第41話 【閑話】死ぬ者達

はぁ~凄く頭が痛い。


ダモンが捕まって、処刑されてしまった。


まぁそれは良い、良い仕入れ先であるが、うちは潜りで無くしっかりした奴隷商。


ちゃんと目利きをして奴隷を買っているそれだけの関係だ。


それより問題なのは、この6人の奴隷だ。


男が4人に女が2人、元ハルテン男爵とその仲間だ。


ハァ~どうしたものかな?


まさか、こんな事になるなんて思わなかった。


仕入れた奴隷が大きな犯罪に絡んでいたとはな。


ただの犯罪なら良い、ただ問題が王家絡みの犯罪で国王から嫌われている奴隷だと言う事だ。


はぁエルフ程じゃないけど、貴族って事で高かったんぞあいつ等。


チクショウダモン、最後の最後でこんなのを掴ませやがって。



奴隷商は国の許認可しっかりした商売。


だが、国が許認可を取りやめたらもう商売は出来ない。



国王が自ら裁いた裁判でダモンは死刑になった。



※この世界は本来貴族しか裁判権は無く、決定権は王にしかない為裁判長が王だっただけです。



一時とはいえ、此奴らは仲間になっていた。


しかも、あの両手のない奴隷にも関与している様だ。


痛いが、此処で損切りしないと後が大変だ。


僅かなお金を惜しんで、大変な事になったら事だ。



「お前等を奴隷にするのは止めだ」


「どうしたんだ、解放してくれるのか?」


「貴方、良かったわ」



「まぁな、よく考えたら貴族だ国王に渡す事にする、後は国王に頼むんだな」



「そうか、確かに私は男爵だ、失態があったとはいえ国王に引き渡した方が得だな、無事貴族に返り咲いたら褒美をやろう」



こうして、ハルテン男爵は王城に連れていかれた。



「どうしたんだ、奴隷商、何の用事だ」


「実は...」


「成程、ハルテン男爵様を連れてきたと言う事か? 確かにその方がトラブルが少ないな、解った私が王の元にお渡ししよう」


「宜しくお願い致します」



けっ、無駄金つかわせやがって。



「ハルテン男爵、よくぞ来られたな」


「はっ王、助けて」


「良い」


「...」


「お前は死刑だ、連れていけ」


「なっなっ何故でございますか?」


「貴族という者は国を守る者、それがこの国を転覆させる者に一時とはいえ汲みするとは言語道断、しかも助かる為に随分と恥知らずな真似迄したそうだな」


「それは」


「私は優しいぞ、辱めなどせず楽に殺してやる、貴族の体面の為にギロチンで良い...すぐにハルテンを連れていけ」



「そんな」



その場で死刑を言い渡され、その日のうちに家族6名がギロチンにかけられた。




【旧ハルテン領】


「王国軍が直ぐそこ迄来ているっていうのか?」


「ああっ、さっき林で見た、凄い人数だった」



「ようやく、ようやくこの暮らしが終わるのか、長かった王国軍が来てくれるなんて」


「魔王との戦いばかりで見捨てられたと思っていた...ようやく元の農夫に戻れる」


「あなた、良かったわね、この子ももう10歳、いつ奴隷に売られるかと」


「これで助かるんだ...いいか悟らせないようにしないと、ダモンの仲間に知られないようにするんだ」


「そうね、解ったわ」



その日のうちにその噂は流れた。



「おい、何をするんだ」


「王国軍が直ぐに踏み入れられる様に裏門の楔を抜いて置くんだ」


「そうか、お前頭がいいな、たしかに直ぐに入れるようにした方が被害が少ないな」


「そうだ」


「なら、俺は西門を開けて置く」


「それが良い」



「これで助かるわ、これであのならず者の相手をしないで済むのね」


「ラルフの元に帰れるのよ、悪夢はもう終わり」


「これで旦那と娘に会えるのね、あんな奴に抱かれないですむのね」



何時、王国軍が助けに入ってくるのか、期待を胸に待った。


外から勇敢な兵隊と騎士の足の音が聞こえてきた。


多分包囲が終わり踏み込んでくるのだろう。


もうこれで大丈夫だ...少しでも早く逃げられる様に門の近くに...


確かにダモンの仲間は膨れ上がり4000近くいる。


だが、その中でダモンと意思を同じくして悪行を働く者は500位しか居ない。


他の3500人以上はダモンとその仲間が怖くてしたがって居る者が殆どだ。


その中には勿論ハルテン領の人間も多くいる。


門があき、期待の王国軍が流れ込んできた。


恐らく1万近く居るだろう、これなら助かる、ようやく終わるんだ。


「助けにきてくれて....」


「何で...」



「敵は殲滅、女子供まで皆殺しだ、国の転覆を計る危険人物達の集団だ1人残さず殺せーーーっ」


「「「「「「「「「「うおーーーーーーっ」」」」」」」」」」」



「何でだ、俺は俺は」


「私はここに攫われてきて」



「「「「「「「「「「「殺せー、殺せ、殺せーっ」」」」」」」」」」



「違う、違う」


「私は...子供、子供だけは...助けて」



「惑わされるな、こいつ等は国を滅ぼそうと思っているゴブリン以下の存在だーーーっ 赤子であろうと容赦するなーーっ」



「「「「「「「「「「「おおーーーーーっ」」」」」」」」」」



彼等は知らなかった。


自分は被害者だ、そう思っていた。


だが、ダモンを恐れ同じような事もしていた。



怖さから命じられるままに人を殺した。


おこぼれにあずかり、犯されて泣いている女を犯した者もいる。


子供を守るために犯された女をくずの様に扱い殺した者。


妻と子供を逃がす為に時間を稼いでいた夫とその父親を殺した者。



そんな者が被害者と言えるのか...言えるわけが無い。



1人の騎士見習いだった少年は本物の騎士に殺されつつある。


その刹那に考えた...自分は何を間違ったのだろうか?


本当なら、あっち側の人間だった....少し前までは俺はこの盗賊団と戦っていたんだ。


解ってしまった...命欲しさに泣きじゃくる仲間の少女を暴力で犯した。


あの時から俺は騎士ではなく盗賊だ。


腕を斬り落とされ地獄の様な日々を送る彼女達を汚いと罵り、あまつさえ使った。


しかも、自分が憧れた女をだ...


俺は盗賊だ、殺されて当たり前だ、どうせ死ぬならあの子を守って死ぬべきだった。


多分、あの二人は衰弱して死んだだろう、多分俺の事も恨んでいる。



死んでも許されないな...もし死んであの世に行っても、女神の慈悲でも、俺には救いは無い。


抵抗しないで死んでいくそれだけしか俺に出来ることは無い...クズの盗賊に成り下がったのだから。




人数を考え1万5千人で来ていた王国軍に流石の蛮族の荒らしい盗賊も歯が立たず、僅かな時間で全滅した。


その中には女子供、赤子さえいたという。


この地、ハルテンはこれより暫くの間誰も住まない不毛な土地となった。


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