第28話 魔剣無効

僕が食事をしているといきなりテーブルに銀貨1枚置かれた。


サナは、お小遣いを貰ったのが余程嬉しいのか買い物に出かけている。


「あの教えて欲しい事があるんだけど」


髪の毛が茶髪で、薄着の服を着た踊り子風の冒険者がそこには立っていた。


「何か聞きたい事があるのかな?」


冒険者にとって情報は貴重で有料、だからこそ《何か教わるならお金を出す》それが当たり前だ。


銀貨1枚...まぁまぁな額だ。


「あのさぁ、昨日、月光草を大量に昨日持ち込んでいたよね? 何か情報をくれないかな」



「う~ん、大した情報が上げられないから、この銀貨は要らないな、とってきたのは《オークの森》だよ」


「オークの森?だけどあそこはオークの集落があり討伐が難しい位のオークが居る筈だけど」


「うん、そうだね、だけど、僕とサナのスキルに、あるアイテムがあるとオークから嫌われる方法があるんだ」


彼女は残念そうな顔をすると席を立った。


「冒険者だから、スキルやアイテムの活用方法は教えられないよね」


「そうだね、ただ、固有のスキルでレアだから、多分出来る人間は居ないと思うな」



「何かヒントだけでも教えて貰ないかな...」



まぁ良い、このまましつこく来られるのも不味いな。


「それじゃ、その銀貨は貰うとして、最悪、その魔力の宿ったナイフを無くしてしまうかも知れない、それで良いなら教えるよ? どうする?」


「それは、この魔剣から作ったナイフを差し出せと言う事、ふざけないで、これは凄く高いのよ!」


「違うよ、そのナイフは僕が貰うんじゃなくて、多分僕がスキルを使うと壊れてしまう可能性があるからね...それだけ」


彼女は暫くナイフを見て考えていたが、最後に頷くと...


「良いわ、お願いする」



「解った」



「それじゃ、錬成場に行こうか?」


僕がそう言うと彼女はついてきた。



「あのさぁ、此処で一体何をするの?」


「大した事じゃ無いよ? そのナイフで僕を斬りつけて...ただそれだけだよ、ただ此処で起きた事は他言無用でおねがいする」


「貴方、ふざけているの? これは壊れた魔剣から作られたナイフなのよ? 小さいとはいえ魔力が宿っているの? その魔力は氷、これで斬られたら凍り付いてその部分は壊れるわ」



「多分、それは僕には通用しない」


多分、起きる可能性は3つ。


日本には魔剣なんて存在しない、その結果起きるのは


1.通用しないですり抜けるだけ。


2.魔力が失われ消えてしまう。


3.ナイフその物が失われてしまう


そのどれかだ。


つまり2/3の確率で彼女は損害を被る事になる。


正直言えば良心の呵責はあるが、一度は誰かにやらなければならない...


そうしないと、多分情報を聞きたがる者はこれからも増え続けるから。


一応心の中で《ごめん》と謝る。



「どうなっても知らないからね、一応手加減はするけど」


そう言うと彼女は僕に斬りかかってきた。


僕にナイフが触れると...ナイフはそのまま霧の様に霧散して無くなった。


この辺りのルールが今一解らない。


オークのこん棒はすり抜けるだけだったのに...


仮説だけど、恐らくは《魔剣》その物が日本に存在しないからこうなったのか?



「嘘、嘘、私のナイフが、魔剣の力を持ったナイフがいやぁぁーーーっ」


「詳しくは説明できないけど、相手の攻撃を一定時間無効に出来るスキルがあるんだ、これで納得してくれた?」


「どうしてくれるの? あのナイフ、お金出しても手に入らない貴重品なのよ」


「ギルドに言うしか無いんじゃない?...最初に僕はナイフが壊れる事は説明したよね?」


「ううっ...確かにきいたけどさぁ、ギルドって知っていたの?」


「まぁね」


うん、解るよ、だって冒険者が情報を買うときは、礼儀として《名前》を名乗る。


それをしないと言う事は名前を教えたく無いか、関わりたくないという事だ。



そして、そこにギルドの受付嬢のお姉さんが居るんだから。



「見えているよ、お姉さん」


「あはははっ見つかっちゃったか...うんこれはギルドから、そちらのターニャさんに依頼したのは、うんギルドですよ」



普通に事情は解る。


討伐は全くしていない僕やサナが《いつも危ない場所》から貴重な薬草を採取してくれば不思議に思っても可笑しくない。



「まぁ確かに怪しいですよね、だけどこれで疑問は解消されましたか?」



「成程、発動条件は解らないけど、ある種の特殊防御スキル、それなら危ない場所からでも採取は可能ですね、攻撃スキルが無いから討伐は無理、納得です」



「余り知られたくないから、内緒でお願いしますね」


「解っているわ、本来はギルドはこういう事には関与しないのよ...ただ今回の件は余りに可笑しすぎるからギルマスから調査するように言われただけ...流石に討伐ゼロの冒険者が、ベテラン冒険者ですら恐怖する様な場所から採取してくれれば疑うのも当然でしょう?」


「確かに不思議に思っても仕方ないですね」


「でしょう...確かに凄いわ、それは、それで良かったらお姉さんと付き合わない?」


うん、名前を言わないから社交辞令だ。


「そういう冗談は本気にするから止めた方が良いですよ」


「....私はアイカです、うふふっ、それじゃね礼二くん」



名前を言うと言う事は...まさかね。




【ターニャとアイカ】



「あのアイカさん、この魔剣のナイフギルドで保証してくれますよね?」


「うふふっ、何を言っているんですか?ターニャさん、依頼の最中に剣を折ってもそんな保証ギルドはしません、今回も同じです!」


「ですが、銀貨の片手間仕事で、こんな事になるなんてあんまりだーーーっ、追加報酬下さい」


「うふっ、無理ですよ~ これしっかりと依頼ですからね」


「そんな~」


「まぁ、依頼は成功と言う事でハンコは押しておきますね...それじゃ」


「あんまりだよ、銀貨8枚のお小遣い程度の仕事で...魔剣のナイフを無くすなんて...ヒクッグス」



オークの一撃を喰らっても平気なターニャが泣いていた。


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