第49話 第二章 悲しみの勇者篇 聖女静香 今夜も眠れない。

私の名前は 水上静香、異世界に来て聖女をやっています。


ただ、此処で問題を感じるようになりました。


本当に私達が、魔王に勝てるかどうかです。


どう考えても、祥吾や梓が魔王に見える未来が見えない。


頭の中では死んでしまう夢ばかり見る。


こんな時、《平城綾子》が居ないのが痛い。


脳筋の2人と違ってもし居てくれたら、冷静に考えてくれそうな気がする。


本当に、女神はしっかりと考えてジョブをくれたのだろうか?


《藤堂祥吾》は解る、文武両道を地で行く人物だから勇者と言うのは解る。


では、《東郷梓》はどうだ? 少なくとも彼女は剣なんて振るった事は無い。


どちらかと言えば、インドア派でスマホの恋愛ゲームに嵌っていた。


そんな子の何処を見て剣聖にしたのだろうか...


少なくとも、あの場所には剣道小町と言われる三浦陽子が居た。


小さい頃から、竹刀を握り剣道に生きて来た、彼女こそが誰もが剣聖だと思っていたが...剣聖は梓だった。



あの女神イシュタスは、一体何を基準にジョブを決めたのだろうか?


なんで聖女が私なのかも解らない。


私は医療行為なんてした事が無い。


そんな高校生は居ないが、たしか青柳さんは医者の娘だった。


余程そちらの方が潜在能力が高いと思う。


そもそも、同じ高校生でそんなに能力に差なんて無い筈だ。


確かに省吾は凄いと思うけど、もし不良が徒党を組んできたら負けるだろう。


所詮高校生何て五十歩百歩、どんな違いがあるのだろうか?


強い戦力が欲しいなら武道家でも呼べば良い。



たしかに、祥吾も梓も強くなり騎士と戦ってもひけはとらない。


だが、強い騎士や字持ちの騎士にはまだ勝てない。


戦闘訓練の時に指導係から褒められるが...


この世界の人が勝てないから私達を呼んだのだろう?


それが騎士と競っている時点で希望は無い。



これから成長したら変わるのかな?


今日も同級生が1人死んだ。


死んだ中には聖騎士のジョブ持ちも居た。



少なくとも良いジョブを貰っても死ぬ時は死ぬ世界なのは解る。


平城さん....皆は笑ったけど、逃げ出した貴方の勝ちなのかも知れない。


黒木くん、僅かなお金で出て行ったと聞いたけど、ただの市民には戦う義務はない。


少なくとも貴方は、死んでいった同級生よりましな人生を歩んでいるわ。


例え、地位など無くても、死なない人生の方が良いと思う。



私達の未来は決して明るくない。


魔王討伐後には莫大な報奨が貰え、祥吾は第二王女と結婚して王の一族に連なる。


だけど、それは...あくまで《勝った場合》 負けたら死ぬし、もし死ななくても多分罵倒され此処には居られない。



祥吾、梓...なんでそんな楽観的なの?


私は心配で今夜も眠れない。



まさかの状況



頭の中を整理してみた方が良いと思うのよ。


召喚されたのが全員で37名



そのうち勇者パーティーが私を含み 3名


信仰の理由で出て行った人が 1名


仕事の斡旋を受けた人が 6名 (2名行方知れず)


貴族と伴に出て行った人が27名 (17名死亡)



こんな時、聖女って言うのは凄く都合が良い。


教会関係者に聞けば《内緒ですよ》と言いながら大抵の事は教えてくれる。


まだ、そんなに月日はたっていない。


それなのに、もう17名が死んでいる。


この間は14名と聞いていたのにまた3名増えた。


これで半分が死んだ事になる。


更に言うなら行方不明の2名は死んでいるんじゃないかな?


信仰が違うと出て行った黒木君だって死んでいるかも知れない。


もし、3名が死んで居たらもう20名が亡くなった事になる。



何で死ぬのかな?


女神様から戦えるように凄いジョブを貰った筈だ。



そして、仲間は凄腕ばかりが集まっていた筈だ。


あのお見合いの様な仲間を集うパーティーでかなりの数の人が《字:あざな》持ちだった。



騎士に聞いた所、字を持つのは強者の証で《強い人間》は自然と字で呼ばれるらしい。



確かに、和樹くんの所の話を聞いていたら「疾風」「灼熱」なんてとんでもない字持ちとパーティーを組んでいた。


和樹はどんなジョブか解らないけど、仲間の2人どう考えても強い筈だ、そんな凄い字を持つ人と組んでたら、簡単に負ける訳が無い。


和樹の話を聞いた所...


「あそこの領地には強い人はいないからですよ、如何に異世界の戦士でも周りが弱ければ足を引っ張られる事もあります」


そんな風にシスターが言っていた。



なんで...なんでそんな嘘の噂が広がっているのかな?


あそこには少なくとも、疾風の何だっけ? 風の様に早い女の剣士と灼熱の...凄腕女メイジが少なくとも居たはず。


話だけ聞いたら、勇者パーティーの劣化版みたいな感じだった。


それがあっさりと死んだ。


しかも、その事を隠そうとしている節がある。



その事から考えられる事は....



魔族と人間の間には想像を超える程の差がある。


そう考えなければならない。



多分、この戦いは負け戦、勇者は魔王に勝てない。


そして人類は魔族に対抗できない位弱い...まさかそういう事なの?


考えたくないが...そうとしか考えられない。




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