第78話 休日
翌日。
昨日は無事に、ブロンズランクの指定あり依頼を達成することができ、銀貨五枚を稼ぐことができた。
そして、朝の一件以降は特に絡まれることもなく、何事もないまま翌日を迎えることができている。
「今日はクリス、休日にするんだっけか?」
「ああ、溜まってる植物の整理と識別を行うからな。二人は今日も依頼を受けに行くのか?」
「当たり前! 早くシルバーに上がらないといけないし、クリスがこうしてるから俺とヘスターで金を稼がないといけないからな!」
「それは助かる。頑張ってシルバー昇格してくれ」
「おうよ!」
ラルフとヘスターを送りだしてから、今日俺はまず何をするかを考える。
やらなければいけないことは複数あって――能力判別、植物の識別、オンガニールの実の効能を調べる、ジンピーの食べ方を調べる、そして能力を上昇させる効能を持つ植物の大量摂取。
これを一日で行わなくてはいけないため、効率の良くこなしていかないといけない。
……ただ、まずは何といっても、能力判別から行うのが正解か。
一応、今回カーライルの森で採取した二十の新種の植物は、一週間の滞在期間に全て摂取済み。
リザーフの実やゲンペイ茸、レイゼン草も摂取してしまっているため、体力、筋力、耐久力の上昇効果がある場合は分からないのだが、魔力、敏捷力を上昇させる植物があれば一発で分かる。
魔力、敏捷性が上がっていたらそのまま新種の植物の識別に入り、上がっていなかったら……とりあえず今日は識別しなくていいと思う。
体力、筋力、耐久力を上げる別の有毒植物はもちろん欲しいが、既に発見済みでカーライルの森にも自生していることから、優先度自体は決して高くないからな。
金銭面の問題もあるし、金と時間に余裕が生まれるまでは識別は後回しでいいと思っている。
軽い一日の流れを決めたところで、俺は早速教会へと向かった。
冒険者ギルド等が立ち並ぶギルド通りを抜けた先、小さな池に一本のオリーブの木の横に佇む少し古臭さのある教会。
レアルザッドの神々しい教会とは別物のように感じるが、こういう温かみのある教会も悪くない。
……一つだけ気掛かりなのは、この教会で能力判別をやってもらえるかどうか。
あの豪華な教会だったから能力判別を行えたのであって、オックスターの教会では行えない可能性もあるからな。
そうだったとしたら、移住を真剣に考えるしかない。
グリースや腐った冒険者ギルドの存在もあるから――などと、自分を納得させる言い訳を考えつつ、俺は教会の扉を押し開いた。
内装も外観同様に庶民的な感じ。
多くの人が訪れていて、座る場所も大量にあったレアルザッドのとは違い、小さめの木の長椅子が左右に三つずつ置かれているだけ。
そして信者は一人もおらず、親父と同じくらいの年の――幸が薄そうな神父が講壇に立っているだけだ。
……街によって、教会の扱いも大分違うんだな。
まぁ確かに、あの神々しい教会なら神の恩恵を得られそうだけど、ここでは少し難しいと思ってしまう。
俺はここの教会の方が、人がいないし好きだけどな。
「おや、何かご用事でしょうか?」
「能力判別を行ってもらいたいんだが、ここの教会は行えるのか?」
「――能力判別ですか! これはまた珍しいですね。もう数年はやっていないですが、大丈夫だと思いますよ」
うーん。少し心配だが、やってくれるということなら良かった。
俺は神父に案内されるがまま、奥の部屋へと通された。
やはり、能力判別は別室で行うのが通例なんだな。
「それでは能力判別代として、金貨一枚のお布施をお願い致します」
「ああ。金貨一枚と冒険者カードだ」
「はい、確認致しました。それでは能力判別に移りたいと思います」
神父がそう宣言すると、水晶に手をかざして唸り始めた。
レアルザッドの神父はあっという間に終わらせていたが、神父のこの様子を見る限り……もしかしたら能力判別は相当な重労働なのかもしれない。
あの顔立ちの良い神父は、かなり有能な人だった説があるな。
「はぁー、はぁー……。お、終わりました。ご確認ください」
「ありがとう。助かった」
俺は受け取った瞬間に冒険者カードを確認し、能力値に変化がなされているかを見る。
……この様子だから少し心配だったが、どうやら能力判別はしっかり行えているようだ。
そして――。
―――――――――――――――
【クリス】
適正職業:農民
体力 :14(+49)
筋力 :9 (+36)
耐久力 :9 (+44)
魔法力 :2 (+2)
敏捷性 :7
【特殊スキル】
『毒無効』
【通常スキル】
なし
―――――――――――――――
新種の有毒植物の中に、魔法力を上げる効能を持つ有毒植物が混じっていたようだ。
俺としては、先に敏捷性が上がる植物を採取したかったが、こればかりは贅沢をいっていられない。
魔法力を上げる植物が見つかったことを素直に喜んでおこう。
それと……レアルザッドを発ってからの二週間で、俺の基礎能力が全能力1ずつ上がっていた。
微々たるものではあるが、やはり自分自身の成長があると嬉しいものだな。
カーライルの森で、ゴブリンの群れを倒したのが大きかったのかもしれない。
「……ふぅー。ど、どうでしたか? 反映はされていたでしょうか?」
「ああ、しっかりと反映されていた。今日はあと数回くる予定だから、能力判別よろしく頼む」
「えっ!? あと数回ですか!! そ、そんなに能力判別をするんでしょうか!」
「そのつもりだったが、まさか無理なのか?」
「……ぅん、いえ。やります。やらせてください」
「ああ。それじゃまた後で頼む」
覚悟を決めたような顔つきに変わった神父。
もしかしたら、本来一日に数回も行うのは厳しいのかもしれない。
この教会は見るからにあの神父しかいないだろうし、もしかして重労働を強いてしまったか?
……まぁでも、あの顔は金が手に入るからやるって顔つきだったし、こちらもそれ相応の対価を払っているから、向こうが拒否しない限りは気にしなくていいか。
とりあえず魔力が上昇する植物が手に入ったことで、これからの動きは植物識別を行うことに決まった。
一度宿屋に戻り、採取した半分の植物を摂取してから、また能力判別を行いに教会へ戻ってこよう。
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