第89話 緊急依頼の報酬
翌日。
眠い目を擦りながら、無理やり目を覚ます。
昨日は結局、夜の森で魔物に襲われまくったということもあり、『木峯楼』に戻ってこれたのは夜中だった。
そのせいで、シャワーを浴びて即行で眠らなきゃいけなかったため、寝足らないし腹が減りまくっている。
昨日食べたのは、ヘスター特製の朝食とリザーフの実。
昼以降はほとんど何も食べておらず、唯一食べたのは帰りに一つだけもぎ取ってきたオンガニールの実だけ。
消費カロリーと摂取カロリーの釣り合いが取れなさ過ぎていたため、ぐぅーと情けない音が腹から鳴った。
「クリスさん、おはようございます! 朝食できてますよ」
「……ありがとう。滅茶苦茶腹減ってるから助かる」
俺よりも早く起きていたヘスターが朝食を作ってくれていたみたいで、その飯をありがたく頂くことにした。
トーストと目玉焼きとソーセージ。
それからリザーフの実と、いつもの朝食セットなのだが――数段美味しく感じる。
やはり空腹は最高の調味料だな。
「クリス、昨日はどうだったんだ? 収穫はあったのか?」
「ん? だから、昨日は植物を採りに行ったわけじゃないっての。オークジェネラルの死体を置きに行っただけだ」
「本当に、死体を置きにわざわざ森まで行ったのか?」
「昨日もそう言っただろ。試したいことがあったんだよ。……とりあえず朝食を堪能させてくれ」
話しかけてきたラルフにそう伝え、俺はゆっくりと朝食を堪能した。
それから準備を整えて、早速冒険者ギルドへと向かう。
今日の予定は、まず昨日の緊急依頼の報酬を受け取ってから、シルバーランクの依頼を受ける。
緊急依頼で行えなかった依頼を、今日やる予定だ。
それから依頼を達成した後は、『旅猫屋』に行ってシャンテルに二人を紹介しつつ、ジンピーのポーションの制作状況を尋ねに向かう。
……ジンピーがどんな効能を持っているのか、非常に楽しみだ。
美味しい朝食のお陰で機嫌の良い俺は、ラルフとヘスターと一緒にルンルン気分で冒険者ギルドへとやってきた。
まずは冒険者ギルド内を見渡し、グリースがいないことを確認してから、相談用の受付へと一直線で向かう。
はたして昨日の報酬はいくらだったのか。
ギルド長の手によって、減らされてなければいいんだがな。
「いらっしゃいませ。こちらは相談用の受付となりますが、よろしかったでしょうか?」
「ああ。昨日、緊急依頼を受けたクリスだが、報酬を貰いにきた」
「クリス様ですね。……少々お待ち頂けますでしょうか?」
「ああ」
短くそう返事をすると、バックヤードへと消えて行った受付嬢。
それから間もなくして、奥の部屋から出てきたのは副ギルド長だった。
「クリスさん、どうも昨日ぶりです」
「どうしたんだ? 副ギルド長がわざわざ出てきて」
「報酬に関しまして、私がキッチリと説明した方が良いかと思ったので、受付嬢には事前に伝えておいたのです」
「そうか。それは助かる」
「早速、依頼報酬の方なのですが……。こちらになります」
そういって目の前に出されたのは、白金貨二枚に金貨五枚だった。
予想の倍以上の報酬に正直驚きを隠せない。
もしかして、迷惑料とかも含まれていたりするのか?
「こんなに貰っていいのか?」
「もちろんです。三人合計でこの額ですから、あまり多いとは言えないと思いますが……。今ギルドで出せる精いっぱいの額です」
十分すぎるほどに多いのだが、副ギルド長は少し申し訳なさそうにしている
「いや、予想していたよりも多かったぐらいだ。助かる」
「本当ですか……? オークジェネラル単体の討伐でも、報酬として金貨三枚は出ます。通常種オークは銀貨五枚、オークソルジャーは銀貨六枚。オークナイトは金貨一枚ですから――倒して頂いた単純な合計だけで、約金貨十三枚相当です。それが群れを成して来たのを緊急で討伐して頂いたのですから……。ギルド側の私が申し上げ難いのですが、決して多くはない額だと思います」
赤裸々に金額についての解説をしてくれた副ギルド長。
確かに詳細について説明されると、多くはない金額なのではとも思ってしまうが、プラスで金貨十二枚上乗せしてくれたのなら一切の文句はない。
三人で分けたとしても、一人約金貨八枚の稼ぎ。
ヘスターに多めに配分したとしても、十分すぎる額だ。
「もしかしたらそうなのかもしれないが、俺は十分に満足している額だ。丁寧な説明ありがとう」
「…………そう言って頂けると本当にありがたいです。依頼を受けてくださったのがクリスさんで良かったです」
「こういう場であまりそういうことは言わなくていい。聞かれたらまた大変なことになるぞ」
ポロッと漏れた一言だろうが、グリースに聞かれたら確実に暴れるであろう案件だ。
「……確かにそうですね。ご忠告ありがとうございます。また何かありましたら、是非お力をお貸し頂ければ幸いです」
「ああ。俺達にできることで、ちゃんとした誠意を見せてくれるなら喜んで手を貸す」
「ありがとうございます。それでは私はこれで失礼致します」
副ギルド長は深々と頭を下げると、バックヤードへと消えて行った。
そして――消えたと同時に、後ろで会話を聞いていたラルフが身を乗り出して大喜びし始めた。
「うっしゃー! すげぇぞ! 白金貨二枚と金貨五枚だとよ!! 今日はパーティー……いや、大パーティだろ!」
「落ち着けラルフ。とりあえず金の話は、今日の依頼を終えてからにしよう」
「ですね。昨日は緊急依頼で頓挫してしまいましたので、今日が初依頼の気持ちでシルバーランクの依頼を選びましょう!」
「二人共、冷静すぎるだろ! 白金貨が報酬で手に入ったんだぞ……? 俺がおかしいのか?」
困惑しているラルフを他所に、早速依頼掲示板に依頼を見に行くことにした。
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