第76話 神をも超える力


「クリスが強くなるって言い切るってことは相当だな。それでよ、その超危険な植物の実ってどんな植物なんだ? レアルザッドで採っていたものとは桁が違うんだろ?」

「レアルザッドで採っていた植物も、常人が食したら数十分――下手したら即死レベルの強い毒を持っているんだが、カーライルの森で見つけて来たのは別次元だな」

「……ちょっと理解が及ばないですね。即死以上に強い毒ってあるんでしょうか?」

「今回の植物は、近づいただけで死ぬと言われている植物だ」

「ちょっと、お前……。なんてものを持ち込んでるんだよ!」

「袋に入れて密封しているから大丈夫だ。……多分な」


 絶対とはいえないけど、流石に厳重に縛ってあれば大丈夫なはず。

 それにオンガニールの実自体には、近づいても大丈夫だと勝手に思っている。


 俺の見立てでは、オンガニールの花が毒を持つ種を振りまいており、その種を吸った時点で死んでしまう。

 構造的には、タンポポの綿毛と同じようなものだと推測した。

 そして毒の種を吸い込んで死んだ生物の心臓に作付し、死体の血肉を吸い上げて育つという構造だと推測している。

 

「これで死んじゃったら洒落にならないからな。十分に気をつけて取り扱いしてくれよ!」

「分かってる。この植物に関しては人のいない屋外でしか触らない」

「それで、その超強力な有毒植物ってどんな効能を持っているんですか?」

「まだ分からない。これから調べる予定って感じだな。……ただ、とある情報によれば、スキルを身に付けることができるかもしれないって話もある」


 俺がそう告げると、驚いたのか勢いよく立ち上がったラルフ。

 ヘスターも珍しく目をまん丸にさせた。


「はぁ!? す、スキルが身に付く? そんなことがあり得るのかよ!」

「俺も半信半疑だが、情報によればその可能性があるらしい。調べてみないと分からないな」

「スキルって『天恵の儀』以外で身に付くんですね! ……私、ずっと思っていたんですけど、クリスさんのスキルって神をも上回る力なんじゃないでしょうか?」

「俺も今まさに同じことを思った。だって、おかしいだろ。身体能力の底上げに加えて、スキルまで身に着けることができるんだぜ!?」


 ラルフとヘスターはこんなことを言っているが、俺は自分自身のスキルが神をも超える力だとは到底思えない。

 実際に凄いのは俺ではなく、一切の身動きが取れない中、無数にいる外敵から身を守るために進化し続けた植物だ。


 その進化の結晶が『毒』を保有するということであり、その『毒』を保有するためのエネルギーは凄まじいものがある。

 俺はその進化に進化を重ねた植物を食せる能力を持っているだけで、力を横取りしていると考えるのが一番しっくりくる。


 だから、もし仮に神を超えた力があるのだとしたら……それはこの大地であり、広大な大地で生き延びるために進化した植物だ。

 本来ならば、力の横取りなんて外道行為は許されないんだろうが、俺は復讐を果たすという目的のためなら手段を厭うつもりはない。


「スキルに関してはまだ本当かどうか分からない。ただ一つ言えることは、そんな大それたものじゃない。俺はな」


 その一言で場は静まり返り、三人共に色々なことを考え始めたのが分かった。

 ……話がぶっ飛び過ぎて変な空気になってしまったが、俺はまだ訪ねたいことがあったのを思い出し、空気を変えるという意味でもヘスターに話を振る。


「最後にヘスターに質問があるんだけどいいか?」

「私に質問ですか? 答えられることなら答えますよ!」

「この植物を食べたいと思っているんだが、何か良い方法を知っていたりしないか? ……あっ、絶対に触るなよ。これももちろん毒草だからな」


 俺は鞄からジンピーの葉を取り出し、ヘスターに見せた。

 

「うわっ、凄い棘のついた植物ですね。……もしかしてクリスさんは、これを食べようとしているんですか?」

「棘が刺さらずに食べられるのなら、食べたいとは思っている」

「うーん。棘を一本一本抜くか、すり潰すくらいしか方法が思いつかないんですが、この棘はすり潰せないですよね?」

「そうだな。すり潰すのは試したが無理だった」

「……なぁ、火をつけて吸うってのは駄目なのか? ほら、煙草って中身は草だろ?」


 ………………。

 これは盲点だったし、この意見がラルフから出たことに俺は驚きを隠せない。

 毒草の煙での周りへの被害を考えると試すことはできないが、まさかラルフから良い発想が出るとはな。

 

「流石に有毒植物を燃やした時の被害を考えると試せないが、人里離れた場所で試すのはいいかもしれない。ラルフから出たとは思えない良いアイデアだ」

「なんだそれ! 俺だって色々考えてるっての」

「煙も駄目となると、やっぱり摂取は難しいんじゃないでしょうか? ……それか、知り合ったと言っていた錬金術師さんにポーションにしてもらうのは如何ですか?」

「ポーションか。えぐみや苦味が凄まじいことになりそうだが、それが一番現実的だな。ヘスター、ありがとう。近々頼んでみるとする」


 やはりシャンテルにお願いするのが、一番無難な解決策か。

 処理も面倒くさいし、やっぱり捨てておけばよかったと後悔しつつあるが……。

 ここまできたら、効能を調べたい欲に駆られる。

 

 とりあえずジンピーの処理方法の話で、近況報告会はお開きとなった。

 明日は、オックスターで初めての依頼を受ける日。

 前回の二の舞を演じないよう、グリースには十分に気をつけて冒険者ギルドに向かおうと思う。


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