第165話 『イチリュウ』

 

 『ラッシュブルグ』を出た俺は、ギルドマスターから教えてもらった『イチリュウ』へとやってきた。

 手ごろな値段で、使用していた剣の代わりとなるものが見つかればいいのだが……。


 そんなことを考えながら、少し古臭いながらも雰囲気の良い武器屋『イチリュウ』の扉を押し開けた。

 店内は様々な武器が置かれており、その奥には鍛治台がある。

 所謂、武器屋兼鍛冶屋といった店なのだろう。


「おう! いらっしゃい! 俺の店によく来たな!」


 俺が入るなり声を掛けてきたのは、俺の身長の半分くらいしかない髭がもじゃもじゃの男性。

 この姿形の人間は聞いたことがある。――亜人であるドワーフだったはずだ。


 会ったのは初めてだが、手先が器用で鍛冶や裁縫が得意な種族だと言われている。

 そのドワーフがやっているお店か……。

 ギルドマスターのオススメだけあって、本当に良い店のようだな。


「どうも。剣を探しにきたんだが、手頃で良い剣はあったりするか?」

「手頃な剣だと? それなら俺が打った鉄剣なんかがいいだろう! 安くてそこらの鉄剣と比べても丈夫だぜ!」


 店に入ってすぐ、勧められるがまま鉄剣の置かれているところに足を運ぶ。

 ……確かに、レアルザッドやオックスターの店で見た剣とは別物に感じるぐらい質の高い鉄剣だ。


 ただ、それでも鋼の剣と比べたら質は落ちる。

 材質が違うから当たり前といえば当たり前なのだが、俺が愛用していた細身の鋼の剣と同等くらいのものは欲しい。

 またへし折れたら目も当てられないからな。


「鋼の剣は置いていたりしないか? 鉄の剣よりかは鋼の剣がいい」

「もちろんあるぜ! そっちに並べられてある奴だ!」


 鉄剣の置かれた場所から離れ、鋼の剣の置かれた場所へと向かう。

 鉄剣同様、質の高さが覗い知れるが……普通の鋼の剣しか置かれていないな。


 俺が使っていたのは細身の剣。

 突きも通りやすいし、速度も上がるため割と気に入っていたのだが、こればかりは我儘を言っていられない。


「この鋼の剣を買いたい。値段はいくらだ?」

「金貨五枚だ! 特別に鞘もつけるぜ?」

「買わせてもらう」


 レアルザッドで買った剣よりかは高いが、質は全然こっちの方が高いし細身ではない。

 使っている鋼の量を考えたら、むしろこっちの方が安いくらいだな。


「よし、毎度あり! 俺の武器は全て一級品だからな! 長く使えると思うぜ!」


 俺はドワーフの店主から鋼の剣を受け取り、即座に腰に身に着けた。

 ――やはり帯剣していると、言葉に言い表せないしっくりした感じがある。


 金貨五枚を手渡してから、俺は店内の武器を改めて見せてもらうことにした。

 入店してから鋼の剣を購入するまで、即決めてしまっていたからな。


「本当に良い武器が揃ってるな。……特にこの武器が良い。魔法の剣か?」

「良い目をしているな! そいつは魔法の剣じゃなく魔剣だ! 自ら魔力を帯びている剣。この店で一番良い武器だぜ!」


 触れられないようにショーケースに入っているのだが……遠目からでも分かるぐらい質の高さと異常な魔力量を誇っている。

 素人が手を出せば、自らを殺しかねない――そんな武器だ。


「これはいくらなんだ?」

「俺のコレクションみてぇなもんだから売る気はねぇが……そうだな! 値段を付けるとしたら白金貨二百枚ってところか?」

「馬鹿げた額だな。……でも、確かにこれよりも質の高い剣を見たことがない」

「そりゃそうだろ! この剣よりも質が高いといえば――初代勇者の“ヴァンデッタテイン”クラスじゃねぇと明確に超えたと言えねぇだろうからな!」


 初代勇者。

 英雄伝でも読んだし、未だに度々耳にするその名前。

 

 クラウスと同じ適正職業を持った、英雄の中の英雄だ。

 その初代勇者が持っていた剣か……少し興味深いな。


「なんだ? そのヴァンデッタテインというのは」

「だから、初代勇者の武器だっての! 勇者が死んだ場所に眠るといわれてる武器だ! 実際には誰も見たことがねぇから噂レベルの話だがな!」

「誰も見たことがない。……なんだ、実在するかも分からない武器か」

「見たことはねぇが、眠っているとされている場所は正確に分かっているぜ! エデストルから北に向かうと見える山の洞窟だ! 魔物がうじゃうじゃいるその山の、更に誰も立ち入ることのできない洞窟にあるって話だから――まぁ場所が分かっていても誰も調べにすらいけねぇんだがな!」


 初代勇者が使っていた武器が眠っているとされている場所は、エデストル近辺なのか。

 エデストルのダンジョンは、幾度となく英雄伝にも出てきた場所。


 初代勇者のルーツも確かエデストルのダンジョンだったし、初代勇者自体エデストルで生まれ育っていてもおかしくない。

 だとしたら、この話もかなり信憑性が高い話。


「そうなのか。ただのおとぎ話って訳でもないんだな」

「違う違う! ちゃんとした話だぜ! おい、兄ちゃん。もしヴェンデッタテインを手に入れることができさえすりゃ、この魔剣と取り換えてやってもいいぜ!」

「馬鹿か。仮に俺が手に入れることができたとしても、ヴァンデッタテインの方が質が高いんだろ? 交換なんかするかよ」

「馬鹿とはなんだよ! 白金貨の代わりにヴァンデッタテインでもいいって言ってるだけだろ!」


 『ヴァンデッタテイン』――か。

 機会があれば狙ってみてもいいかもしれない。


 今日買った鋼の剣はかなり上質な剣だが、クラウスと戦うことを想定したら物足らない。

 どこかしらで、『イチリュウ』で売られている魔剣のような剣を手に入れることは必須だからな。


 ドワーフの店主から貰った情報もエデストルの情報として頭の中に入れ、俺はしばらく店内を見てから、『イチリュウ』を後にし宿屋へと戻ったのだった。

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