第131話 弟子入り
遺跡を後にしてオックスターの街へと戻ってきた俺達は、スノーを家に置いてから、今回の依頼主の下へとやってきていた。
何でも今回の依頼主は、三大都市の一つである『エデストル』から、ゴーレムの調査のためにやってきた人らしい。
ゴーレムのためだけにわざわざオックスターまで来る人だし、かなりの変人だと予想していたのだが……。
指定された喫茶店に着き、様子を伺ってみると、意外にも普通の老人が座っていた。
「お前が依頼主のフィリップか?」
俺がそう声を掛けると、目を見開いて驚いたような表情を見せた。
「お、おぬし……。ワシは仮にも依頼主じゃぞ? お、お前って随分雑な呼び方じゃな!?」
「すまないな。俺はいくら年上だろうが金持ちだろうが強かろうが、尊敬する人以外には敬語を使う気はない。敬う気持ちがないからな」
「こ、これは……とんでもない冒険者じゃな! 全く、普通の冒険者というのはおらんもんなのかね」
「御託はいいから、依頼の報告をさせてくれ。――ゴーレムの調査結果だが、地下の遺跡にちゃんと実在した。俺達が入った瞬間に襲ってきたから、ぶっ壊してしまったけどな」
「ぶ、ぶっ壊した!? …………むむ、まぁ襲われてたなら仕方ないかの。残骸の回収はしてきてくれたかの?」
「ああ。これがゴーレムの体の残骸と、原動力となっていたコアだ」
「お、おお! ――こんなに綺麗にコアを抜き取ってくれたのか! 壊したと聞いて落ち込んでいたけども、これだけ綺麗なコアが取れたなら大満足じゃわい!!」
手放しではしゃぎ始めた爺さん。
『七福屋』で魔導書を買った時に、店主のおじいさんが喜んでいたときも思ったが、老人が手放しに喜んでいるのを見るのは……なんというかいたたまれない気持ちになる。
「満足なら良かった。それじゃ依頼達成ということで、俺達は失礼させてもらう」
そう告げて、喫茶店を後にしようとしたのだが、テンションが高い爺さんは俺を呼びとめてきた。
まだ何かあるのかと思ったが、そういうことではないみたいだな。
「まてまて。非常にいい仕事をしてくれたからのう。追加報酬を渡そうと思うのじゃが、いらんかの?」
「別にいらな――」
「あのっ! おじいさんって魔法使いなんですか?」
提示されていた報酬で十分すぎるくらいだし、俺は断ろうとしたのだが……。
ヘスターが食い気味で話に割って入り、突然そんなことを聞いた。
「ん? もちろんそうじゃが、お嬢ちゃんも魔法使いなのかい?」
「はい! あの……私に魔法を指導して頂けませんか?」
「それは急なお願いじゃな。……うーむ、今回の追加報酬として魔法の指導ということなら――指導してもいいのかのう?」
顎に手を当て、そう言った爺さん。
ヘスターに魔法を教えてくれるなら、かなりありがたい。
「クリスさん! 追加報酬として、おじいさんから指導を受けてもいいですか?」
「ん? ああ。別に追加報酬を受け取る気がなかったから、爺さんがいいっていうならいいんじゃないのか?」
「ありがとうございます! おじいさん、ご指導よろしくお願いします!」
「おおう。ワシがこの街にいる短い期間だけじゃが、それでもいいというのなら指導してやろう! 久しぶりの弟子じゃから、上手く指導できるかは分からんがのう」
「必死に食らいつきますので大丈夫です! よろしくお願いします」
こうして何故か、ヘスターが変な爺さんに弟子入りした。
初代勇者の仲間がそうだったように、ゴーレムを造りだせるのは魔法使いのみだとヘスターが言っていたしな。
だから……依頼を受けた時から、指導をしてもらう算段をつけていたのだろう。
「ということは、しばらくは依頼はせずに魔法の特訓に明け暮れるってことか」
「すいませんが……そういうことなります。大丈夫でしょうか?」
「もちろん。俺も植物採取でよく勝手に抜けているし、強くなるためということじゃ止めるつもりはない」
「ありがとうございます!」
とは言ったものの、ラルフと二人で依頼となると色々と怖いものがある。
情報部分に関してはヘスターに任せきりな部分もあったし、スノーの持ち運びと出すタイミングもヘスター任せだったからな。
今日の戦闘を見る限り、過剰に保護して鞄に閉じ込めなくとも、スノーはもうゴールドぐらいの敵なら立ち回れそうな感じはあるけども。
……スノーもスノーで不思議なんだよな。
親を殺したのが俺達だからご存じの通り、スノーパンサーはシルバーランクの魔物。
まだ戦闘経験も浅く、体だって成長し切っていないのに、推奨討伐ランクがゴールドのゴーレムと張り合えていたからな。
謎に強いスノーについても今後は色々と調べていきつつ……。
とりあえずは今は、明日以降のヘスターがいなくなった時のことを考えなくてはならないな。
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