第13話 【閑話】王宮 出て行く者
その後も王宮では担任の緑川との間で話し合いが続いていた。
最初は生徒たちや他の者も話し合いの場に居たのだが、生徒からは泣き出す者や激高する者が出た事と、その様子を見て立ち去る者も多く、結局護衛を除き、国王であるエルド6世、王女マリンと担任の緑川との三人になってしまった。
冷静な三人になる事により幾ばくか静かに話し合いが出来たのが唯一の僥倖かも知れない。
「うむ、信じられぬ、緑川殿の世界では信仰の自由があり「好きな神を自由に信仰出来る」そういう事なのだな!」
「はい、そうでございます!」
「それなら仕方が無い事だ...儂も理解はした、理解はしたが、これでは大きな支援が出来ないのだ!」
「何故、支援に問題が起きるのでしょうか?」
「この世界で一番の地位がある者は誰だと思われる?」
「それは王ではないのですか?」
「違うぞ! 現時点では教皇様なのだ! 先程、そちらの生徒が怒鳴り散らした際に立ち去った方がそうなのだよ!」
「それは、執り成して貰う事は出来ないのでしょうか?」
「無理だ! ローアン教皇様は今日と言う日を楽しみにされていたのだ! 女神の使徒たる勇者様達に出会う今日と言う日をな!」
「それはどう言う事ですか?」
「異世界から来た方は「女神の御使い」とりわけその中でも「勇者」「聖女」「賢者」「剣聖」は教会にとって特別な存在なのです!」
「特別な存在とは一体何なのでしょう?」
「そこからの説明が必要なのだな!」
王に変わってマリアが説明しだした。
召喚された者のうち「勇者」「聖女」「賢者」「剣聖」はこの国では聖人扱いとなり「女神の次に偉い存在」として扱われる。
実際の権力は別として形上は教皇の上、つまりこの世界の最高権力者になる筈だった。
だが、それは「女神の御使い」つまりは「女神様が地上に遣わした者」その意味が大きい。
それなのに、生徒の大半が公式な場で「女神の悪口を言い続けた」
それでも司祭は宥めながら話を聞き、教皇様も混乱しているのだろうと我慢して聞いていた。
だが、勇者である祥吾が「イシュタスに騙された、絶対に彼奴は許さない! 何時か報復してやる!」と怒鳴ってしまった。
この一言が許せず、聖職者が全員席を立ち帰ってしまった。
「この者達は、女神様の使徒では無いのですね! 仕方ありませんね! イシュタス様がお嫌いな様ですので教会は関わらない事にします!」
「教会は勇者とは認めない、本来は他の神を信仰するなら破門にする所ですが、特別な慈悲で一般教徒扱いにします!これが教会からの最後の慈悲です」
これが、ローアン教皇と司祭がエルド6世とマリアに去り際に言った言葉だった。
「そんな、それで私達はどうなってしまうのでしょうか?」
「見ての通り、教会を怒らせてしまったから、教会を恐れた他の貴族も立ち去ってしまいましたわ」
「起こってしまった事は仕方がない...だがこれでは教会はもう手を貸して貰えぬし、貴族からの支援も期待は出来ぬな...支援は国のみとなってしまった」
「...」
「心配はなさるな! 召喚したのはこちらだ、当分の間は食客として扱う事は約束しよう!」
「そうですわね! 2週間期間を設けましょう! その期間のうちに立ち去るか残って魔王と戦ってくれるか決めるのは如何でしょうか?」
「2週間ですか...随分と短い様な気がします」
「ですが、こちらも戦って貰えない場合は軍の編成をしたり、各国と連携して魔王に対処する方法を考えなければなりません」
「解りました」
「立ち去る者にも暫くの生活費と身分証明はお約束致します」
緑川はこれ以上話してももう無駄なのだと考え、それを飲む事にした。
この亀裂が更に大きな亀裂になって行く。
緑川は生徒に話し合いの結果を伝えた。
「先生、それは何一つ好転しなかった...そういうことじゃねぇ!」
「緑川さぁ...もう此処じゃ先生じゃないんだから、勝手な事しないでくれないかな?」
解ってはいたが聞きたくはなかったな。
「そうか...解ったよ...そうだな、後は自分達で決めれば良いよ」
「ちょっと待って先生...何を言い出すんですか?」
「先生、しっかりして下さいよ」
緑川は解ってしまった。
最早自分ではどうする事も出来ない事を...
自分のジョブは「上位騎士」確かに恵まれてはいるがこの中では下の方だ。
不良やクラスの中心人物の中には上のジョブの者が多くいる。
学校という後ろ盾の無い自分では教育等は出来ない。
だが、教師としての最後の意地が言葉を繋いだ。
「私はもう道は決めた...聴きたい者は来てくれ」
緑川についてきた者は僅か6名、その中に平城綾子も居た。
7名は話し合いの結果、第三の道を選ぶ事にした。
そして、その道とは...
「それが貴方達が考えた道なのですね...解りました尊重しましょう!」
緑川達が選択した道は「就職」という道だった。
魔王との危ない戦いはしたくない...反面、ただこの世界に放り出されるのは怖い。
そこで緑川が考えたのは「職を得る」だった。
しかも、この考えには別の考えもあり、生徒の中には性格の悪い者も多くいる。
そこから逃げる...その為でもあった。
7名は紹介状と支度金を貰い...国を出て行く。
「流石に平城は凄いな、アカデミーの研究補助か?」
「先生は、辺境で騎士見習いでしたっけ?」
「まぁな...田舎町なら魔王との戦いに巻き込まれないだろうと思ってね」
「喧嘩が嫌いな緑川先生らしいね...」
「俺も、お前みたいに魔法使いが良かったよ...研究職の俺がなんで上級騎士なのか解らないな」
「それを言うなら、剣道部キャプテンの私が魔法使い、これも可笑しいよね?」
「まぁ、私は司書になるのが夢だったから王立図書館への推薦で満足です」
「希望の仕事に就けて良かったな!」
「うん」
「それじゃ頑張れよ!」
「「「「「「はい」」」」」」
7名はそれぞれの道を決め旅立っていった。
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