第175話 ボルスの戦闘


 倒したブルーオーガの耳を剥ぎ取ってから、バルバッド山の麓を捜索すること二十分。

 今度は一匹のブルーオーガと、二匹のインプの群れと遭遇した。


 インプは初めて遭遇する敵。

 体長は二十センチくらいのゴブリンよりも小柄な魔物だが、魔法を得意とする厄介な魔物と聞いたことがある。


 ……これは流石に俺達が倒した方がいいかもしれない。

 ボルスには孤立した別のブルーオーガを倒してもらうべく、俺達が名乗りを上げようとしたのだが、ボルスは片手で俺達を制止してから一歩前へと出た。


「俺に行かせてくれ! プラチナ冒険者の意地を見せてやるからよ!」

「大丈夫なのか? ……死んでも知らないぞ」

「オーガ相手では死なねーよ! 俺は二十年も泥臭く生きてきたんだぜ?」


 ボルスは胸を叩いて自信あり気にそう言ったが、かなり不安だな。

 サポートも一切いらないということで、俺達三人とスノーは遠巻きに戦闘を見守ることになった。


 念のため、スキルをいつでも使えるようにしておき、危なくなったら助けにいける手筈は整えてあるが、間に合うかどうかはかなり怪しい。

 ボルスよりもブルーオーガの方が生命反応が強いし、その上数的不利だからな。

 死んだら死んだで自己責任だとは思うが、【銀翼の獅子】の一件があるからいい気分はしない。


「ヘスター。いつでも魔法を放てる準備をしてくれ」

「分かりました。危なくなったら、すぐに助けます!」


 念のため、ヘスターにも危なくなったら助太刀をするように伝えてから、俺達はボルスに視線を向ける。

 はたして、一体どんな戦闘を見せるのだろうか。


 強力なスキルを使っての攻撃が一番想像がつくが、ボルスはゆっくりと近づいていくと、剣を引き抜いて真正面からブルーオーガに向かって行った。

 鞘に納められていたから分からなかったが、かなり異質で歪な形をした剣。


 以前戦ったオークジェネラルが使っていたのは、斧に槍の要素があるハルバード。

 対するボルスの剣は、剣に斧の要素がある武器となっている。


 柄から刀身まで真っ黒なこともあり、不気味さも感じる剣だな。

 思わず異質な剣に目がいってしまっていたが、近づくボルスに気が付いたブルーオーガはゆっくりと距離を詰めてきている。


 その後ろに位置していたインプも、ボルスを囲むように移動を始めた。

 正面からブルーオーガ、後ろにはインプと挟まれた形になったボルスだが、一切慌てている様子はなく冷静そのもの。


 スキルの使用は未だに見られず、生命反応も変わらず低くもなければ高くもないまま。

 切り札があるようには思えないし、このままではあっさりとやられるのでは……?

 

 俺はそう思っていたのだが、戦闘が開始されると同時にその考えは一転することとなった。

 ブルーオーガは力任せに鉄の斧を振り回しまくっているが、ボルスには一切当たる気配がない。

 

 ……ただ、ボルスの動きが早くなった訳でも、何かしらのスキルを使っている訳でもない。

 それでも楽々とブルーオーガの攻撃を躱し、隙を見ては攻撃を加えているのだ。


 見ている側としては、全く訳が分からないが……何かしらの策もなしに、弱いはずのボルスがブルーオーガを圧倒している状況。

 それでも攻撃力不足なのはどうしようもないのか、一方的に攻撃できているものの、傷口は浅くダメージはあまり入っていないようにも思える。


 このまま戦えれば、間違いなくブルーオーガを倒せる訳だが、時間をかけて戦えない理由は背後に回られたインプにある。

 ボルスの背後から魔法を放とうと狙っており、このままでは挟み撃ちにされてしまう。


 流石に厳しいと判断した俺は助太刀するべく、ヘスターに魔法でインプを攻撃するように伝えようとしたのだが……。

 ボルスは俺達の方に手の平を向け、サポートはいらないという意思表示をしてきた。


「なぁ、なんでボルスさんはブルーオーガを圧倒しているんだ?」

「分からん。スキルは使っていないと思うんだが、俺の【毒無効】のように常に発動しているスキルを持っているのかもしれない」

「今、私のことも見えていましたよね? 魔法を使おうと思った瞬間に、手で制止してきましたよ」

「視野が異様に広いのか? ……というか、手助けなしで本当に大丈夫なのか?」


 制止されても尚、手助けしようか悩んでいる俺を他所に、ブルーオーガと真正面から戦っているボルスの背後に魔法が打ち込まれた。

 インプが放った魔法は、ヘスターも得意としていた初級魔法【ファイアアロー】。


 速度の速い魔法で、あっという間にボルス目掛けて飛んでいき、背中に着弾した――そう思ったのだが、ボルスはギリギリで上体を屈ませて魔法を避けると、インプの【ファイアアロー】はブルーオーガに当たった。


 もう一匹のインプも即座に【ウィンドアロー】を放ったが、これもボルスは回避。

 流石に【ウィンドアロー】の方は、ブルーオーガに当たらなかったが、真後ろからの魔法に完璧に対応して見せた。


 ブルーオーガと戦いつつ、背後の魔法を見えているかのように回避。

 スキルを使っているようにも思えないし、正直訳が分からないが……単純な強さやスキルでは図りしれない、戦いの奥深さを俺はボルスから感じた。


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