第171話 ヒヒイロカネ


 翌日。

 俺達は宿屋を後にして、冒険者ギルドへとやってきた。


 はたしてエデストルの冒険者ギルドは、一体どんな雰囲気だろうか。

 初期のオックスターのような感じでなければ、なんでもいいんだが……できれば【銀翼の獅子】みたいな人達がいてくれれば助かる。


 そんな願望を抱きつつ、俺達はエデストルの冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

 広さはオックスターとノーファストの冒険者ギルドの、丁度中間くらいだろうか。

 

 大きすぎないけど、十分な広さのある冒険者ギルド。

 隅々まで清掃もなされているようで、今まで訪れた冒険者ギルドの中で一番清潔感のある内装だ。


「依頼掲示板で依頼を見てみよう。二人も良さそうな討伐依頼があったら、俺に教えてくれ」

「了解! なんか強そうな魔物の依頼ないかな?」

 

 二人にそう声を掛けてから、大きい掲示板に張り出された依頼を吟味していく。

 ……やっぱり凄いな。


 プラチナランクの依頼だけで百件近くの依頼があるし、ミスリルランクの依頼も数十件、ダイアモンドランクの依頼も十数件ある。

 更にその上の、ヒヒイロカネランクの依頼も一件だけだが張り出されていた。

 プラチナランクの依頼を見なくてはいけないのだが、謎の引力によって俺達三人はヒヒイロカネランクの依頼へと吸い寄せられた。


「ヒヒイロカネ……。やっぱり実在するんだな!」

「俺達にはまだ関係ないけど、やっぱり気になるよな」

「ですね。えーっと、依頼内容は……バハムートの洞窟の発見。パルバッド山にあると呼ばれているバハムートの洞窟を見つけてほしい――だそうです」

「バハムートの洞窟? バハムートって言えば、伝説の邪龍だよな!? もしかしてパルバッド山にはバハムートが住んでいるのか?」


 ……いや、多分違うはず。

 俺はノーファストの武器屋『イチリュウ』で聞いた話を思い出した。


 魔物がうじゃうじゃいる北西の山の、更に誰も立ち入ることができない場所に洞窟がある。

 その洞窟に初代勇者の伝説の装備、『ヴァデッタテイン』があるという話。


 つまり、魔物がうじゃうじゃいる北西の山がパルバッド山。

 誰も立ち入ることができない場所にある洞窟が、バハムートの洞窟っていう訳だろう。


「多分違う。初代勇者の伝説の装備が眠る洞窟のことだと思うぞ」

「なんだクリス! 何か知っているのか?」

「ノーファストで鋼の剣を買った武器屋で、ほんの少しだけ噂話を聞いたんだ。詳しくは知らないが……この依頼が出されているということは本当だったんだろう」

「この依頼の報酬は白金貨五十枚。凄いですね! 洞窟を見つけるだけで、白金貨五十枚ですよ! 伝説の装備が眠っているのなら納得です!」


 ……エデストルで更に強くなったら、バハムートの洞窟を捜索してもいいかもしれない。

 『ヴァンデッタテイン』の話を聞いた時から、手に入れるのはアリだと思っていたが、こんな依頼が出されているのなら、存在自体はほぼ間違いないのだろう。


 クラウスを殺すためには、武器も超一流の伝説の武器を揃えないといけない。

 『ヴェンデッタテイン』の更なる情報で体が熱くなっていくのを感じつつ、俺は一つ大きく深呼吸した。


「まぁ見つからないからこその報酬だろうな。ヒヒイロカネの依頼はこの辺にして、プラチナランク依頼を見るか」


 ただ、それは今ではないため、まずは一歩一歩地に足つけて進むために、気持ちをプラチナランクの依頼へと切り替える。

 ヒヒイロカネの依頼から離れ、俺達はプラチナランクの依頼の吟味を再開した。



 悩み、相談した上で決めたのは、バルバッド山の麓に現れるというブルーオーガの討伐。

 オーガ種の討伐は初めてで、ゴブリンやオークと並んで様々な種類のいる魔物。


 今回はメジャーな部類でもある、ブルーオーガの討伐だ。

 討伐数は三匹で、報酬は金貨三枚。


 一匹追加で倒すことにつき、金貨一枚の追加報酬もある。

 更に人型の魔物だし、単体でみれば強さはプラチナランクでは下の上。 

 初めての街で初めての依頼と考えれば、丁度良い相手だと思う。


「なんだかんだ、オーガは一度も見たことがないな!」

「俺もない。数は多いはずなんだけど、オックスターやレアルザッド付近では現れなかったからな」

「楽しみですね。人型の魔物との戦闘はタメになりますから」


 そんな会話をしつつ、俺達は受注用の受付へと並ぶ。

 …………それにしても、ノーファストと比べて強い冒険者が多いな。


 全体的にレベルが高く、カルロに匹敵する生命反応を持つ冒険者もちらほらと見える。

 カルロがダイアモンド冒険者級だと仮定すると、この冒険者ギルドではダイアモンドランクの冒険者が最低でも八人。

 

 流石は三大都市、それもダンジョンのある都市だな。

 王国の強い奴が集まってきているのだろう。


「いらっしゃいませ。こちらは受注用の受付となりますが、よろしかったでしょうか?」


 ギルド内の冒険者たちの強さを図っていると、あっという間に俺達の番が回ってきた。

 ギルドの受付嬢は、本当にどこも同じような反応だな。

 

「ああ。この依頼を受けたい」

「ブルーオーガの討伐依頼ですね。かしこまりました。冒険者カードの提出をお願いします」


 ブルーオーガの張り紙を手渡してから、指示通り冒険者カードを手渡す。

 受付嬢は三人分の冒険者カードをまじまじと見てから、困った様子で顔を上げた。


「あの……みなさまはゴールドランクですので、プラチナランクの依頼は受けることができないんです」

「えっ?」


 思い返してみたが、確かに俺達はまだゴールドランクだった。

 レッドコングの依頼を受けることができたため、てっきり勘違いしていたが……俺達は副ギルド長が優遇してくれていたから、依頼を受けることができていただけだ。


「……まだランク上がっていなかったんだっけ!? ゴールドの依頼も結構こなしたし、てっきりプラチナに上がってたと思ってたわ!」

「私もです。ということは、ゴールドランクの依頼を受けないといけないんですかね

?」


 心機一転、プラチナランクの依頼を受けようと意気込んでいたのだが、いきなり出鼻を挫かれてしまったな。

 なんとかして、プラチナランクの依頼を受けることは出来ないだろうか。


「以前、拠点にしていた街では、プラチナランクの依頼を受けることができていた。記録を見てもらえれば分かると思うが、俺達はプラチナランクの依頼でもこなせる」

「……申し訳ございません。規則は規則ですので」

「俺達の依頼達成率は100%だ。ルーキーから一度も失敗していないし、プラチナランクの緊急依頼も受けた。……これでも駄目か?」

「すいません。規則は規則です」


 断固として譲る気配を見せない受付嬢。

 確かに、これで俺達が失敗して責任を取らされるのは受付嬢だろうしな。


 人材も揃っているし、緊急でもない依頼をわざわざ頼む必要性がない。

 これは諦めて地道に行くしかなさそうだな。


「…………分かった。ゴールドラン――」

「話は聞かせてもらったぜ。プラチナランクの依頼を受けたいなら、俺と一緒にこなさねぇか?」


 俺は諦め、ゴールドランクの依頼に着手するつもりでいたのだが、突如背後から声をかけられた。

 振り返ってみると、爆発したようなもじゃもじゃヘアーのおっさんが腕を組んで立っていた。

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