第7話 森からの帰還


 ペイシャの森に入ってから、約一ヶ月以上が経過した。

 俺はまだペイシャの森から出ておらず、最初に作った拠点に住み続けている。

 本来は一週間ほどで森からは出る予定だったのだが、オークの肉が予想以上に多く、全ての肉を食べきるのに一ヶ月近くかかってしまったのだ。

 

 デジールの街でのうのうと過ごしていた時であれば、食べきれない分は捨て、とっくの昔に森から出ていたのだろうが……。

 食べる物が何もない辛さを知り、相手が魔物であれ自分が食べたいという欲のためだけにこの手で殺めたのだから、捨てるという選択肢は取れなかった。


 まあ、最初はしんどかったペイシャの森での生活も、オークの肉が手に入ってからは慣れもあってしんどくはなかったし、別に俺は時間に追われているわけでもない。

 最低でも一週間は森に潜伏しなくてはならなかっただけで、一週間キッチリで出なくてはいけない訳じゃないからな。


 この一ヶ月の森での生活も、何もないところでも生きていけるという自信がついたし、身体的にだけじゃなく精神的にも大きく成長できた。

 なんならもう数ヶ月くらいはペイシャの森で暮らしてもいいぐらいだが……流石にオークの肉が切れた今、不味い植物だけを食べて生きていくのは辛いものがある。


 流石にほとぼりも流石に冷めただろうし、ペイシャの森を出て何処かの街に行きたい。

 人並み以上には剣を扱うことが出来るし、冒険者としてならなんとか食い繋いでいけると思う。


 とにかく生きて、鍛えて、強くなり……親父、そしてクラウスに一泡吹かせてやるのが俺の今の目標。

 【剣神】の天恵を授かったクラウスに一泡吹かせるのは、目標としては大きすぎる気もするが、それぐらい大きな目標でないと、唯一の家族に見捨てられたという現実に心が折れてしまいそうになるからな。


 気合いを入れて頬を一つ叩いた俺は、早速拠点に運び込んでいたものを自然に戻し、持参の小さい鞄を身に着けた。

 そして残り少ないオークのジャーキーと雨水の入った革袋を腰にかけ、一ヶ月住まわせてもらった天然の洞窟に深々と一礼する。

 ほんの少しだけ寂しい気持ちを残しつつも、俺はペイシャの森から出るべく歩き始めたのだった。

 


 拠点にしていた洞窟を後にしてから、約半日くらいだろうか。

 色々と道に迷いながらも、ようやく初日に訪れた森の中腹の綺麗な泉にまで戻ってくることが出来た。


 雨が降ってからは泥水以外に雨水を貯めて飲めてはいたが、綺麗な水という観点では本当に一ヶ月ぶりの水だ。

 当たり前のように飲んでいた水一つで、これだけの感動を味わえるとは思っていなかったな。


 頭ごとを泉に沈めて、溺れるのではと思うほど一気に飲んでいく。

 不純物の混じっていない、飲んでいて不快感のない水は本当に美味しい。


 胃から溢れるのではと思うほど泉の水を堪能した俺は、次に服を脱ぎ捨てて全裸となって水浴びを行う。

 手触りの良い葉っぱを濡らして時折体を拭いてはいたけど、一ヶ月間もそんな洗い方だけでは不衛生極まりないのは明白。


 綺麗な泉の水を汚すのに抵抗感はあったものの、この汚い体では人の住む場所にいけないからな。

 冷たい泉の水にゆっくりと浸かり、一ヶ月間の汚れを落とすべく、必死に体を擦りまくる。


 全身を一通り洗い終えたところで、身に着けていた服も洗おうと思い手に取ったのだが、ここで初めて服の至るところが破けていて、服と呼ぶには酷い有様になっている状態に気が付く。

 風が直接肌に触れることが多かったため、破けていることには気が付いていたが、ここまでボロボロになっていることには気が付かなった。


 森の中での生活では、身だしなみなんて一番気にしなかった部分だったからな。

 ……流石にこの服で森の外を出歩くことは出来ない。


 泉に浸かりながらどうしようか悩んだ末、水筒代わりとして作成したオークの皮の皮袋を元の状態に戻し、ボロボロの服の上から腰に巻くことに決めた。

 かなり不格好な見た目になるだろうが、露出狂として見られるよりかは幾分かマシなはずだ。


 せめて着替えの服くらい家から持ってこれていれば、こんなことになっていなかったのにな。

 家から盗ってきた物が、現状まで一切の役に立っていないアクセサリーだけなことに少し後悔をしつつも、俺は服と皮を身に着けてから、ペイシャの森を後にした。


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