第173話 バルバッド山


「へっへっへ、到着だ! 三人とスノーは初めてだろうが、ここがバルバッド山だぜ! ……中々に異様な雰囲気だろ?」


 バルバッド山に着くなり、そんな紹介をしてきたボルスだが……確かに異様な雰囲気を感じる。

 スノーパンサーやヴェノムパイソンと戦った山とは別次元の、重苦しく足を踏み入れるのも躊躇ってしまうような圧。


 感覚として近いところでいうと、オンガニールが放つあの雰囲気だ。

 空気が張り詰め、生きているもの全てに殺気を放っているのではと思うあの雰囲気。


「確かにちょっと嫌な場所だな。この山は」

「俺もさっきから鳥肌が止まらねぇ! まだ麓だからいいけど、山の上には絶対に近寄りたくないって本能が叫んでいる感じだ!」

「私も……進む足が重くなった気がします」

「そうだろ、そうだろ! このバルバッド山が、エデストル近郊で一番危険と言われている場所だからな!」


 俺達が気圧されたのが分かったのか、嬉しそうな顔で自慢げに語ったボルス。

 ……ビビったと思われるのは、少しムカつくな。


「エデストル近郊で一番? ダンジョンやロザの大森林より危険なのか?」

「詳しいことは分からん! どの場所も未開の場所が多すぎるからな! ……ただ、分かりやすく危険なのはバルバッド山。だからこそ、一番危険とは言われているんだぜ?」


 なるほどな。確かに、この山は“分かりやすく”危険だ。

 一般人からすれば、麓にも近寄りたくないはず。

 道中の魔物だって、この山の方角からバンバンと現れていたしな。


「もしかしてブルーオーガと戦う前に、色々な魔物と戦うハメになるのか?」

「普通に移動するならそうだな! 本当に魔物がうじゃうじゃいるからよ。……ただ安心してくれていい! 俺は索敵能力に長けているから、魔物と遭遇はせずに済むはずだ!」


 胸を一つ叩き、自信満々にそう言ったボルス。

 スノーに任せた方がいい気がしないでもないが、ここは土地勘もあるボルスに任せてみるか。

 

「分かった。そういうことなら、ボルスに案内を任せる」

「ボルスさん、頼むぜ! ……でも、遭遇しても俺達がしっかり倒すから、あんま気負わなくていいからな!」

「俺の半分くらいの年齢で、冒険者のランクも低いのに頼もしい限りだな! それじゃブルーオーガ探しに行くとするか!」


 意気込むボルスを先頭に、俺達はバルバッド山へと足を踏み入れた。



 それから、今までにないくらいの遅い速度で進むこと一時間。

 ようやくブルーオーガが出現するというエリアまで、俺達は辿り着くことができた。


 ここまでの道中、俺もスキルを発動させて索敵を行ってはいたが、正直魔物の数が多すぎて索敵能力どうこうの話ではないほど。

 スノーに至っては、俺よりも広範囲で魔物の存在を認識できるため、俺以上に混乱していたと思う。


 そんな中でも宣言通り、一度の戦闘も行うことなく、このエリアまで導いてくれたボルス。

 進む速度はゆっくりだが、丁寧で確実に魔物の位置を把握しながら先導してくれた。


 生命反応も弱いし、魔力反応に至ってはほぼゼロ。

 正直、俺はボルスを舐めていたが……冒険者歴二十年というのは、決して伊達ではないようだ。


「見つけた。あの木の裏にいるのブルーオーガだぜ!」

「……本当だ。他の魔物と比べて、一際大きい生命反応を感じるな」

「全然分からねぇ! 索敵能力が高い同士の会話はやめて、俺にも分かりやすく教えてくれ」


 喚くラルフを無視し、俺はブルーオーガの能力についてを探る。

 今まで使用していた【生命感知】【魔力感知】【知覚強化】も加えて、【知覚範囲強化】も発動させ、ブルーオーガの能力を盗み見た。


 生命反応はボルスやグリースよりも高く、レオンよりも低い。

 魔力に関しては一切の反応がないため、魔法に関しての警戒はいらないな。


 分かった情報はこの程度だが、おおよその強さが分かっただけで十分。

 ……ただ、カルロが使っていた【観察眼】が取れていれば、もっと具体的な能力が分かるようになっていたかもしれないのにな。

 一番欲しいと思っていたスキルが取れなかったのを、今になって改めて思い出してしまった。


「俺についてくれば位置はすぐに分かる。……それよりも戦闘はどうする? 特に何もないなら、俺達がサクッと倒してくるが」

「それじゃ、お手並み拝見させてもらおうか! 俺が倒しにいってもいいんだけどよ! ここはクリス達の力を見せてくれ!」

「了解。ボルスは、ヘスターとここで待っていてくれ。すぐに倒して戻ってくる」


 ボルスにそう伝えてから、俺はラルフとスノーを引き連れてブルーオーガの元へと向かう。

 ヘスターには危なくなったら魔法を放ってもらう予定だが、ブルーオーガ程度なら前衛の俺達だけであっさりと片付けられるはず。


「あの真正面の木の裏だ。流石にこの位置からなら分かるだろ?」

「おっ、見えた! あれがブルーオーガか!」


 青黒い筋骨隆々の体に、額から鋭く伸びた角。

 手には人を軽々とぶった斬れるであろう鉄の斧が持たれている。


 視界にいるブルーオーガの数は二匹。

 一匹は俺が倒し、もう一匹はスノーに倒してもらおうか。

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