第19話 能力判別


 冒険者になり、初めてのゴブリン狩りの日から約二ヶ月が経過した。

 生活に関してはレアルザッドに来た日からほとんど何も変わっておらず、唯一変わったこといえば――。


「クリスさん、おはようございます。ご飯の準備が出来てますよ」

「ありがとう」

「俺達はもう出るから戸締りよろしくな」

「ああ」


 あの盗人二人組と、『シャングリラホテル』で一緒に住み始めたことぐらいだ。

 俺に捕まったことで盗人として生きていくことに限界を感じたのか、一ヶ月ほど前に俺を訪ねてやってきた。


 一緒に共同生活してくれないかというお願いで、俺も金はできる限り抑えたいということもあって承諾したという訳だ。

 二人も俺と同じように冒険者になったようで、今日も朝からクエストをこなしに行っている。


 俺の方はというと、この二ヶ月間のゴブリン狩りで金貨三枚を貯めることができた。

 朝から晩までゴブリンを狩るだけの日々だったが、衣住食が整っているということもあり、特に苦労を感じることなく二ヶ月間を過ごせている。


 そして無事に先日、ルーキーからブロンズランクへと昇格し、冒険者としてようやく一歩を踏み出せたところなのだが……俺は明日からペイシャの森に向かうつもりでいる。

 俺の目標は冒険者として生きていくことではなく、【剣神】であるクラウスに復讐を果たすこと。


 冒険者はあくまでそのための手段であり、少しでも早く強くならなくてはいけない。

 ヘスターが用意してくれた朝飯を食べながら、明日の出発に向けての必要な物を頭の中で整理していった。


 

 朝飯を食べ終えた俺は、裏通りへと出てきた。

 二ヶ月ぶりのまともな買い出しでテンションが上がっているが、今回買う物は決めてあるし、依然として手持ちの金は心もとないまま。


 買い物を楽しめるような余裕は一切ないため、ラルフから教えてもらった店を淡々と回っていく。

 大きめの鞄に保存食と水、それから着替えを複数着に念のための低級回復薬を一本だけ購入。


 完璧な装備とまでとはいかないが、旅を行う上で最低限の持ち物は揃えた。

 ずっと使っていた小さな鞄に代わり、かなりの容量が入る背負うような形の鞄を購入したことで、大量の植物を持ち帰ることも可能だ。


 中古品で揃えたことで少し古臭さはあるものの、値段も最小限に抑えれたし満足のいく買い物ができた俺は裏通りを後にする。

 昼食を終えてから、今日最後に向かうのは教会。


 ペイシャの森に行く前に、俺の今現在の能力を正確に把握しておきたい。

 受付嬢が以前言っていた通り、教会に行けば冒険者カードに現在の能力値を数値化した情報を記載してもらえる。


 能力の判別には金貨一枚と高額な金額を払わなくてはいけないが、自分の能力という何よりも知らなくてはいけない情報を得られるのであれば許容できる出費。

 ペイシャの森に行く前と、ペイシャの森に行ってから植物を貪り食べた後の能力変化で、俺の仮説があっているのかどうかの判別がつく。


 今の手持ちの額では、どの植物を食べれば能力が上がるのかまでは測れないが、今は潜在能力を引き上げる植物が実在するのかどうかだけでも分かれば十分だ。

 そう決めた俺は、レアルザッドで一番大きな建物である教会へと向かった。


 神聖な雰囲気が漂う、レアルザッドの一等地に建てられている教会。

 俺が『天恵の儀』を受けた教会とは、大きさからしてまるで違う教会に若干気圧されながらも、大きく重たい扉を開けて中へと入った。


 そういう設計なのか、はたまた教会という場所だからなのか。

 教会の中はいい具合に日差しが差し込んでおり、煌びやかな照明があるわけではないのにキラキラと輝いて見える。


 礼拝しているのか、かなり人が神父のいる方向を見て手を合わせている中を、俺は通り抜けるように歩いて講壇の前に立った。

 この教会の神父は枯れ木のようなおじいさんではなく、金髪碧眼の若く顔立ちの良い男性。

 

