第58話 クラウスの情報

 

「クラウスという人物について、何か知っていることがあれば教えて欲しい」

「……あら。良い男ね。あなたはどちら様?」

「クリスという者だ。このヘスターと一緒にパーティを組んでいる」

「クリス――ね。覚えたわ。……それで、なんだったかしら。あー、クラウスについて知っている情報を教えてくれ――だったかしら?」

「ああ、そうだ」

「クラウスってあのクラウスのことよね? もちろん知っているわ。ただ、この情報は高くつくけどいいかしら?」


 高くつくと言ってから、煙草に火をつけて吸い始めた情報屋。

 次期勇者候補の情報なんて、将来知れ渡るだろうし大したことないと思っていたが、何か危険な情報でも持っているのか?

 なんにせよ、クラウスの情報を集めるのに金を厭うつもりはない。

 

「大丈夫だ。金なら払える」

「それなら教えるわ。……クラウスは『天恵の儀』で『剣神』を授かった、次期勇者候補として王からも期待されている人材よ。半年前に故郷を出て王都へと移り住み、今は有望な人材のみが集まる国立の育成学校で学んでいる最中ね」

「それで?」


 続きを促すと、人差し指と親指を擦り合わせ、ここから先は金がかかるということをアピールしてきた情報屋。

 俺は鞄から金貨を一枚取り出し、指で弾いて渡した。


「あら、ありがとう。……どうやら今年は豊作のようでね、『賢者』に『操死霊術師』、『聖竜騎士』や『拳帝』なんてのも勢ぞろい。更には、『天恵の儀』受ける前からロイヤルガードとして活躍していた『聖戦士』に、王の娘である『戦姫』までいるわ。そんな中で一番の評価を受けているのが――そう。クリス君が情報を欲しいといった『剣神』のクラウスって訳ね」


 とんでもない化け物揃いの中、現状一番の位置にいるのがクラウスって訳か。

 とりあえず落ちぶれていないことが分かって、俺としては一安心だな。


「近々、実際のダンジョンに潜ることが予定されているみたいで、今あげた七人は一体どんな組み合わせでパーティを組むのか。それが今一番噂になっている話題よ。ちなみにだけど、選択権は全てクラウスにあるみたいね」

「そうか。詳しい情報ありがとう。助かった」


 予想していたよりも、濃い内容の情報を得られることができた。

 殺されかけて逃げ出してからのこの半年以上の期間、俺は順調そのもので来ていると思っていたが、俺と同じ……いや俺以上にクラウスの方が順調に来ているのかもしれない。


「……え? 情報ってこれだけいいの?」

「――まだ何かあるのか?」

「まだ何かあるのかって……ねぇ。本当の危険な情報なんてここからよ?」

「あるなら教えてくれ!」


 その言葉に対し、俺はテーブルに乗り出すように情報屋の男に詰め寄る。

 ここまでの情報だけで十二分に満足していたが、まさかここからの情報があるとは……。

 王都に来てからの半年間で、クラウスは一体何をやったんだ?


「もうがっつかないの。そんなんじゃモテないわよ?」

「いいから早く教えろ」

「分かったわよ。……そんな次期勇者として期待されているクラウスだけど、黒い噂もいくつかあるのよ。王都の犯罪のほとんどを取り仕切ってる裏組織の『ザマギニクス』に金を渡しているって噂だったり、冒険者を除名された奴らが集まるアングラ集団『アンダーアイ』と繋がってるって噂だったりね」

「クラウスはなんでそんなことを? 表舞台にいる奴が、そんなリスクを取るメリットがないだろ」

「そこまでは残念ながら情報が入っていないわ。そもそもこれも噂の段階だからね。クラウスを疎んでいる奴が適当に流した噂の可能性もあるわ」

「今のところは半々って訳なのか」

「私は本当だと思ってるけどね。何を考えているか分からないけど、本当の“勇者”となるには裏組織も牛耳ってこそと考えているのかもしれないし……。あとね、誰かを探すために裏組織と繋がりを持ったって噂も流れているわね」


 情報屋が最後に付け足したその情報に、俺の心臓が大きく跳ねた。

 クラウスの奴、まさか俺のことをまだ探しているのか?


 実力で叩き出された上に、俺が消息不明となってからはかなりの時も流れた。

 『農民』に加えてハズレスキルを授かった俺の事など、もう眼中にすらないと思っていたが……。

 あの異様な俺への憎しみっぷりを思い返すと、ありえない話ではないと思ってしまう。


「……とまぁ、私が知っている情報はこんなもんね。――どう? 中々にエグい次期勇者様でしょ。私も一人の人間として、今後どうなるのかワクワクしているのよ」

「――確かにそうかもしれないな。とりあえず情報ありがとう。これは追加の情報分だ」


 俺は金貨を更にもう一枚取り出し、爪で弾いて情報屋に投げ渡した。


「あら、こんなにくれるの? 金貨一枚で十分だったんだけど」

「良い情報を貰ったからな。機会があればまた頼む」

「現状では確実じゃない情報だから気をつけてね。私も気になるしクラウスについては調べさせてもらうわ」


 情報屋はこう言っているが、クラウスは十中八九裏組織と繋がっている。

 ――そして、逃走した俺を追っている可能性が非常に高い。


 前回、警戒して王都に来なかったのは正解だったし、今回も早々に王都を発たないと見つかる可能性が出てきた。

 ……というよりも、闇市場に出入りした上にここも利用してしまったため、数日後にはクラウスの耳に入る可能性まで考えられる。


 クラウスについての情報集めはこれで打ち切り、俺は早々に一人で王都を離れた方がいいかもしれない。

 そんなことを考えつつ、ヘスターと共にバーを後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る