第172話 もじゃもじゃ


 俺はそのもじゃもじゃヘアーのおっさんに、直球で質問を飛ばす。


「あんた、誰だ?」

「俺はプラチナランク冒険者のボルスってんだ! 丁度、パーティメンバーが病気にかかっちまっててな。一人で依頼をこなそうと思っていたところに、受付で騒いでいるお前らを見かけて――声を掛けさせてもらった」


 腕を組んだまま、そう説明したボルス。

 うーん……。プラチナランク冒険者か。


 見た限りではそこまでの強さを感じないし、仲良くなるメリットをほとんど感じない。

 ……ただ、プラチナランクの依頼を受けることができるなら、一時的に協力してもらうのはアリかもしれないな。

 

「受付嬢。例えば、こいつと一緒にプラチナランクの依頼をこなしたとしたら、達成数は俺達にもカウントされるのか?」

「一緒に受けた冒険者のランク、それから数によって増減致しますが……しっかりと加算されます」

「なるほど。そういうことなら、ボルス。一緒に依頼を受けてくれ」

「おっ? なーんか生意気な小僧だな! ……こりゃ、声を掛けたのは間違いだったか?」

「間違いじゃないぞ。慢心でも過信でもなく、俺達はちゃんと強いからな」


 頭をポリポリと搔きながら、そう呟いたボルスに俺は堂々と宣言する。

 少なくともこのボルスよりかは、三人とも圧倒的に強い。


「すんげぇ自信だな! ……んじゃ、いっちょ一緒に依頼をこなすか。受付の嬢ちゃん、こいつらが受けようとしていた依頼を俺が共に受ける」

「かしこまりました。それでは手続きをさせていただきますね」


 こうして、いきなり声を掛けてきたプラチナランクの変なおっさん、ボルスと一緒にブルーオーガの依頼を受けることに決めた。

 初めての土地、初めての依頼、初めての共闘。

 初めてのことだらけだし不安がないといえば嘘だが、とっととランクアップするためにも引くという選択肢はないな。



 それから、もじゃもじゃのおっさんと共に、外へと出てきた俺達。

 目的地であるバルバッド山に向かう前に、おっさんについてを少し知っておきたい。


「それで、なんで俺達に声を掛けたんだ?」


 冒険者ギルドを出た瞬間に俺は変なおっさん、ボルスにそう尋ねる。

 顔見知りでもなければ、有名でない俺達に声を掛けてきたボルス。

 何か裏がある可能性も無きにしも非ずだからな。


「なんでって……さっきも言っただろうが! 受付前で揉めてたから、ちょこっと助けてやろうと思っただけだぜ」

「助けてやろうと思った理由を聞いている。何かの報酬を期待しているなら、先に無理だと言っておこうと思ってな」

「別に過度な報酬なんていらねぇよ! 困ってる奴を颯爽と助けたら……なんかカッコいいだろ? まぁ予想に反して糞生意気な奴だったけどよぉ!」


 ぶつくさと文句を垂れているボルス。

 ……理由はダサいが、確かに納得はできた。


 クラウスの追手にしては弱すぎるし、欲深さもそこまで感じない。

 本当にただの好意だけで声を掛けてきたようだ。


「そうだったのか。理由はダサいが、本当に助かった」

「助かったと思ってるなら言葉を慎みやがれ! 俺はお前達の倍は生きているんだからよ!」

「すまないな。ただ長く生きているだけの奴に、俺は何の尊敬もできない。――しっかり尊敬に値する人なら、俺は年下だろうがしっかりと敬うぞ」

「うぐっ! ……おいっ、仲間の二人も見てないで助けてくれや! オーガと戦う前に俺のメンタルがやられる!」


 何故かラルフとヘスターに泣きついたが、ラルフは楽しそうに笑っており、ヘスターに至ってはガン無視している。

 唯一、スノーだけが鞄から飛び出して、ボルスに駆け寄って行った。


「おおっ、なんだなんだ! 俺を慰めてくれるのか! めちゃくちゃ可愛いな! この……猫?犬?はペットなのか?」

「ああ。スノーパンサーのスノーだ。そんで、俺がクリス。そっちの二人がラルフとヘスターだ」

「スノーにクリスにラルフとヘスターね。俺はさっきも自己紹介したが、ボルスだ。俺はなぁ、約二十年もこのエデストルで冒険者をやっているんだぜ! 聞きたいことがあれば、なんでも聞いてくれ!」


 胸を張ってそう答えたボルス。

 つい先ほど、ただ長く生きているだけの奴を尊敬しないと言ったはずなのに、自信満々に冒険者歴を語ってきた。


「ちなみに、冒険者歴も自慢げに語ることじゃないからな」

「……うぐっ!」

「俺達はつい最近まで、オックスターって街で冒険者をやっていた。全員ゴールドだが、もう昇格寸前ではあると思う」

「その年でゴールド!? 雰囲気で分かってちゃいたが、やっぱり只者ではないんだな。……まぁ実力がなけりゃ、そんな大口叩けねぇもんな!」


 そんなボルスの発言に首を傾げたラルフ。


「そうか……? クリスって弱かった時からこんなだったよな?」

「そうですね。ルーキーの時から、こんな感じでした」

「確かに二人と出会った時には、既にこんなだったな。でも、実家で暮らしていた時は、超お利口にしていたぞ」

「お利口さんなクリスとか想像つかないわ!」


 当時の俺は、親父の機嫌ばかりを覗っていたからな。

 その時があったからこそ、他人のために生きていくのは馬鹿らしいと思うようになったんだけど。


「とりあえず三人については分かった。足を引っ張られることもなさそうだな! 安心して依頼に臨めるぜ!」

「実力については安心していい。何なら、俺達だけでブルーオーガを倒せるから、ボルスは遠巻きから見ているだけでいいぞ」

「すんげぇ自信だな! ……だけど、俺も戦わせてもらうぜ。クリスに俺を尊敬させてやるからよ!」


 何故か気合いの入っているボルス。

 冒険者歴二十年のプラチナ冒険者の意地ってやつか。

 そんなこんな自己紹介を交えた会話をしつつ、エデストルを出た俺達はバルバッド山へと向かったのだった。

 

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