第129話 南西の遺跡
スノーを連れてからオックスターを出て、南西の方角へと足を運んでいた。
俺達が今回受けた依頼は、南西の遺跡のゴーレム調査という依頼。
どうやら遺跡に眠るゴーレムと呼ばれる人造の魔物がいるらしく、その魔物の調査を依頼という訳だ。
討伐依頼ではない依頼は初めてなのだが、報酬が破格だったのとゴーレムというものを一度見ていたいという気持ちから、俺達はこの依頼を受けることに決めた。
「ゴーレムってどんな魔物なんだろうな! 人造の魔物なんてワクワクしないか?」
「何かで聞いたことがありますが……確か魔王軍との戦いに向け、人類側の秘密兵器として造られた魔物なんですよね?」
「俺は全く知らないな。俺が昔読んで英雄伝には記載がなかったはず」
「俺も知らないぞ! 今日初めて聞いた!」
「ラルフが知らないのは知ってる。……初代勇者のパーティメンバーだった、【賢帝】メルキロウヒが作り出した魔物だって聞きます」
初代勇者のパーティメンバー。
名前までは知らなかったが、【賢帝】の名は英雄伝にも載っていた。
「へー! それじゃゴーレムって凄い魔物なんだな! 初代勇者の仲間のメルキなんとかって奴が造ったんだろ?」
「そうなんですが……。メルキロウヒ以外が造り出したゴーレムは、不足な点が多かったみたいで、普通の魔物のように制御できずに暴れ回っていたみたいです。そのせいでゴーレム自体は封印され、ゴーレムの生成は中止。今回行く遺跡のように、各地でゴーレムは封じ込めているみたいです」
「ヘスター、随分と詳しいな。ゴーレムについて調べていたのか?」
「いえ。ゴーレムではなくて、メルキロウヒについてを調べていました。魔法使い職業の頂点とも呼ばれている人ですので、何か参考になるのではないかと思ったんです」
ヘスターは本当に勉強熱心だな。
文字を教えて改めて正解だったと思う。
「なあなあ! なんでゴーレムは破壊せず、閉じ込めるみたいな面倒くさいことをしたんだ?」
「そこまでは私も知らない。ただ、今後活用できると思っていたんじゃないかな? 今回だってゴーレムの“調査”の依頼だからね」
「そうか! 今日の依頼は調査だもんな!」
「ゴーレムの外殻の採取と、体の中心にあるコアの色を見てくれって依頼だったな。まぁ身の危険を感じた場合にのみ、破壊も許可されているから身の心配はしなくても大丈夫だと思うけど」
そんな会話をしながら歩き、俺達は南西の遺跡へと辿り着いていた。
一見更地のようにしか見えないのだが、地面にぼっこりと穴が空いており、簡素な造りではあるが下へと続く階段がある。
「この下か。地下にあるってなんか嫌な感じだな」
「確かに……! 毒が溜まってそうだし、なんていうか逃げるのにも苦労しそうだよな!」
「ははっ。毒が溜まってたら、俺以外はみんな死ぬな」
「いやいや、笑いごとじゃねぇよ! ……本当に入って大丈夫だろうな!? スノーだけでも置いていくか?」
名前を呼ばれた瞬間に、ヘスターの鞄から頭を出したスノー。
首を傾げながら、名前を呼んだラルフを見ている。
「流石に毒はないだろうから大丈夫だろ。スノー一匹で置いていく方が怖い」
「確かに……それもそうか……」
先頭を歩くラルフはビクビクしながらだが、一緒に階段を下りていく。
階段を下り切った先は、重厚な扉があり――ここの扉の鍵は預かってきている。
「開けるぞ。危険だと思った瞬間、すぐに上へと退避しろ」
「分かりました!」
「了解」
警戒しつつ俺は扉の鍵を開錠し、重い扉を押し開けた。
中からは埃なのか砂なのか分からない粒子が舞い散り、ゲホゲホと咳が止まらなくなる。
……どうやら毒ではなさそうだが、この場所には随分と長い間、誰も訪れていなかったようだな。
「古代のもののイメージだったんだが、遺跡にしては比較的新しい部類に入りそうだな」
「ですね。ゴーレムを生成するために作られた場所ですかね?」
「そうっぽいな。とりあえず生物の気配はしないが……。奥になんかいるな」
何もない広々とした場所。
そしてその奥には、膝を抱えて座り込むようにしている物体が見えた。
大きさは五メートルほどで、座っているから正確には分からないが、人型のように見える。
……恐らく、あれがゴーレムだろう。
「あれがゴーレムか!? ちょっと大きすぎやしないか? う、動かないよな?」
「動く気配は見えないですね。魔物の核を中心に埋め込み、その核の力を生命エネルギーに変えて動くのがゴーレムです。百年以上は経っていますし、動くことはないと思いますが……」
そんな会話をしつつ、ゴーレムに近づいた瞬間――。
足元が怪しげが光り出し、ゴーレムを中心として紫色の魔法陣が浮かびあがった。
まずいと思い、退避を伝えようとする前に……ゴーレムは勢いよく立ち上がると、いきなり地面を思い切り叩いた。
次の瞬間には、後ろの扉はゆっくり閉ざされていき――この広々とした空間にゴーレムと俺達だけが取り残される。
体は岩に鉄を混ぜたような材質をしていて、ぶっとい腕の先には鋼で作られた鋭い手。
そんなゴッツい体をしているのにも関わらず、動きに重苦しさは感じない。
「こ、これかなりまずくないか!?」
「大丈夫だ。ゴーレムといっても、推奨討伐はゴールドランクのゴーレム。俺が壁役として立ちはだかるから、ラルフとヘスター、それからスノーで攻撃を加えていってくれ」
「す、スノー? スノーも攻撃参加させるのか?」
「ああ。俺が守るから心配いらない」
そう宣告してから、俺は【肉体向上】と【外皮強化】を発動させることに決めた。
打撃系の敵だしそこまでの機能しないだろうが、【外皮強化】は体力の消費も多くないため念のため。
スノーも攻撃参加させるのは、【肉体向上】お陰で守ることができると踏んでいるからだ。
それに……スノーは本当に強い。
防御力の高そうな相手には、スノーの属性攻撃はきっと刺さるはず。
「【肉体向上】【外皮強化】。できれば、動きを止めることに専念。手加減が無理だと判断したら、ぶっ壊していいからな」
それだけ指示を残してから、俺は一歩前へと出てゴーレムの前に立ちはだかる。
鉄の盾で攻撃を防ぎつつ、隙を見つけてはシールドバッシュでダメージを与えにも狙う。
こうして唐突にゴーレム戦が始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます