第174話 ブルーオーガ


 軽い役割分担を決めたところで、俺達はブルーオーガの討伐を開始する。


「行くぜ! 俺が注意を惹いている間に倒してくれよな! 【守護者の咆哮】」


 ラルフが一人先に飛び出し、二匹のブルーオーガのど真ん中で【守護者の咆哮】を使った。

 餌に釣られるが如く、ブルーオーガは雄たけびを上げながらラルフに近づいていった。


「スノー。右側のオーガを倒せるか?」

「アウッ!」


 俺は右にいるブルーオーガを指さしながら、そう指示を出すと、スノーは一つ吠えてから突っ込んでいった。

 推奨討伐ランクがシルバーの魔物を、プラチナランクの魔物と戦わせるなんて一見正気ではないように思えるが……。


 体毛が真っ白なこともあり、目で追うのも大変なスピードで突っ込むスノー。

 無論、ラルフに視線が釘付けなブルーオーガがスノーに対応できる訳もなく、近距離から放たれた風属性の切り裂き攻撃がブルーオーガを襲った。


 流石に絶命とまではいっていないが、胸から腹にかけてを深々と切り裂かれており、急な攻撃にブルーオーガは驚いたような表情を見せている。

 ここでようやくラルフから視線を切って、攻撃を仕掛けてきた者を探し始めたのだが――もう遅い。


 風属性の切り裂きを放つと同時に、大きく回り込んでいたスノーは、既にブルーオーガの背後を取っている。

 攻撃を放ち、その攻撃を食らった時には既に背後にいるという、とんでもない芸当を見せているスノーに成す術もなく、無防備な背後から牙に氷を纏わせた噛みつきにより、ブルーオーガの首は刎ね飛んだ。


 ……思わず見惚れてしまったほどの強さ。

 スノーの成長度合いは測り知れないものがある。


 以前ラルフに、うかうかしているとスノーに負けるぞと煽っていたが、俺も余裕をかましてはいられないな。

 気合いを入れ直し、俺はラルフが請け負っている残りのブルーオーガを殺しにかかる。

 

 【肉体向上】【戦いの舞】【隠密】【消音歩行】


 四つのスキルを発動させ、俺は気配を消しつつ近づいていく。

 ラルフに釘付けになっているとところを、一撃で屠るのが理想的な倒し方。


 音を出さずに素早く、俺はブルーオーガの背後へと回り込んだ。

 スノーには負けていられないため、一撃で首を刎ね飛ばしにかかる。


【疾風】【剛腕】【強撃】


 背後に回り込んだところで、更に三つのスキルを発動させ――俺は鋼の剣を振り下ろした。

 踏み込みも完璧。首に触れた剣の感触も完璧だ。


 ギリギリまで俺の存在を悟らせることなく、剣を振りぬいた瞬間にブルーオーガの首は回転しながら空へと飛んだ。

 地面へと落ちる際に、首だけのブルーオーガと目が合う。


 その顔は何が起こったのか理解できていないという表情で――地面に残されている自分の体を見てから、ようやく死を理解できたのか……表情を酷く歪ませてから、オーガの首はボトンと地面に落ちた。

 

 『イチリュウ』で買った鋼の剣を強敵相手に初めて使ったが、大分使いやすいな。

 スキルも上手く乗せることができたし、スノーに負けず劣らずの倒し方ができたと思う。

 血振りをしてから鞘へと納め、俺はラルフとスノーを労いに向かった。


「ラルフ、よく注意を完璧に引き付けてくれたな。スノーも良い攻撃だったぞ。思わず見惚れてしまった」

「アウッ!」


 スノーは嬉しそうに吠えると、尻尾をぶんぶんと振りながら体を擦りつけてくる。


「いやいや! 注意を惹き付けるも何も……一瞬で倒しちまったから俺は何もしていないぞ! スノーもクリスも強すぎるだろ!」

「俺とスノーは一切の警戒もされてなかったからな。ラルフも別に圧を感じなかっただろ?」

「……確かにやられる感覚は一切なかったな! 一撃の重さもカルロの半分以下のだったし。もしかして俺達強くなりすぎたのか?」

「急成長を遂げたが、強くなりすぎたってことはない。まだまだ強くなるために、俺達はエデストルまでやってきたんだしな」


 そう。現状に満足した時点で成長が止まってしまう。

 常に上を見て特訓してきたからこそ、この成長速度で強くなることができた。

 まだまだ上だけを目指して、俺達は強くなっていく。


「――おいおいおいおい! お前達、本当にゴールドランクかよ……。ブルーオーガを瞬殺って、プラチナランクの冒険者でもできないぞ!?」

「今回は人型の魔物だったから、色々と上手く嚙み合ったって感じだ。でも、決してまぐれではないからな」

「戦闘を見てりゃ、たまたまじゃないのは分かるわ! ギルドで困っていたところを助けたつもりが、こりゃ助けられた形だな」


 心底驚いた様子でそう言ってきたボルス。

 俺達の戦いを見て気合いが入ったようで、口では情けないことを言っているが瞳はメラメラと燃えている。


「とりあえずはあと一匹か。追加報酬もありだから、狩れるだけ狩りたいところだが……ボルスはどう考えてる?」

「あと二時間はブルーオーガ狩りを行おうや! それ以降は出現する魔物が変わるから、すぐに山を離れる!」

「了解。……出現する魔物が変わるって、危険な魔物が現れるのか?」

「麓なら危険な魔物が現れることはあまりないが、瘴気が出ると非常にまずいんだわ! んで、瘴気が出やすい時間帯が今から四時間後辺り。二時間後の魔物の切り替わりで、索敵能力の高い魔物が山から下りてくるから避けたいって訳だ」


 魔物の切り替わりだの、瘴気だの……普通の山では聞かない単語ばかりだ。

 当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、ボルスは本当に詳しいな。


 流石に、エデストルで二十年も冒険者をやっていただけはあるようだ。

 戦闘に関しても一度見てみたいが……俺達の後で、はたして見せてくれるだろうか。


「次はボルスに戦闘を行ってもらいたいんだが大丈夫か? サポートならやらせてもらう」

「クリス達の後じゃ、全然面白くない戦闘だろうがいいぜ! ……クリスが馬鹿にした長年の経験の賜物を見せてやるよ!」

「別に馬鹿にはしてないけどな。それじゃよろしく頼む」


 次はボルスの戦闘を見ることにした。

 あまり興味がなかったし、俺達が倒した方が効率が良いと思っていたのだが……。


 索敵能力は本物だったし、ブルーオーガとの一戦もボルスは全て見えていた。

 スキルを使って見た限りではボルスに一切の強さを感じられないが、アルヤジさんの例もあるし、戦っているところを見てみたくなったのだ。


 学べることがあれば、全てを学ぶ。

 ただ単に強い奴の単調な戦いを見るよりも、弱さを知っている人間の戦いを見る方が確実にタメになるからな。

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