第130話 VSゴーレム


 まず先に動いてきたのはゴーレム。

 俺を敵だと認識したゴーレムは、俺を踏みつけるように足を思い切り上げて叩きつけてきた。

 

 この踏みつけも正直受けきれるが……受ける必要のない攻撃は極力避けていく。

 ローリングで回避を行い、続けざまで繰り出してきた右ストレートを盾で弾いた。


 重さは感じるが――スキルのお陰でなんとも感じない。

 念のために使った【外皮強化】のお陰で、衝撃によるダメージが激減されている。


 ……なるほどな。

 【天恵の儀】にてこのスキルを授かってしまったら、グリースが痛みに弱かったのも納得する。

 これだけのスキルで守られていたら、攻撃をまともに受けるほうが少ない。


 推奨討伐がゴールドランクのゴーレムの攻撃でも、ほぼノーダメージ。

 グリースは俺と戦うまで、まともな攻撃すら受けたことがなかったはず。


 苦労がなく力をつけることができた反面、その苦労を知らなかったことで弱みとなった。

 そんな些細なことだが、俺は【天恵の儀】で優秀な職業やスキルを手に入れた者たちの弱みを見た気がした。


 ――っと! 余計なことを考えている暇はない。 

 つい考え込んでしまい、一瞬だが戦闘から意識が逸れてしまった。

 気を入れ直し、ゴーレムの攻撃を全て防ぎにかかる。


 フルスイングでパンチを放ってくるゴーレムの動きを読みつつ、躱すところは躱して受けるところは受けていく。

 攻撃に重さにパターンにバリエーションもあるが、基本はパンチとキックのみのため容易に受けきることができている。


「ラルフ、ヘスター! 攻撃を仕掛けていいぞ!」


 これならば防ぎきることができると判断した俺は、二人に攻撃許可を出し、一気に攻め立てることに決めた。

 ヘスターの鞄からスノーも飛び出し、二人と一匹の波状攻撃が始まる。


 俺はみんなに攻撃がいかないよう、シールドバッシュをしつつターゲットを取り続け、ゴーレムの攻撃を受け続けていく。

 最初はあまり好きではなかったタンクだが、実際にやってみると中々楽しい。

 敵の嫌がることを行い続け、攻撃を全て完封した時は嗜虐心がくすぐられる。


 シールドバッシュで腕を弾き飛ばした瞬間に、ラルフが飛び出て鉄剣を叩き込み、パンチの連打をゴーレムが行ってきたら、ヘスターが【アイシクルアロー】で動きを封じていく。

 そして、スノーは野生の動きで気の向くままに攻撃を与えていった。

 

 ゴーレムは氷属性に弱いのか、スノーの氷結攻撃とヘスターの氷魔法を受ける度に動きが鈍くなっていっているのが分かる。

 ヘスターはそのことに気が付いたのか、コアの部分を氷魔法で狙いつつ、コアを防ぎにきたら関節部分を狙って的確に動きを止めに動いた。


 ゴーレムもゴーレムで、ただやられっぱなしではなく――ダメージを負うごとに、

コアの部分から伸びるようにゴーレムの体に紋章が浮かび上がっていき、その紋章の光が濃くなるごとに攻撃速度が上がり始めている。

 最後の方は、生身の人間と遜色ない動きを繰り広げていたが……。

 残念ながら人間と変わらない速度では、【肉体向上】を使っている俺の敵ではない。


 結局、一度も俺に攻撃をクリーンヒットできないまま、ヘスターの【アイシクルアロー】が上半身を凍りつかせ、ラルフが足を削りとったことでゴーレムは完全停止。

 これでゆっくりとゴーレムの調査を行えると思ったのだが――。


「アウッ!! アウ!」


 スノーが機能停止しているゴーレムに飛び掛かり、止める暇もなくコアを抜き取ってしまった。

 コアを抜かれたゴーレムは完璧に機能が停止し、人の形を成していた鉄のような体は鉄くずへと変わる。


 唖然としている俺達三人のことをなど何も知らないスノーは、尻尾を振りながらコアを口に咥えて俺の下へと持ってきた。

 ……これはスノーにしっかりと指示を出さなかった俺達が悪い。


 スノーを撫でてからコアを受け取り、元ゴーレムだった鉄くずの回収も行う。

 実際に扉まで封じられて閉じ込められた訳だし、命の危険があったから壊したと説明すればいいだけだしな。

 報酬は下がるかもしれないが、原動力となっていたコアはスノーが綺麗に回収したし、まぁそこまでの心配はいらないだろう。


「スノーが少しやらかしてしまったが、まぁ依頼は達成ってことで大丈夫だろう。二人共、いい攻撃だったぞ」

「そうか? 俺よりもスノーのがダメージ与えてた気がするけど!」

「氷属性が弱点っぽかったしな。そんな中で、足だけを狙って動きを封じたのはよかった。ヘスターも弱点が氷なのは途中から気づいていただろ?」

「はい。スノーの氷結攻撃をかなり嫌がっていたように見えましたので。習得は難しかったですが、複合魔法を習得しておいて良かったです」

「くっそー! やっぱヘスターは羨ましいぜ。スキルは身に付かないけど、魔法はどんどん身に付くもんな」


 俺はかなりの働きをしたと思ったのだが、あまり手ごたえを感じていなさそうなラルフ。

 ヘスターは新しい魔法を、俺は新しいスキルを覚えていくことで、焦りみたいなものがあるのかもしれない。


「ラルフだって、まだ使用していないスキルがあるだろ?」

「いや、両方とも全然発動されないんだよ。【守護者の咆哮】と同じ要領で使っているんだけど発動されない」

「【神の加護】と【神撃】。スキル名からして強そうなスキルだが、“神”とついていることから発動条件があるのかもな。まぁラルフもまだ残されているスキルがあるんだ腐るなよ?」

「腐らねぇよ! 俺ももっとやれたって感じてただけだ! クリスにもヘスターにも、もちろんスノーにも俺は負けるつもりはないからな」

「それなら良かった。……それじゃ、さっさとこの埃だらけの遺跡から出るか」


 ゴーレムの残骸を回収した俺達は、入口の扉を押し開けて遺跡を後にした。

 ゴーレムはぶっ壊してしまった訳だが、とりあえず調査の依頼は達成したことだしいいだろう。

 

 中々の強敵相手にスキルも試すことができたし、【肉体向上】の有用さも実感できた。

 あとは【要塞】を上手く使いたいんだが、こればかりは時間を使って慣れていくしかなさそうだな。

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