第166話 次なる移住先


 情報を集めた翌日の早朝。

 もうノーファストを離れ、オックスターへと戻る予定でいる。


 ヘスターも必要な分の情報を集めたようだし、ラルフも……まぁ多少なりとも情報を手に入れてきた様子だからな。

 帰りの道中で手に入れた情報を精査しつつ、これから向かう街についてを決めたいと思う。


「荷物はまとめたか? 忘れ物はしないように気を付けろよ、ラルフ」

「なんで俺だけ指定なんだよ!」

「忘れ物なんかするの、ラルフぐらいしかいねぇだろ。荷物がまとまったなら行くぞ」

「私はもう大丈夫です! オックスターへ帰りましょう」

「アウッ!」


 二人の準備が整ったのを見届けてから、俺達は安宿を後にして門へと目指す。

 スノーも誰も襲うことはなかったし、クラウスの追手らしき人物との遭遇もなかった。


 目的である【銀翼の獅子】への報告もできたし、非常に有意義な時間を過ごすことができたな。

 あとは無事にオックスターまで帰還するだけだ。

 辿り着くまでは決して気を抜かず、集中を途切らせないようにしよう。



 早朝に宿屋を出てノーファストを去ってから、約二時間が経過した。

 俺達はオックスターを目指しながら、昨日集めた情報の報告会を行っている。


 ラルフと俺のエデストルの報告が終わり、次はノーファストについて調べていたヘスターの番。

 ……ちなみにだが、ラルフの集めた情報はほぼほぼ役に立たない情報だった。


「ノーファストについて調べましたが、かなり住みやすい街だと思います。まず冒険者ギルドは強い力を持つギルドマスターによって治安が守られており、オックスターみたいなことが起こらないと断言できますね」


 ギルドマスター。

 あの受付嬢に扮していたギルドマスターか。


 女装癖のある奴かと思っていたが、今思えばあそこで身を隠して受付嬢として働くことで、冒険者内の様子を見ていたのかもしれない。

 そう考えると……確かに有能であり、オックスターのようなことは起こり得ないだろうな。


「それから物価もかなり安いですね。お店がたくさんあるため、その分価格が安くなっていってるみたいです。そして……お店がたくさんあるということは、色々な物が売っているということです。物に関しての心配はまずないと思います」

「これだけでも、確かにメリットが大きいな」

「依頼に関しても多種多様な依頼が出されていましたし、依頼に困るということもなさそうですね。三大都市だけあって色々な人が来ますから、それだけ情報の集めやすさという利点も強いです」


 つらつらと調べたことについてを話してくれるヘスター。

 一日で本当によく調べてくれたな。

 エデストルに傾きかけていた俺だが、メリットが大きくノーファストでもいい気がしてきた。


「――ですが、明確なデメリットもあります」

「明確なデメリット?」

「はい。近くに森がないことですね。クリスさんの強化において、森の有無は最優先事項だと思います。自家栽培に切り替えるにしても、ノーファストはあの密度です。毒草を育てることのできる大きな家を借りるとしたら……一月で白金貨十枚は飛ぶと思いますね」


 …………確かにそれは明確なデメリットだな。

 来た時にも気づいてはいたが、ノーファストの付近に森が一切ない。


 普通の人からすれば、これはありがたいことなのだろうが、俺からしてみればかなり致命的なデメリット。

 ヘスターの言う通り、オックスターで借りたような家を借りることはまず不可能だしな。


「ということですので、エデストルにクラウスがいないのであれば――私はエデストルに移るのが良いと思いました!」

「俺もエデストル派だな! 何よりダンジョンが本当に気になる!」


 そう結論を出したヘスターと、その意見に賛同したラルフ。

 ……かく言う俺もエデストル派だし、これは次の移住先が決まったかな。


「それじゃ、次の移住先はエデストルで決まりだな」

「そうですね! 異論はありません」

「俺も異論はない! ……オックスターを離れるのは、少し寂しいけどな」

「アウッ!」


 ラルフとヘスター、そしてスノーが返事をしたことで正式に決まった。

 ……スノーに関しては、元々大きくなるまで育てるということだったし、もうこの強さを誇っているなら北の山でも生きていけるはず。


 連れて行くかどうかはスノーの意思に任せるつもりだが、残るということならば暖かく見送るつもり。

 これからの動きについてを決めたところで、俺達はオックスターに向けて進む歩を早めたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る