第164話 エデストルの情報
「それで何の情報を聞きにきたんだ? 丁度休憩に入ったから、今の時間でも情報を売ってやるよ」
「……エデストルについての情報が欲しい。持っているか?」
「エデストル? ノーファストにいながら、エデストルの情報を集めてるのか。――珍しい奴だな」
「俺のことはいいから、エデストルの情報を持っているかどうか教えてくれ」
「もちろん持っているさ。三大都市の内の一つだからな。エデストルの何の情報が欲しんだ?」
「エデストルにクラウスという勇者候補が今現在いるかどうか。教えてほしい」
俺は直球に、クラウスがいるかどうかについてを聞いた。
エデストルに移住するにあたっての一番の問題。
クラウスがエデストルにいるのが確定しているのであれば、移り住むことは不可能となる訳だからな。
「クラウス。王都から出てきた勇者候補か。……確か、エデストルのダンジョンの五十階層を最速突破したって奴だよな?」
「ああ、そうだ。そのクラウスがエデストルにいるかどうかを知りたい」
「残念だが、もうエデストルにはいないだろうよ。つい一ヶ月前、クラウスが正式にパーティを組んだって情報が王都から入ってきたからな。もう王都に戻っているはずだ」
クラウスは王都に戻っている……?
エデストルへの目的はダンジョンのみで、そのダンジョンを突破したから――王都へと戻ってきたという訳か。
「その情報は確かなのか?」
「ああ、間違いない。そのパーティメンバーを聞いたこの国の王が、カンカンに怒り狂ってるって話も出てるからな」
ニヤニヤと悪そうな笑みで、そう話した情報屋のおっさん。
……クラウスの近況については今知らなくていい情報なのだが、めちゃくちゃ気になるな。
余計な金が飛ぶかもしれないが、クラウスのことを聞くならアリだろう。
「どういうことだ? そのことについて、詳しく教えてくれ」
「んぁ? 知らないのか。いずれ知れ渡る情報だし、銀貨一枚で教えてやるよ」
俺は金貨一枚を取り出し、情報屋に投げ渡した。
いちいち金のやり取りで遮られるのは面倒なため、多めに金を渡しておく。
「面倒くさいから、多めに渡しておく。まずはそのことについて教えてくれ」
「毎度あり。……【剣神】クラウスが、組むパーティメンバーを発表したんだ。四人パーティで、その内の二人は【操死霊術師】、【聖竜騎士】と同じ学園から順当な二人が選ばれた。残る一人が大問題でな。ミルウォークっつう名前の、学園に通っていない一般人から選出したんだよ」
「一般人? わざわざ一般人をパーティに入れたのか?」
「んまぁ、正確には一般人ではねぇな。表ではあまり知られていないが、王都のチンピラ集団『アンダーアイ』のリーダーなんだよ。そのミルウォークってのは。組織自体は犯罪を取り仕切っている『ザマギニクス』に大きく劣っているが、ミルウォーク自身の力が買われたのかもしれないな」
確かにクラウスは裏の組織と繋がっていると、王都の情報屋から聞いた。
その内の一つが、カルロ率いる『ザマギニクス』。
もう一つが、ミルウォーク率いる『アンダーアイ』って訳か。
そしてクラウスは、組織としてはデカいはずのカルロを使いっぱしりにし、逆にミルウォークをパーティに率いるほど重宝していると。
……まぁカルロが本当に、『ザマギニクス』のリーダーかどうかは分からないけどな。
「でも、そんな堂々と裏社会の人間をパーティに引き入れて大丈夫なのか?」
「駄目だから王様が怒ってんだ。何しろ、王の娘である【戦姫】もいる中、わざわざ学園の外から裏社会の人間を引き入れたんだからな」
一体クラウスが何を考えているのか分からない。
余程の魅力がミルウォークって奴にあったのか、それとももっと別のことを考えているのか。
俺の目的はクラウス一人だが、クラウスの場合は目的が俺だけではないもんな。
俺を殺すことに対して、かなり力を割いているように見えるが……クラウスの目的はあくまで勇者としての務め。
――つまりは魔王の討伐だ。
成し遂げる気があるのか分からないが、真っ当にダンジョンを攻略していることからも、本来の目的からは逸脱していないようにも思える。
「なるほどな。クラウスのパーティの事情については分かった。その問題を引き起こしたから、クラウスは王都に戻っているってのが情報屋の見解なんだな」
「ほぼほぼ間違いないと思うぜ。ダンジョンを攻略した以上は、エデストルに用はないはずだからな」
「そうか。情報助かった。……後は、残りの金でエデストルについて知っていることを全て教えてくれ」
俺は渡した金貨分の情報を、『ラッシュブルグ』の情報屋から聞き出した。
やはり聞けば聞くほど魅力的な街で、ダンジョンのお陰で敵にも困ることもないし、ダンジョンがあるお陰で強い冒険者も集まってくるらしい。
つまりは【銀翼の獅子】の時と同じように、強い冒険者と仲良くなることも可能というわけだ。
……正直、【銀翼の獅子】の一件で深く関わりを持つことを、恐怖している自分もいるがそうも言ってられないからな。
「エデストルの色々な情報助かった。また何かあった時は尋ねさせてもらう」
「こちらこそ、金貨一枚分も情報を買ってくれてありがとうな! いつでも歓迎するぜ」
情報屋に礼を伝えてから、俺は『ラッシュブルグ』を後にしたのだった。
怪しい店構えだったが、非常に良い情報を貰った。
本当はもう数軒情報屋を訪ねる予定だったが、これだけ集めることができればその必要もないだろう。
『イチリュウ』に寄ってから、少し早いが宿屋に戻ろうか。
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