第12話 ごく当たり前の幸せ!

横を見るとサナが寝ている。


僕にとっては空調があるのも、お風呂があるのも当たり前の生活なのだが、サナには違うようだ。


ネットも無ければテレビも見れない生活...明らかに前より良くない。


それなのにサナは感動している。


お風呂に感動して2時間近く入ってのぼせたり、空調の前に座り込んで「凄く涼しい」と感動していた。


僕からしたら固い布団もサナは「ふかふかだーっ」と喜んでいた。


やはり、「日本で暮らしている」それは素晴らしい事なんだと再認識した。



「おーい、サナ朝だぞ! 起きろーっ」


「うーん、礼二、おはようーって...見た?」



「何を?」


「わたしの寝顔...見たわよね!」



「ああっ「涎垂らして寝ている」のなら見たけど?」


「それは恥ずかしいから、見ないでくれるとありがたいな?」



「それじゃ、そうする!」


「あれっちょっと違う反応...まぁ良いか!」



サナからすれば、蛇口をひねれば水が出るのすら感動物らしく、顔を洗う時に何度も出したり止めたりしていた。


横のボックスに水をあらかじめ入れて置けば、温度調整出来ないがお湯も出る。


僕には不便だがサナは凄く感動していた。



蛇口を捻れば水が出る...そんな当たり前の事が此処では金持ちで無いと手に入らない。


一般人は井戸で水を汲んできて瓶の中に入れて柄杓で掬って使うのだから結構不便だ。



「それじゃ、朝食を食べてから、ギルドに行って仕事をしよう!」


「うん、ご飯も凄く楽しみ!」




「いらっしゃいませ! 礼二様達は日本人なので日本人専門のモーニングメニューからお選びください!」


昨日と同じ店に入ったのだが、今日はメニューがあった。


ドリンクバーとスープバーが無いのを除けばほぼファミレスメニューだ。



「絵で見る限り美味しそうだけど、解らないから礼二が決めて」



僕は焼き魚朝食を頼んだけど、サナは恐らくご飯とか食べた事は無いだろうから、エッグ朝食にした。


焼き魚朝食は鯖の塩焼き、みそ汁、ご飯、おしんこ、小鉢、生卵のセットだ。


サナのエッグ朝食は、スクランブルエッグにソーセージ、生野菜、パンケーキ2枚にオレンジジュース付き。


どちらも550円、実にお得だと思う。


少なくとも、周りの人間が食べている、固そうなパンと野菜のスープとは段違いだ。



「昨日も凄かったけど!これって貴族の食事並みなんじゃないのかな? 本当に食べても良いの?」



「うん、食べて良いよ!」



だって、この食事は薬草1本採取分の金額なんだから。



「だけど、礼二は随分質素なんだね? 私だけ豪華にして...お金が余りないとか?」


「これ、同じ料金だから気にしないで良いよ」


「同じ料金...なら絶対にこっちの方が良いよ、次はこっちを選んだ方が絶対お得だって」


「なら、次はそうするかな?」



「いらっしゃいませ礼二様? 今日もお仕事ですか?」


「はい、薬草採集をお願い致します」



「はい畏まりました、サナさんの収入も雇用契約により礼二様の物となります、薬草採集ですと交通費がそれぞれ320円、薬草1本あたり650円レートは昨日までと変わりません、頑張って下さい」



サナと一緒に森に入った。


サナはあんな事があったせいかかなりビクビクしている。



「礼二大丈夫! この辺りはゴブリンを含み魔物が出るのよ! 本当に 大丈夫なの?」


「最初会った時にほら、ゴブリンが僕に触れなかったでしょう?だから大丈夫だよ! 寧ろ怖いのは虫や動物、盗賊かな?」


「それなら安心だよ!王都が近いから盗賊はまず居ないし、動物は魔物が発生する場所は嫌いだから居ない!居ても精々猪だからこっちを見たら逃げ出すよ」



「それじゃ、安心だね!」


よく考えたら、サナは薬草探しやドブ掃除は僕と違って慣れている。


効率が全然違った。


「凄いねサナ!」


「そんな事無いよ!こんな事しか出来ないし、ただ薬草とドブ掃除だけで生きて来たような物だからね!」


サナと一緒に薬草探しをしたら130本も薬草の採集ができた。



「そろそろ帰ろうか?」


「えーまだ130本しか採取して無いよ? これじゃ宿取って食事をしたら終わりだよ! 200本は目標にしないとね!」


よく考えたら、初めてギルドで登録した時は、半日ドブ掃除して銅貨4枚だった。


これが1000円だとするとあれっ凄いブラックなんじゃないかな?



