第31話 奴隷購入

サナは買い物を楽しんだからか凄く上機嫌だった。


「礼二、ありがとう」


「どう致しまして...それでお願いがあるんだけど、話を聞いてくれる?」


「お願い?、私は奴隷だよ? 礼二の好きにして良いよ」


「ああっ、それでお願いなんだけど、奴隷を買おうと思う」


サナの顔色が変わった。


「礼二、私に飽きちゃったの? 私なんでもするよ? そうだ夜のお勤め全然してないよね? 興味が無いのかな...幾らでも頑張るから捨てないで...お願い...お願いだから」


「違うよ、サナの事は凄く好きだし、絶対に飽きたりしない...それに凄く大好きだし」


「えへへ、好きなんだ、それなら良いや...あっそうか、オークマンみたいに、何人か妻みたいな存在が欲しくなったのかな、まぁ一番愛してくれるなら良いよ」


「ありがとう」


「どういたしまして」



僕は、何故奴隷を買う気になったか話した。


「そうか、そういう事なんだね、それなら仕方ないよ」


「それで僕の事は内緒...日本人って言うのは暫く内緒にしたいんだ」


「まぁ解ったから大丈夫だけど、直ぐにバレるんじゃないのかな?」


「そうだね...そうしたら擦り合わせしよう」


「うん」





【奴隷商にて】


僕は約束通り9時30分に奴隷商に行った。


実は僕にはこの時間に聞こえるが、実際には違う。


解りやすい様に《こういう風に見えて聞こえる》



「礼二様、おはようございます、昨日の裏に居た奴隷で気に入ったのが居たのですね...まぁ解ります、あそこにはなかなか居ないエルフが居ましたからね? しかも銀髪に肌の色は透き通るような美人」


「ごめん、その子じゃない?」


「そうですか?、それじゃ昨日仕入れた奴隷、全員見せましょう、6人居ますよ」


貴族風の奴隷が6人居た...男4人に女二人、確かに気品があるが違う...



「あの、その人じゃ無くて、黒毛、黒目の人が居たんだけど」


「確かに...居ますが、あれは...まぁ興味あるなら特別にお見せしますが、裏で見て下さいね、お店には出せませんから」


そのまま奴隷商の主人の後についていった。


明かに商品の入っている檻と違う。


商品の奴隷が入っている檻は綺麗で檻というよりは展示室に近い。


刑務所より遙かに上等な気がする。


だが、此処は...本当の檻、昔話で聞いたハピーミル(子犬工場)みたいに見える。


動物園の様に糞尿臭いし...服も着せられていない。



「これは廃棄奴隷です...まぁ死ぬのを待つ奴隷です」


「これは売らないのか?」


「本来は売りません、世の中に表向き殺せない相手がいます、その奴隷落ちという罰を下す事があります」


「どんな」


「まぁ、戦争に負けて火傷して顔に傷を負った女貴族とかですね...商品価値は無くても貴族に死刑はないですからね」


「他には」


「英雄みたいに戦った者ですか...負けたら敵からしたら一番憎い敵、だけど名前が通った敵は簡単に殺せませんから表向きは《奴隷落ち》です」


「だけど、この状態じゃ」


「苦しみながら死にます...本来は私どもも欲しくない存在なのですが、他の奴隷と一緒に押し付けられるんです、殺すのに自分の手を汚したくないからって感じなのかも知れません」


「あの、見せて頂いても良いですか?」


「こんな汚くて臭い者、見たいんですか? 良いですよ...もしかして知り合いか恩人ですか? 私は外にいますから、もし見つけたら声を掛けて下さい、お譲りします」


そう言うと奴隷商は店に戻っていった。


一つの檻に数人裸で入っている、男女は別けてあるが糞尿は垂れ流し。


あちこちにして、かたずけて無いから、ウンコを踏みながらしか歩けないし、寝るのは糞尿の上で寝るしかない...此処は本当の地獄だ。


探して、探して、探して...ようやく見つけた。


本当は居ないで欲しい、そう思っていた....


居なかった方が幸せだった。


元剣道部 主将 三浦陽子


クラスメイトの 湯浅真理



そして...二人とも両腕は肘から先は無い、足はあるが、アキレス腱でも切られているのか立っていない、しかも体もかなりの火傷に怪我をしている。


この分だと多分顔も...


この小屋には2人しか居ない。


僕が覗き込んでいるのが解ると二人がこちらを見た。



「た.す.け.て...買ってくれたら...何でもします..だから、だから...しょくじも、残飯1日1回でいい」


「何でもします...夜の相手でも、やれと...いうなら、お尻だって...だからたすけてください...ゴミのように扱ってもよい...ですよ」



あの凛々しく輝いていた《美しすぎる少女剣士》と言われた、三浦さんの姿は何処にも無い。


地味だけど可愛い小動物の様な湯浅さんの姿も無い。


駄目だ、現実逃避しちゃ駄目だ...助けなくちゃ。


僕は頭がパニックになるのを押さえて、店主の所に行った。


「二人、買います...お願いします」



「うわぁ、本当にこれ買うんですか? 廃棄中の廃棄、本当のゴミですよ」


「はい、彼女達は知らないと思いますが縁がある人です」


「そうですか...貴方はあのオークマン様より更にお優しいのですね...本来は奴隷には3か月生体保証をつけます、寿命の保証ですね、まぁ直ぐに死ぬ存在は流石に売れません名誉がありますから、ですが、彼女達にはその保証はつけられない...元々元貴族の奴隷と一緒に押し付けられた者です...無料で良いですよ...ただ、書類代金は頂きます」


あれっ、不味い僕は《奴隷》を持てないしこの世界のお金は持って無い。


「あの...」



「日本人の礼二様は奴隷を所有できないので二人とは《愛人契約》を結ばせて貰います、ただこれは公共良俗に反する契約なので、裁判等になっても参考にしかされません、法的効力は凄く薄い物と考えて下さい、そして働かせる為には雇用契約が必要ですが、どう考えてもこの方達には無理です。よって《愛人契約》2人分の契約代金8万8千円だけで結構です」



良かった、日本人モードになった。



これで助けることは出来る。



「それで、服も欲しいのですが」


「流石に廃棄奴隷でお金を貰うのは忍びないので、一般奴隷用の服を差し上げます...それで申し訳ないですが、こんな者を売ったと思われたくないので、裏からお願いします」



「馬車もお願いして良いですか?」


「それは大丈夫です」


多分、お店としてかなり融通してくれたんだろう。



《物》として扱われるのは嫌だが...奴隷商からしたら価値は無いよな...



「迷惑掛けました」



「残酷な言い方ですが、こちらは2人の処分代が減り、書類作成の利益が入りました、僅かですが利益が入りましたので、気にしないで下さい」


「ありがとうございます」


「いえ、ただ、もしちゃんとした奴隷が必要になったら、当店を思い出して下さい...それで充分です」


「はい」


僕は2人を抱え馬車に載せた。



「この距離ですと日本のタクシーを基準に考えて2020円になります...ただ、それは余り」


「悪いね...これでどうにかして欲しい」



僕は1万円札を渡した。



「本来は遠慮したいのですが、これだけチップを弾んでくれるなら、私が後で室内を清掃しておきます...ただこれは特別、内緒でお願いしますね」


「解った」



2人を馬車に載せて家に向った。


彼女達二人は譫言の様にブツブツ言っている。


良く聞くと



「いやいや....いや、たすけて」


「た.す.け.て」



多分意識が混乱している、その声を聴くたびに僕は悲しくなり、彼女達を抱きしめ涙が止まらなくなった。


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