第43話 二度の奇行


 武器屋を出る前はまだ朝だったのだが、既に日は天辺にまで昇ってしまっているため、俺は急いで教会へと向かう。

 せめて新種の半分の効能は識別したい――そんな思いから駆け込む形で教会へと入ると、すぐに右奥の能力判別の部屋へと入った。


「こんにちは。今日も能力判別でしょうか?」

「ああ。この後もう一度来るが、何も聞かずに早急に能力判別を頼む」

「この後もう一度……ですか? はい、分かりました」


 最近は頻繁に来る俺にも慣れた様子の神父だったが、流石に時間を空けずの能力判別のお願いに疑問の色を浮かべた。

 説明する気は更々ないため、神父の表情は気にせずに金貨と冒険者カードを手渡して俺は静かに待つ。


「確かに金貨一枚頂きました。少々お待ちくださいね。――終わりました」

「ありがとう、助かった。それじゃ後でまた頼む」


 それだけ言い残し、俺は早急に教会を立ち去った。

 座ってゆっくりと能力を確認したいところだが、今は時間がないため移動しながら確認する。


―――――――――――――――


【クリス】

適正職業:農民

体力  :12(+21)

筋力  :7 (+8)

耐久力 :7 (+18)

魔法力 :1

敏捷性 :5


【特殊スキル】

『毒無効』


【通常スキル】

なし


―――――――――――――――



 おお。

 俺が思っていた以上に能力が上昇しているな。

 

 はぐれ牛鳥に道中のゴブリンも結構な数を狩っていたのに、相も変わらず俺自身の成長は全くしていないけどな。

 ……ただ、そんなことすらどうでもよくなるほどに、プラス値による能力上昇幅が大きい。


 一ヶ月で、しかも片手間でこの上昇量なら期待してもいいはずだ。

 金をかけて識別し、狙うべき有毒植物を絞ったその成果が出た。


 もちろん、この上昇幅のまま強化されていくとは思っていないが、クラウスを超える道筋が明確に見えただけでもやる気が違う。

 今ある金を全て使って森に籠りたい気持ちを抑えつつ、俺は急いで『シャングリラホテル』へと戻った。



 俺は部屋に着くなり、無人の部屋で片手間に魔導書を読みながら、未識別の植物をオブラートに包んでは飲み込んでいく。

 水で無味無臭の固形物を流し込むだけなのに、お腹がいっぱいになる――。

 俺の唯一の楽しみが食事ということもあり、苦痛でしかない作業なのだが強くなるためだったら受け入れるしかない。


 二十種類の未識別を全てお腹に入れてから、俺はヘスターが帰ってくる前に早足で教会へと戻った。

 能力判別から能力判別の間の時間は、約二時間。

 

 この短期間で同じ作業を行ってもらうのに金貨二枚を使うのだから、俺ですらおかしいと思う。

 何も知らない神父は相当困惑するだろうし、何なら神父の間で変なあだ名がつけられる可能性も非常に高い。


 ……いや、あだ名はもうつけられているか。

 そんなくだらないことを考えながら、教会へと入った俺は能力判別の部屋へと入った。


「……本当にまたいらしたんですね」

「ああ、一日に二度もすまないな」

 

 一応謝罪してから、金貨と冒険者カードを手渡す。


「前にも伝えたと思いますが、それ以上の報酬を受け取っていますのでお気になさらないで大丈夫です。それでは能力判別を行わせて頂きます。――終わりました」

「感謝する。それじゃ、また近いうちによろしく頼む」

「はい。お待ちしております」


 冒険者カードを受け取って礼を伝えてから、俺はすぐに教会を立ち去った。

 地区が違うため宿屋から教会までが意外に距離があり、移動に時間を要するんだよな。


 能力判別のためだけに、宿屋を裏通りの『鳩屋』に切り替えることを本気で考えつつ、俺は今回の能力判別の結果を確認する。



―――――――――――――――


【クリス】

適正職業:農民

体力  :12(+21)

筋力  :7 (+9)

耐久力 :7 (+18)

魔法力 :1

敏捷性 :5


【特殊スキル】

『毒無効』


【通常スキル】

なし


―――――――――――――――



 よしっ!

 久しぶりの本気のガッツポーズが無意識に出た。


 ペイシャの森に筋力の潜在能力を強化させる有毒植物があるとは分かっていたが、なんとか採取することができていたようだ。

 あとはこの二十種類の中から絞り込むだけ。


 今日はレイゼン草とゲンペイ茸の効果が表れただけでなく、筋力を増加させる植物も見つけることができた。

 鋼の剣も新調したし、着々と下地が整ってきている。

 久しぶりにテンションが上がりつつ、ヘスターの指導を行うため、俺は足早に宿屋へと戻ったのだった。

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