第24話 【サイドストーリー】 種馬戦士 和樹物語 安らかな死...

僕の名前は 和樹。


元は日本人で今は貴族の見習いをしている。


最初僕は「異世界の戦士」として戦う為にリットン辺境伯に引き取られたが、僕にはその資質が無かったらしい。


一回目の狩でオークに負けてしまった。


その後は、なしくずしでそのまま辺境伯の娘の婿になった。


オーク如きに遅れを取る様な無様な戦士の僕に周りは優しかった。


こんなハズレの異世界人を掴んだのに、リットン辺境伯は優しく僕をライヤの婿に迎えてくれた。


ライヤも本当に優しく、役立たずの僕の為に泣いてくれ、僕が死んでしまうからと戦いを辞めて欲しいと嘆願してくれた。


異世界の漫画や小説なら放り出されてしまう場面だろう。


そして、こんな役立たずの僕の為に 疾風と言われる剣技の持ち主ライヤも灼熱と呼ばれるほどの魔術師レディスも戦うのを辞めて傍に居てくれた。


彼女達の未来を潰してしまった、それなのに何も言わずに優しく微笑んでくれた。


僕が心細い時にはいつも抱きしめてくれた。


そして体さえも使って僕を慰めてくれた。


だから、僕は戦士に成れないならせめてこの領地を豊かにしたい、そう考えリットン辺境伯の仕事の手伝いを始めた。


幸い、僕はクラスでは頭は良い方だったので、書類の手伝いや計算など出来たので重宝がられた。


恐らく僕はここで....甘かった。


ここは異世界だ...そして魔王や魔物が居る場所だ。


今、リットン辺境伯領は魔物に取り囲まれている。


リットン辺境伯の指揮のもと、騎士団や魔法兵団は元より領民までもが戦っている。


残念ながら勝てないだろう。


何しろ見渡す場所全てに魔族がいる。


何倍もの数で囲まれている。


悲鳴しか聞こえてこない。




もう充分生きた!


普通じゃ考えらえない位愛された



これはここに来なければ無かった事だ。


ここに来なければ地味な僕は童貞のままだったろう...



「ライヤ、レディス...僕は臆病だけど、君達の死ぬ姿は見たくない」


だから...「いくよ」



この屋敷にいる人たちは君達以外も僕にとっては大好きな人たちだから



「僕が戦う事で、死ぬことで君たちが1分でも1秒でも永く生きれるならそれで良い」


勝てる? 勝てる訳ない...ただの意地だ。



和樹は剣を取り屋敷を出て行く、1人でも多くの魔物を倒す為に。


和樹は戦った。


戦士としての素質があったのかも知れない。


魔族二人を切り捨てた。


碌に修行もしなかったのにオークにさえ遅れをとった和樹が魔族を倒せたのは僥倖と言えるかも知れない。


だが、そこまでだった。



十人を超える魔族や魔物に囲まれた。



もう死ぬのかな



もう和樹は戦う力は残ってない。


後は死ぬだけだ。


終わりだな....さようなら...


「私の剣は貴方を守る為にあります」


「ライヤ?」


「私の灼熱の炎は貴方の敵を焼き尽くすでしょう」


「レディス? 何で」


「何回体を重ねたと思っているんですか! 死ぬなら一緒です。実力はともかく私の剣は貴方を守るためにある..その言葉に嘘はありませんよ」


「私の炎は貴方の敵を焼き尽くす為にある...その言葉に嘘はない」


「ありがとう」


「「こちらこそ」」


リットン辺境伯の領地はこうして滅びた。


あっさりとすべての人間が殺されてしまった。


だが、その中に不思議な事に笑顔で笑っている男女三人の死体があった。


全てに満足したようにお互いがお互いを庇い合うように折り重なりながら手を握り...


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