第22話 幸せ日本人 日本に生まれる事の幸せ...

今日は朝から壮行会が行われていた。


僕以外の異世界人が、王都から出て行く。


「勇者」「聖女」「剣聖」以外の異世界人が豪華な貴族の馬車に乗り王都から出て行く。


異世界人の殆どに男爵位が与えられたのを聞くとちょっと羨ましく感じた。


だけど、彼らはこれから戦いの人生が始まるんだ。


綺麗な女の子に囲まれて、馬車から手を振る彼らを見て更に羨ましく感じた。


だが、それは「魔族や魔物と戦う」その義務が生じる。


勿論、戦う能力はあるのだろうが...僕はゴブリンを見ただけで嫌気がさした。


サナの味わった地獄を考えるなら、「それと無関係で居られる」人生の方が良い。


そう思う...前の人生で、僕がどん底の時に「哀れみ」からだが、僕の事を考えてくれた。


姿形が変わってしまったから、もう僕には気がつかないだろうな...


僕は彼らの人生に幸せがある様に...最後に祈った。


これから彼らと会う事は無いだろう...もし、どこかですれ違っても相手は僕に気がつく事は無い。




この間、他の冒険者と揉めて、先方の冒険者が決闘を言い渡した途端に「決闘法違反」として連行されていった。


更にサナに絡んできた相手を止めた時に相手が「殺してやる」と叫んで抜刀した瞬間に連行されていった。


連行していった警備兵の話では、「暴行未遂」か「殺人未遂」かどちらかの罪に問われて、投獄されるそうだ。




魔物も魔族も日本には居ないから僕たちには何も出来ない...恐らく魔王の攻撃すら僕には通じないだろう。



そして、この世界の人間はどうか?


日本にはジョブやスキルの恩恵は無い...だから、僕を相手にはそれが使えなくなる。


「だから、只の人間になってしまう」


勿論、僕は只の人だから、剣で刺されれば死ぬ。


だが、この世界の強い武器は魔法や魔力があるから僕には通じない。


そう考えるなら「聖剣を持った勇者」ですら僕の前では只の人だ。


サナや僕が病気になれば、病院に行くだけで抗生物質の薬が処方される。


この分なら、大きな病気の場合は外科手術も望めると思う。



僕はこの異世界で日本人として生活が出来る...スキルもジョブも無いから大きな活躍は絶対に出来ない。


その代り、日本に守られている僕には、異世界は手を出せない。


それは「魔王」も「勇者」も関係ない...僕にとっては殆ど他人事だ。



クラスメイト達はこれから活躍して栄誉を手に入れるかも知れない。


勇者が活躍して表彰されれば羨ましいと思うかも知れない。


だけど、それは「命が無くなる」その賭けに勝った結果だ。





だから、僕は皆に言いたい。


「自分が恵まれて居ない」 そう思っているかも知れない。




だけど、「日本」に住んで居るだけで恐らく幸せだ。


異世界の宿屋なんて、漫画喫茶の方がマシな場所ばかりだ。


バス、トイレ付きの部屋に住んでいるだけで充分勝ち組なんだぞ...



君が普通に食べている、カレーや牛丼、安物ステーキは異世界で貴族が食べている物より多分上だ。




ハーレムや奴隷は成功すれば手に入るだろうが...それまでが大変だ。


娼婦を買っても、高級な店じゃ無ければシャワーすら無いんだ!酷い所だと、他の男性に抱かれた後、汚いまま抱かなくちゃならない。



運良く貧乏な状態で、奴隷を手に入れても、お金が無ければ、シャワーなんてついた部屋なんか借りられないから、汗くさい状態で...下手したら下半身やお尻なんか汚い状態で犯る事になる。


それなら風俗で衛生的な女の子と楽しんだ方が良くないか?



勇者になる位なら、日本で頑張って「医者」や「政治家」「実業家」になった方が絶対に良い生活を送れると思うよ?



異世界は医療費が高くて、病気の時にお金が無いと死ぬしかない...日本はどうだ? 違うだろう?





僕は異世界で運よく「日本の生活」をしているけど...


異世界なんて不便で悲惨な事ばかりだ。


勇者になろうが...恐らくは日本人のちょっとした成功者の方が恵まれていると思うよ!




だから、もしこれから先「女神様から話をされても」断れるなら断った方が良いよ! 


多分、今の生活の方が遙かに幸せだからね!




「どうしたの礼二?」


「いや、僕は幸せだなと思ってさぁ!」


「当たり前じゃない! 礼二は「日本人」という特権階級なんだから!」



「そうだね」


「そうだよ」



僕は今日も、サナと一緒に安全な「採集」の仕事をしている。


僕たち「日本人」には魔王も勇者も関係ないのだから...



(第一章 完)




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