第91話 スノーパンサー
スノーパンサー探しが始まって約二時間。
未だにスノーパンサーとは出会えていないどころか、その痕跡すら見つかっていない。
「本当に全然いないな! 他の魔物ならちょろちょろいるんだけどよ!」
「ついでにはぐれ牛鳥でも探してみるか? レアルザッド近辺では岩場にいたし、山ならいるだろ」
「二人共、頑張ってスノーパンサーを探しましょう! 被害の起こったとされる場所に行ってみませんか?」
気配も感じないし、指定ありの依頼で魔物を探すのが馬鹿らしくなってきたのだが、ヘスターはまだ諦めていないようでそんな提案をしてきた。
確かに、被害を受けた場所の近辺に巣作りしているかもしれない。
山道から人の通れる公道へと戻り、公道に沿って歩いてみる。
確か……この辺りで被害が出ていたと思うんだが。
一度立ち止まり、キョロキョロと辺りの様子を伺っていると――。
「魔物の気配だ。あの斜面を凄い勢いで駆け下りてきている」
「本当かよ! オークの群れの時も思ったけど、なんでそんなことが見えるんだ?」
「いいから構えろ。スノーパンサーか分からないけど、強い魔物だぞ」
二人にそう伝え、近づいてくる魔物に備えて武器を構える。
それからすぐのこと、岩場の斜面を駆け下りてきた白い魔物の姿が視界に入ってきた。
――間違いないな。あれはスノーパンサーだ。
全長は二メートルほどで、真っ白な体毛に青い斑点模様がある。
動きも俊敏で身のこなしもよく、鋭い牙に鋭い爪。
ワイルドな見た目も相まって、なんというか見た目の良い魔物だな。
「今回は俺がタンク役を引き受ける。ラルフとヘスターは隙を見て攻撃を加えてくれ」
「ああ、頼んだ!」
「よろしくお願いします!」
短く指示を飛ばしてから、一歩前へと出て猛スピードで近づいてくるスノーパンサーの前に、俺は立ちはだかった。
タンク役といっても、ラルフのように敵の注意を惹き付けるスキルを持っていないため、自身の力で注意を惹き続けないといけない。
ひとまず、スノーパンサーがどう出てくるかを伺っていると……。
目の前に俺が立ち塞がっているのにも関わらず、一切減速することなく突っ込んできている。
俺に飛び掛かり、まずは爪で押さえてから、噛みつき攻撃で殺しにかかっている動きだが――。
そんな見え見えの攻撃を許すほど甘くはない。
俺は皮の盾を持った腕で、殴りつけるようにスノーパンサーの横っ面を叩き落とした。
ジャンプしたところを叩いたため、スノーパンサーは背中から地面へと叩き落され、何度か地面を跳ねるように転がったのだが……。
上手い具合に体勢を立て直すと、頭を下げる威嚇の構えを取り、激しく吠えてきた。
いきなり飛び掛かってきてくれたお陰で、偶然だがかなりのヘイトを買うことができた。
スノーパンサーは後ろのラルフとヘスターには目も暮れず、俺にだけ吠え続けている。
「ほら、かかってこいよ」
言葉が分かるとは思えないが一応口に出し、更に片手でくいくいと挑発してスノーパンサーを煽る。
俺にも【守護者の咆哮】があれば、こんなことをしなくてもいいのにな。
あからさまな挑発をしながらそんなことを考えていると、スノーパンサーを旋回しながら俺に近づいてきた。
「ラルフ、ヘスター頼んだぞ」
控えている二人にそう頼んでから、俺はスノーパンサーのみに視線を向ける。
動きは俺なんかよりも断然速い。
ただ、どれだけ動きが速かろうと、最終的な到着地点は俺への攻撃。
動きに惑わされず、ドッシリと構えたまま、俺は旋回するスノーパンサーの正面を取り続ける。
フェイントを入れられても釣られず、甘い誘いにも決して乗らない。
俺が倒してやるという考えは一切捨てて、ただひたすらに構えていると――先に痺れを切らしたのはスノーパンサーだった。
離れた位置から空を斬るように爪で斬り裂くと、ヘスターの【ウィンドアロー】に似た風の攻撃が飛んできた。
これがスノーパンサーの属性攻撃。
皮の盾では防ぎ切れないと判断した俺は回避へと移行し、ヘスターの射線から外れるようにステップを踏んで避けた。
「【ファイアアロー】」
俺が射線から外れた隙を狙い、ずっと好機を伺っていたヘスターがすかさず【ファイアアロー】を放つ。
昨日、オーク戦で使っていた【ファイアアロー】の倍ほどの火力が出ていたが――面食らって立ち止まっていたスノーパンサーに当たることはなく、綺麗に真横を通りすぎて行った。
「す、すいま――」
「謝罪はいらないぞ」
謝ろうとしたヘスターにそう声を飛ばし、俺は次の魔法を促す。
チャレンジに失敗はつきもの。
失敗を怖がってしまったら、成長は止まってしまう。
俺はヘスターを一切責めずに、再びスノーパンサーの前に立ちはだかった。
今度はすぐに攻撃へと移行はせず、じっくりと観察するように俺との距離をゆっくり詰めてくる。
スノーパンサーの狙いは、まだ俺へと向いている。
後ろに控えているラルフに合図を送り、頃合いを見て攻撃を仕掛けるように促した。
その直後、スノーパンサーのこうしに力が入ったのが分かり、俺は盾を突き出しながら鋼の剣にも手をかける。
その俺の動きに連動するように、スノーパンサーは大口を開き、覗かせていた鋭く伸びた牙に氷が纏わりついていった。
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