時までも居られないだろう...落ちるのは時間の問題。


そして、妾腹の実は王族の血が入っているテデュークまで加わってきた。


こっそり王が梓に「あの子が不憫で」と言っていた。


高貴な血が入った、薄幸の王族...まるで、梓の物語から出て来たような人。


恐らくは《梓の好み》の男性を用意したんだと思う。



距離さえ置いて冷静になれば..解る事だ。



だが、2人は終わった。



もう駄目だと思う、幾ら祥吾でも、あれは拒めないだろう。


秋葉系のアイドル48人全員あげます...高校生の男の子が拒めるわけ無い。




そして、絶対に手に入らない夢の世界にいる梓...こちらも駄目なんだろうな。



私はもう二人は見捨てる事にした。




私は単独行動をして、冒険者ギルドに来た。


受付で話を聞くと、何でも怪我が元で外にいけないから、家に来て欲しいという事だった。


何でも、先方は私の名前を聞いてから了承してくれたそうだ。


私が聖女だからだろうか?


結構良い部屋に住んでいるんだな。



私は軽くドアをノックした。



「水上さん、お久しぶり、元気だった?」


「何だか元気ないみたい」



なんで二人が此処にいるのよ。



「三浦さんに湯浅さん...生きていたんだ、良かった~」


「まぁ、物凄く悲惨だったけど、今が幸せだから良いかな」


「うん、あれは地獄だった」



二人の目が凄く淀んで行くのが解った。


それより、嘘、両手とも義手なの...どれだけ大変な事があったのだろう。


良く見たら足も器具がついている。


どう考えても満足な生活を送れている様には思えない。



「何があったの?」


「それを聞きたいという依頼だから仕方無いか」


「もう吹っ切れたからいいよ」


2人が話した話したはこの世の地獄だった。


やはり、この世界は冗談では無い位に狡猾だ。


これじゃ、沢山の仲間が死ぬ筈だ...


しかも、この世界は魔族だけでなく...人の敵も沢山いる。


こんな世界、来るべきじゃ無かった。



あんな女神の話に乗るべきでなかった。


此処に来なければ、私は女子高生として、平和な世界に暮らせたのに、あの女神に騙された。


こんな話し聞いたら、もうどうして良いか解らない。


2人が味わった様なことは恐らくは日本なら味わなかった筈だ。


此処は地獄だ。



女神イシュタスは、私にとって最早悪魔にしか思えなかった。


だけど、三浦さんも湯浅さんも凄く幸せそうなのは何故だろう?


両手を失い、真面に歩けない、それなのに幸せに見える。


良く見たら、髪の毛も綺麗に手入れされている。


私より手入れが行き届いているかも知れない。


そんな地獄の様な思いをしていたのに...何で笑っていられるのかな?



「その割には凄く幸せそうだけど?」



「えへへ、まぁね...うん、今の私は凄く幸せだよ..うん」


「私もね..」




「あっ、もしかして彼氏でも出来た?」


二人は顔を赤くしている。


どうやら図星の様だ。



「うん、出来たよ」


「うん、凄く素晴らしい人」



二人を見れば解る、高級そうな義手に歩行道具、それに清潔な服に行き届いた手入れ。


うん、きっと良い人なんだろうな...



「素敵な人みたいね、もしかしてその人も日本からきたの」



「そう、礼二さん...凄く綺麗で優しい人よ」


「凄くカッコ良いの...」



「嘘、ここに黒木君がいるの?」



「あっ違う、礼二違いだよ、別の人」


「たしかに雰囲気は似ているけど違う人だよ」



そうか別人...ん、その人は、私達と違う日本人だ。



「ねぇ、その人に会えたりするかな?」


「あっ、奥にいるから呼んであげる」


「そうそう、水入らずに話せばって仲間と奥に居るから」




「そうなんだ」



はぁ~幸せな筈だわ、とでもないイケメンじゃない...あの祥吾が確実に見劣りする。


というか、これより綺麗な人なんて存在するのかな、あの自称女神よりも絶対綺麗だわね。


貴族や王族ですら...この人の前では石ころに見える。



「初めまして、礼二です」


「貴方が礼二さんですか」


「はい」



こんな人に出会って助けて貰えて、介護して貰っているから、多分幸せなんだね。


うん、この世界じゃ珍しい、良い人だ。



礼二さんは《迷い人》だそうだ。


本当に良い人だ。


嫌な言い方だけど同郷の人間なのか凄く優しい、この世界の人間とは違うな。


この人なら安心だ。


何より、三浦さんも湯浅さんも凄く幸せそうに笑って居る。


奥から覗いている子も同じだ。



「いいなぁ、此処は本当に、楽しそう」


三浦さんも湯浅さんが一瞬、礼二さんの方を見た。


彼は頷いた。



「ねぇ、水上さんもし本当に困ったら頼ってきて」


「そう、助けてあげるからね」



「あの、私は聖女だから...」



私の不安な気持ちが読み取られたのかな...


確かに落ち込んでいたよね..


友達って有難い...



「私は聖女だから、他の人みたいに多分抜けられないわ」



「ねぇ、水上さん、神様って信じる?」



「信じるに決まっているわ、見たでしょう?」


「あんな糞みたいなのは女神じゃないわ、あれはクズ女っていうのよ、ねぇ真理」


「ええっそうね、くくり様とあんなクズ比べるだけ無駄よ」



《なんかどんどん、酷くなっていくな》



「まって、この国はイシュタス様しか居ない...」



「だから、あれはクズなのよ、クズ、神なんかじゃわ」


「そうよくくり姫さまこそ神なのよ...唯一絶対神なのよ」



嘘、狂信者なの...あんな事があったから心が壊れたのかな。


日本にも居た...だけど、あそこ迄不幸だから仕方無いかもね...これが心の支えなら。



「そうくくり姫様ね解ったわ」



そういうしか無かった。



最後に平城さんの事を頼んで此処を後にした。


私が王都から旅に出たら、また何かされるかも知れない。


それなら、可笑しな宗教を信仰していても、この人たちは守ってくれそうな気がする。


居もしない、くくり姫なんて信仰しているが...教義は悪くないと思う。



だが、可笑しな事に、さっきから黙って話を聞いている礼二さんが、平城さんの話を聞いた時に顔を顰めていた。



如何にこの人がお人よしでも只の人間がアカデミーを敵にはできないよね。


たぶん、三浦さんも湯浅さんも誇張している。


自分を助けた男性をヒーローの様に思っているだけだ。


それだけだ...



だけど、もし、本当なら、平城さんや私も助けて欲しい...無理だよね。



今迄黙っていた礼二さんが私に微笑んだ。



「もし、貴方が女神を捨てても助けて欲しいと言うなら、僕が絶対に助けてあげる」



これが方便なのは解る、そんな事は...だけどその言葉は凄く魅力的だった。



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