「こんにちは。如何いたしましたか?」

「能力判別をやって貰いにきた」

「冒険者の方ですね。能力判別はここではなく、右後ろの部屋で行っています。そこの部屋に入ってください」

「分かった。ありがとう」


 微笑みながら教えてくれた神父に礼を伝えてから、教えてもらった部屋へと入る。

 中は狭く暗く埃っぽい、先ほどまでの煌びやかな所とは別の建物のような部屋。


 その狭い部屋の真ん中には、『天恵の儀』を受けた時にも見た青く大きな水晶と小さなベルが置かれていた。

 俺は小さなベルを軽く鳴らし、人が来るのを水晶を眺めながら静かに待つ。


「お待たせ致しました。能力判別でよろしかったでしょうか」

「あれ? さっきの神父」

「すいません。今ちょうど人がいなくて、結局私が請け負うことになりました」

「礼拝の方はいいのか?」

「ええ。能力判別だけでしたらすぐに終わりますので。懺悔まで聞くとなりますと、空けていられないのですが……懺悔の方は大丈夫ですよね?」

「ああ。能力判別だけ頼む」


 懺悔。

 この言葉を聞いて、盗みを働いたことが一瞬頭を過ったが、悔い改めるつもりは一切ない。

 すぐに気を取り直し、能力判別だけをお願いする。


「分かりました。お布施として金貨一枚頂きます」


 俺は鞄から金貨を一枚取り出し、金髪の神父に手渡す。


「確かに金貨一枚頂きました。それでは冒険者カードを渡してもらってよろしいでしょうか」

「ああ」

「この水晶を見つめていてください。すぐに終わります」


 神父はそういうと、両手を水晶にかざした。

 その瞬間、水晶が青白く輝き、すぐに光は落ち着きを取り戻す。


「終わりました。こちら冒険者カードとなります」

「それで能力ってどこで分かるんだ?」

「カードの後ろを見てください。空欄だったと思いますが、そこに記載されていると思います。それでは礼拝がありますので、私はこれで失礼します」

「ああ、ありがとう。助かった」


 頭を下げて出ていった神父に礼を伝えて見送った。

 それから俺は再び椅子に座り直し、冒険者カードの裏面を見て自分の能力を確認する。



―――――――――――――――


【クリス】

適正職業:農民

体力  :10(+6)

筋力  :5 (+8)

耐久力 :7 (+2)

魔法力 :1

敏捷性 :4


【特殊スキル】

『毒無効』


【通常スキル】

なし


―――――――――――――――



 そこまで細分化されている訳ではないが、分かりやすく俺の能力が数値化されたものが記載されていた。

 能力はほとんど一桁で、全体的にパッとしない数値。


 オークやゴブリンを倒した手ごたえ的に、もっと図抜けた数値なのではと思っていたが、ブロンズランク適正ぐらいの数値ぐらいだろうか。

 剣術等の技量に関しての明記はないため、これが俺の実力の全てという訳ではないが、今現在の俺の身体能力としてはちゃんとした数値だと思う。


 若干がっかりしたような、伸びしろがまだまだあると分かってうれしいような。

 少し複雑の心境の中、記載された能力の中で気になった点についてを思考する。


 プラス表記で別枠に書かれた数字。

 俺の考えが正しければ、俺本来の能力が左でプラスで書かれているのが、俺自身だけでは決して身に着けることの出来なかった能力だと考えている。

 

 つまりは強化ポーションや魔道具、それから……未知の植物により身体能力が底上げによるもの。

 今は俺にとって都合の良い解釈をしているが、有毒植物を摂取して数値が上がっていくのが分かれば、この仮説が正しかったと確信に変わる。


 それと、スキル欄が【毒耐性】じゃなくて【毒無効】と書かれている。

 ラルフが言っていた通り、【毒耐性】より強いスキルであったようだ。

 あの老人の神父が伝え間違えたのか、はたまた別の要因があったのか分からないが、これもプラス材料。


 あとは他の人の能力数値も見てみたいが、俺の冒険者の知り合いは未だに盗人二人組しかいないからな。

 あの二人も能力判別してくれれば助かるんだが、冒険者になり立てでは金貨一枚なんて払えないだろうし、俺もあいつらの能力を見るがために金貨一枚なんて今は払えない。


 自分の能力が分かっただけ良かったと思い、そろそろ宿屋へ帰ろうか。

 明日は朝一でレアルザッドを発つし、今日は早めに寝ておこう。

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