第18話 初クエスト
冒険者ギルドを出てから、俺は一度表通りの武器屋に行って装備を購入してから、レアルザッドの街を出た。
ちなみに装備は最低限の物だけで、皮の鎧に皮の盾。
それから武器屋の掘り出し物置き場に乱雑に置かれていた、少し錆びた鉄製の剣を購入した。
これでも合計で銀貨九枚かかってしまっている。
やはり剣は粗悪品でも銀貨六枚と値段が高く、使い古された懐中時計なんかじゃなくて、家に何本とあった剣を盗んでくれば良かったと少し後悔したが、今更考えても仕方がない。
レアルザッドから公道を北へ進み、今はもう使われていない廃道が見えたところでそこをゴブリンを探しながら進んで行く。
廃道、一応“道”という文字がついているが、雑草が生い茂り人一人の幅もないような獣道のような場所。
受付嬢が上げた三つの候補から、名前的に一番視界が開けているだろうと思い選んだのだが、やはりゴブリンが現れるということもあって視界も悪ければ人気もない。
話によればゴブリン以外の魔物も現れるようだし、ここからはペイシャの森で生活していた時のように全神経を集中させて進んで行く。
風で草木が擦れる音と、生き物が通ることで草木が擦れる音。
最初は聞き分けが付かずに全ての物音に体をビクつかせていたが、森での極限生活の中で体が無理やり覚えた。
オーガを見つけ出した時のように、風で草木が擦れる音は全て遮断し、生き物が通る音にだけ集中して廃道を歩く。
――見つけた。
ペイシャの森では一日歩いても見つからないことがあった中、廃道を進み始めて約十分。
右斜め前方に、何かが歩くような音が聞こえた。
向こうはこちらに気が付いていないのか、無警戒で草を掻き分けながら歩いているのが分かる。
オーガの時は失敗したが、今回は確実に不意打ちを決める。
足音を立てないように気をつけ、生い茂る雑草に触れないように半身の状態で、見つけた何者かとの距離を詰めていく。
俺の背丈よりも伸びている雑草のせいで、視界には捉えることはできていないが、音から判断するにすぐ目の前まで近づけた。
これ以上は雑草を越えなければいけないため、音を隠して近づくことは出来ないことから、ここからは一気に攻撃を仕掛ける。
幸いにもまだ向こうは俺の存在に気が付いていないため、不意を突く絶好の機会。
耳を研ぎ澄まし、位置を推し量りながら、俺は一呼吸置いてから一気に飛び掛かった。
雑草を掻き分けながら突き進み、標的を視認。
極端に猫背で土に汚れた緑色の肌をした小さい人型の魔物。
そう、今回のクエストの討伐対象であるゴブリンだ。
オーガと比べて反応がかなり鈍く、俺が視界に捉えてから更にワンテンポ遅れて俺の方へ向いた。
慌てて手に持つ木の棒を構えようとしたが――遅すぎる。
袈裟斬りで左肩から腰にかけて斬り裂く。
更に流れのまま、トドメを刺すために心臓目掛けて突きへと移行したのだが……。
俺の放った袈裟斬りは、ゴブリンを斜めに一刀両断。
トドメの突きを放つ必要もなく、ゴブリンは地に伏せ動かなくなった。
「……やっぱりおかしい」
体を真っ二つにされ、動かなくなったゴブリンを見て俺は小さく呟く。
オーガでの一件が何かの手違いかと思ったが、やはり異常なほどに俺には力がついている。
ゴブリンが最下級の魔物。
更に手製の武器から、錆びてはいるもののちゃんとした剣に変えたとはいえ、何の手ごたえもなく両断するなんて芸当はありえない。
剣先から滴る紫色の血液を見ながら、思わずその場で立ち尽くして頭を悩ませた。
…………毒を持つ未知の植物。
そうだ。――毒を持っていそうな植物を、俺はペイシャの森で好んで食していた。
昨日、本を読んだ時はピンと来ていなかったが、今ようやく点と点が線で繋がった。
ペイシャの森で生きるために貪り食っていたあの植物のどれかに、恐らく身体強化の作用がある未知の植物が混じっていたのだろう。
ゴブリンの無残な死体を見ながら、俺は思わず口角が上がる。
やはりオットーの仮説は間違っておらず、毒を持つ植物の中にはまだ解明出来ていない強力な作用を持つ植物が存在するのだ。
まだ絶対とは言い切れないが、俺の求める植物がペイシャの森に存在することも分かった。
今すぐにでもペイシャの森に戻りたい気持ちに駆り立てられるが、今はまだ足元を固める時。
両断されているゴブリンに近づき、左耳を剝ぎ取って革袋に詰めてから、俺は新たなゴブリンを探すために廃道へと戻ったのだった。
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