第90話 シルバーランクの依頼


 候補は昨日と同じで三つ。

 俺は余計なことを考えず、一番最初に目に付いた依頼を手に取った。


「クリスさん、どの依頼にしたんですか?」

「スノーパンサーだな。一番最初に目に付いたのにすると言ったが……正直、一番受けたくない依頼だ」

「おお! スノーパンサーじゃん! 俺はこの依頼が一番良いと思ってたぜ!」

「クリスさん、どうします? 変えますか?」

「……いや。決めたことだし、この依頼で行こう。三人で挑む訳だし、昨日はオークの群れの討伐をしたんだ。流石にやられることはないだろ」


 そうは言ったものの、かなり不安のある魔物ではある。

 オークのような人型ではない魔物で、スピードも力も優秀な属性も兼ね備えている――シルバーランクの中でも最上位に位置する魔物。


 報酬金額も、指定あり且つ一体のみの討伐で、金貨二枚とゴールドランクと遜色のない値段。

 三人で分けても、銀貨六枚と銅貨六枚だし悪くない報酬に収まる。


「なぁそんなに強いのか? スノーパンサーって」

「詳しい情報については歩きながら話す。とりあえず受付で依頼の受注をしてこよう」



 こうして依頼の受注をしてもらったあと、指定の場所である西の山を目指す。

 西の山は、昨日討伐したオークの群れが住んでいたとされる山で、昨日と同じくインデラ湿原を目指して歩を進めた。


「ほへー。オークより全然強そうな魔物じゃん」

「通常種と比べたら、圧倒的にスノーパンサーの方が強い。人型じゃないから、ラルフに壁役を任すのも怖いしな」

「いやいや全然いけるって! ……って言いたいところだけど、今回はってか――しばらく壁役をやらなくてもいいか?」

「急にどうした?」

「昨日、クリスが帰ってこなかったから、俺とヘスターで反省会をやったんだよ。その時にお互いの弱点をあげて、しばらくはタンクをやらないことにした」


 唐突にそんなことを言い出したラルフ。

 能力値から見ても分かる通り、【聖騎士】の能力はタンクとして魔物を引き付けてこそ、一番の真価が発揮される。


 昨日のオークの群れとの戦いでも、攻撃よりも敵を引き付けていた時が一番輝いていたし、一般的な意見を言わせてもらうとタンクに専念した方が良いと俺は思う。

 ……ただ、ラルフが目指しているのは、【剣神】をも超える世界最強の冒険者。

 だとするならば、この判断は決して悪くないと俺は思った。


「なるほどな。まぁ、いいんじゃないか? ラルフの弱点は明らかに攻撃面だからな。守りだけじゃなく、全てにおいて上を目指したいんだろ?」

「ああ。全てにおいて、俺は一番になりたい!」

「ふっ、ラルフらしいな」

「あの、実は私も考えていたのがありまして……。命中率を捨てたいと思ってます」

「命中率を……?」

「はい。昨日のオークとの戦闘で一番引っかかったのは、ラルフと同じく攻撃力の弱さ――魔法の威力が弱いことです。練習ではもっと魔力を込めて、威力の高い魔法を放てるんですが、命中が不安定になってしまうんです。だから、本番から威力の高い魔法を意識していこうと思ってまして……。ラルフさんはどう思いますか?」


 ……これら難しい質問だな。

 正直、昨日のままでも十分すぎたし、ヘスターが扱える魔法はまだ初級の魔法のみ。

 

 これが上級魔法を扱えるようになれば、魔法の威力は自然と上がっていくだろうから、命中重視でいいのではとも思ってしまう。

 ――ただ、俺は魔法については何も分からないからな。

 未だに自分の魔力を感知できていないし、こっちも本人に任せるのが一番だろう。


「別に俺は構わないぞ。魔法に関してはズブの素人だから意見できないが、俺も好き勝手やらせてもらってるからな。各々、それが良いと思ったなら試してみればいい。ただ、一度決めたならこだわり通してくれ。中途半端が一番駄目だ」

「ありがとうございます! 今回からは味方への誤射だけを気を付け、威力を高めた魔法を使っていきたいと思います」


 それからも二人の相談を受けつつ、インデラ湿原を抜けた俺達は、目的地である北の山へと到着した。

 かなり標高の高い山で、上の方は王国では珍しい雪が積もっている。


 今回の討伐対象であるスノーパンサーの生息地域は、あの雪の積もっている山の頂上付近とされているのだが……。

 どうやら山から下りて公道で人を襲っているスノーパンサーが目撃されているようだ。


 そして今回の依頼は、その山から下りてきたスノーパンサーの討伐。

 麓を練り歩き、スノーパンサーが現れたら狩るという方針の下、スノーパンサー探しが始まった。

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