第15話 【閑話】王宮 肉料理の憂鬱

「国王エルド様、永らく仕えさせて頂きましたが、お暇を頂けないでしょうか?」


「どうしたというのじゃ!父の代から仕えていたお前が何故辞めるのじゃ! 理由を申してみよ!」


その日、宮廷総料理長ミクニは辞職を願い出た。


「私にはどうしても、異世界人の方々の食事が作れません」


総料理長であるミクニは、異世界から来て大変だろうと思い、毎回の食事を王族並みの物を出していた。


貴重なホロホロ鳥の肉を買い込み、貴重なスパイスを使い料理して出していた。


味付けもかなり気をつかっていた。


だがある時、勇者を含む異世界人から文句を言われた。


「おっさん、この料理いい加減にしてくれないか?」


「何かお気に召さない事でもありましたか?」



「こんな鳥料理ばかりでしかも味も薄い! お気に召さない所かはっきり言ってしまえば不味い! 我慢していれば毎日鳥ばかりいい加減にしろよ!」



肉で一番美味いのは鳥なのに、何をいっているんだ? しかも味が薄い? これ程までにスパイスが効いているのに!



「勇者様達はどの様な料理をお望みですか?」



「肉と言えば牛が良いに決まっているだろうが! どうせお前らじゃ碌な料理を作れないだろうからいいや...牛肉のステーキを作ってくれ!」



「畏まりました、明日の昼食にお出しします」



変っているな、肉と言えば鳥が最高の物、牛など不味くて食べないのに、それを好むなんて。


普通に考えて 鳥→豚→羊やヤギ→魔物の肉→牛 肉としては牛は最低なのにそれが食べたいのか、まぁ住む世界が違えば食文化が違う、そういう事だな。



「チェ! 用意出来るなら最初から用意しろよな!」



「すみません...祥吾の奴召喚されてからイライラしている物ですから」



「いえ、良いんですよ!」



貴族ですら喜ぶ鳥料理をこんなに残すなんて勿体ないな。


まぁ賄いとしてこちらで食べる分には皆が喜ぶから良いか。




「ふぅーやっと牛のステーキが食べられるのか! 最初からこれ出せば良いんだよ!」



「お気に召した様で何よりです!」



牛で満足してくれるなら助かる、安くて済むし、肉の確保にお金を余り使わないで済む。


朝から市場で食材の確保に走り回るより、近隣の農家で使い潰した牛を安く買ってくれば良い!



「何だよ、この肉、物凄く固いし脂気もなくパサパサしているぞ!」



「本当にまるでゴム食べているみたい」


「此処まで不味いステーキを食べたのは初めてよ!」


「肉を噛むのも一苦労だ」



一斉に不満の声があがった。


誰1人として美味しいという者は居なかった。



「これは俺に対する嫌がらせなのか? 俺はとびっきり美味しい物が食べたいって訳じゃない! 普通の物が食べたいそれだけなんだ...」



「ですが、牛の肉は私の知る限りでは固いのは当たり前の事です、だから高貴な方の食卓には出さないのですが、勇者様の世界では違うのですか?」



「俺の知っている牛肉はなぁーーっこんなに固く無いし柔らかいんだ! 全く違う!」



「ちょっと待って! 芹沢くん、この人の言う事は正しいわ!牛肉が美味しいのは品質改良されているからよ! 元々は凄く固くて美味しくないって聞いた事があるの、確か 鳥→羊、ヤギ→牛...こんな感じだったかな? うろ覚えだから自信無いけど、牛が一番美味しくないのは確かよ!」



「何だそうなのかよ! おっさん悪かったな! じゃぁ鳥を出してくれたのは親切心だった、そういう事なのか?」


「そうよ!」


「しかし、この世界はクソだな、こんな飯が不味いなんて!」



「ふふふっ! 芹沢くん、私は誰でしょう?」


「山本だろう? それがどうかしたのか?」



「そう、私は 山本真理子...またの名を料理研究会の部長よ! まぁこのクラスには部員も居ないから私こそが最強の料理人ね!」



「そうか! 俺は今初めて、山本が凄く見えたよ!」


「この学校にたった5人しか居ない料理研究部の頂点...真理子様降臨だ!」


「そう、たった5人しか居ない! うん?それって廃部寸前なんじゃない?」



「仕方無いじゃない? 料理研究部、人気無いんだからさぁ、おじさん私がこのステーキアレンジしても良い?」



「構いません、私も異世界の方の料理が学べる機会が頂けて嬉しく思います」






「何じゃ? 別に悪い話じゃない様な気がするが」



「此処からでございます」







「山本殿、牛のステーキは回収して来ました、皆も山本殿から学ばせて頂くように」


「「「「「はい」」」」」



「任せておいて、そうね、まずはそのステーキ肉、全部潰してくれるかな?」



「「「「「「解りました」」」」」」



「調味料ってどんなのがあるのかな?」



「こちらに御座います」


果汁、オリーブオイル、ショウガ、ワイン、砂糖、シナモン、ナツメグ、クミン、そして高級品の黒コショウに同じく高級品の白塩、サフラン他各種スパイス。


此処までの物はまず無いはずだ。



「あっそうか、此処にはケチャップもソースも無いんだ、しくじったわ! マヨネーズ、そうよマヨネーズ...作り方解らないわよ、だって売っているだから」



「どうかなされましたか?」



「大丈夫よ!そうね、さっきの潰した肉に仕方ないわ、黒コショウを入れて塩とオリーブオイルを入れる! 仕方ないからこの辺のスパイスを入れてと、」



「「「「「「「......」」」」」」」



「そうだ、トマトとニンニクがあるわ、これを刻んで煮込んでくれる? 味付けは私がするから、本当に不便ねIHとは言わないけどガスコンロ位は欲しいわ」



「煮れば良いのですね」



「そうよ」





「総料理長様、宜しいのですか? 金と同等のコショウをあんなに使って」


「それが異世界の料理なのだ」


「あの、貴重なサフランや白塩があんなに」


「仕方ないのだ、それが異世界の料理なのだ」



「あんなに油を入れたら体に悪いのでは無いですか?」


「異世界の料理なのだーーっ」




「さっきの肉を丸めて焼いて、皿に盛りつけて置いてね」


「解りました」





「さっきのスープの味付けをするわ、まずコショウ―ね、それからスパイスを効かせて煮立たせる」



「そしてこの肉に掛けて、真理子特製スープハンバーグの完成ね!」






「これなら食えるな...おっさんこれからは、こういう味を頼むよ!」



「これなら食べれるけど、自慢する程じゃないわよ、ファミレスの方が何倍も良いわ」



「仕方ないじゃない! 調味料も余り無いし、コンロなんて炭火なのよ、文句言わないでよね!」


「はいはい」




「何処にお主が辞める話があるのじゃ!」


「この料理1人分に掛かる費用がたった1品なのに金貨4枚なのでございます」



「金貨4枚?」


「はい、異世界の方は今現在27人居ますので全部で金貨108枚、それが1食で飛びます、金貨4枚を稼ぐのに庶民がどれだけ大変なのか? それを考えたら私にはこれを作るのが苦痛なのです」



「そうか? 相解った...決意は固いのだな!」



「はい」


「長い間ご苦労であった、暇をとらせよう!」



しかし、1食辺りで金貨100枚以上掛かるのか...


どうしたものかの...


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る