第59話 豪華な朝食

 

 翌日。

 昨日は手術があったため食べれなかったが、今日は『ギラーヴァルホテル』のサービスの朝食を頂くことができる。

 昨日の夜も質素な食事だったため、出てくる朝食がどんなものか非常に楽しみだ。


「うへー。早く飯来ないかなぁ!」

「ラルフ、体調はもう大丈夫なのか?」

「戻ってきてからぐっすり寝れたし、もういつも通りだ。足は変な感じするけど、痛みはねぇしな!」

「それなら良かった。明後日の抜糸後には無事に戻ることができそうだな」

「クリスは今日の夜には帰るんだっけ? 昨日、調べた情報ってそんなにまずかったのか」

「まさかクラウスが未だに血眼になって、俺を探しているとは思っていなかったからな。俺のことなんて既に眼中になく、一方的に情報を探るつもりだったのに……向こうのが必死になって探しているんだから。逃げないと本気で殺される」


 悩みに悩んだ末、ラルフの治療を最後まで見届ける前に、俺は一足先にレアルザッドへと帰ることとした。

 昨日話していた情報の真偽は分からないけど、本当だった場合は本気で殺される可能性がある。


 目立つ前に王都を発った方が良いと判断した俺は、日が落ちるまではここに滞在し、暗くなって視界が悪くなってからレアルザッドへ戻ることに決めた。

 俺と一緒にいたヘスターにも辿り着く可能性を考えると、二人を置いて帰るのは多少怖いが……クラウスの狙いが俺一人な以上これが一番良い選択だと思う。


「嘘みたいな話だと思っていたけど、全部事実だったのが驚きだわ。クリスの弟は本当に次期勇者候補だったんだな」

「俺からしてみれば、二人の過去の方が嘘みたいな話だけどな」

「――あっ! 来ましたよ! 朝食です!」


 部屋がノックされたことで、俺達の話をぶった切ったヘスターが、慌てて扉の方へと向かっていった。

 扉を開けると、サービスワゴンを押したウェイターが中へと入ってきた。


「おまたせいたしました。こちらが本日の朝食となります。……ごゆっくりとお召し上がりください」


 手慣れた手つきで優雅にテーブルの上に朝食を並べて終えると、ウェイターは深々と頭を下げてから部屋から出て行った。

 テーブルに並べられた朝食はこれまで見たことがないほど豪華で、金貨一枚の中に含まれていると考えたら、ここの宿屋は本当に高コスパかもしれない。


「すげぇな! これ全部食っていいのか?」

「そりゃ運ばれたんだし、全部食っていいんだろ」

「お金持ちの人って、毎日こんな朝食を食べているんですかね?」

「なんとも言えないが、その可能性も十分あり得るな。とりあえず食おうぜ」


 手を合わせ、食前の挨拶を済ませてから、テーブルに置かれた料理を食べていく。

 朝食のメニューは、主食がナッツの乗ったクロワッサンとふわふわのパンケーキ。

 パンケーキには、バターとジャムと蜂蜜が付けられていて、好きなものをかけて食べることができるようだ。


 更には、ハーブの混じったソーセージにスクランブルエッグ。

 数種類のフルーツに、美味しそうなドレッシングのかかった生野菜。

 トマトのスープに、ヨーグルトまでついていて本当に完璧な朝食って感じだ。


 俺は一番最初にパンケーキを手に取った。

 ふわっふわのパンケーキに切り込みを入れ、その上からバターと蜂蜜をかけて中までしっかりと染み込ませる。

 蜂蜜が完全に染み込んだのを確認してから、俺は口いっぱいにパンケーキを詰め込んだ。


 ――美味すぎる。甘さと美味しさで、脳が溶けるような感覚に陥るな。

 パンケーキ自体も美味しいが、蜂蜜がとにかく美味しい。

 バターとマッチし、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。


「――本当に美味しいですね。私、幸せです」

「こんな美味しい料理、パーティ結成の宴会の時以来だ! あの時も美味しかったけど、出来立てだからより美味しく感じるぜ」

「……だな。会話なんてせずに味わいたくなるほど美味しい」


 各々、料理の感想を述べながら朝食を次々と食べていく。

 これだけの部屋に泊まれて、この朝食がついていて金貨一枚だ。


 確かに高いが、やっぱり能力判別のあの作業だけで金貨一枚だと思うと、かなり安く感じてしまう。

 というか、能力判別が高すぎるのか。

 そりゃ神父も、短期間にあれだけ多く訪れてきたら驚く訳だ。


 『ギラーヴァルホテル』の質の高いサービスを受け、自分の価値観が少し変わった気がした。

 ……まぁだからといって、能力判別をやめるという選択肢は取れないんだけどな。

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