「サナ、薬草って普通は幾らで買い取って貰えるの?」



「10本で銅貨1枚位が多いよ、だから頑張らないと!」



10本で銅貨1枚...そう考えたら100本で銅貨10枚。


ドブ掃除で得たお金が銅貨4枚で1000円位と考えたら、200本で銅貨20枚で価値は5000円にしかならない。


サナの言う通りだ、この位のお金は稼がないと食事に安宿代も稼げない。


結局、その後は数が伸びずに、170本。


だけど、日本人の僕らは170本で110500円、これに交通費の320円×2=640円が足されるから111140円


5千円と11万1千140円じゃ全然違う。


異世界ってとんでもないブラックなんじゃないか...



サナは170本しか採集できなくてがっかりしている。


逆に僕はホクホクだ。



「あのさぁ、サナ...がっかりする必要は無いよ!」


「えっ、だけど170本だよ! 礼二はお金があるから気にならないかも知れないけど、これじゃ1人分の宿賃と食事代にしかならないよ!」



「サナ...これって日本人なら結構な稼ぎだから、充分だよ!」


「日本人って不思議だね...だけどこんな稼ぎじゃジリ貧になるよ」



説明するのが難しいな、おいおい慣れて貰えば良いや。




ギルドに戻ってきて薬草の買取をして貰った。


「品質には問題はありません、合計11万1千140円の金額になります、宜しいでしょうか?」


「宜しくお願い致します!」



「はいこちらになります、サナさんが日本人扱いになりますので年金と国保の納付書もお渡しします」


「それじゃ、今回の報奨金からお支払いします、あと、手持ちに3万円だけ残して残りは預け入れお願い致します」



「畏まりました」




「今日は頑張ったから、何か買ってあげるよ!」



「あの、サイフ引き締めるんじゃ無かったの?」


「そうするつもりだけど...今日は特別に良いよ!」


薬草採取で10万円も稼げるなら少し位良いよな...


しかも、サナは僕と違って薬草の取れる場所を沢山知ってそうだし。



「そう、ありがとう!」



サナと一緒に色々見て回った。


折角だから、今後の事を考えて調味料を購入した。



「本来はコショウは貴重品で一瓶で金貨3枚、塩は一袋銀貨1枚になりますが、礼二様達は日本人なのでどちらも100円になります」


確かに調味料は大昔は貴重品だって聞いた事がある、コショウは同じ重さの金と交換されていたそういう話も聞いた事がある。


だけど...うん確かに日本なら100円均一のお店に置いてあるな。


「はい、200円」


「有難うございます!」




「礼二...今買ったのコショウだよね? あんな高価な物良く買ったね」


「日本人だからね!」


「日本人って、こんな貴族みたいな生活何時もしているの?」


「まぁね...」


貴族みたいな生活か、言われて見れば、日本に生まれて普通に生活していれば、この世界のレベルなら貴族レベルかも知れないな。



暫く歩いているとサナの足が露天商の前で止まった。


「どうしたの?」



「いや、凄く綺麗だなと思って...行こうか」


「欲しいんじゃないの?」


「礼二、流石に宝石は分不相応だよ、凄く高いしね!」



「そう、それじゃ、もし将来、そうだね何かのご褒美で買ってあげるとしたらどれが欲しい?」



「そうだね...ああいうネックレスが欲しいな! まぁ何時か私が凄い手柄でも立てたら買ってね!」




「あのこれは幾らですか?」



「このネックレスはフローライトにシルバーで出来ています、金貨5枚で此処で一番高い品ですが、礼二様は日本人なので日本の価格が適応されます、日本ではフローライトは安く販売され、この程度の加工と素材であれば道端でアクセサリーと販売されている商品以下です...更に良い物が1万円以下なのでそれより質の悪いこちらは7千円が妥当だと思います」


「それじゃ7千円で良いって事?」



「はいそちらで大丈夫ですよ、如何でしょうか?」


「それじゃ下さい!」


「有難うございます!」




「あのさぁ...良いのこんな高価な物買って貰って!」


「今日一日頑張ったからご褒美って事で良いんじゃない?」



「本当に有難う...」


「そんな泣く程の事じゃないよ」


「だって、だって嬉しいんだもの」



「そんなに喜んで貰えるならまた買ってあげるよ」



「そういう意味じゃ無いんだけどな...全くもう!」



こういう所...本当に礼二って天然だよね...



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