第5話 初討伐
すぐにこのオークを狩ることを決意した俺は、不意の一撃を食らわせるために気づかれないようにそっと近づいていく。
この距離ならばいける――そう感じた瞬間に一気に走りだし、斧を振り上げてオークに襲い掛かったのだが……。
俺の存在をギリギリで察知したオークは地面を転がるようにして回避し、不意打ちはあっさりと失敗に終わってしまった。
回避に成功したオークは、一瞬だけ逃げようとしたように見えたのだが、襲ってきた相手が自分よりも遥かに小さい俺だと分かるや否や、醜悪な笑みを浮かべてジリジリとにじり寄り始めた。
形勢は逆転。
今度は俺が狩られる番へと回ったはずなのだが恐怖は一切なく、依然として俺にはこのオークが食材にしか見えていない。
逃げないでくれて良かったと安堵しつつ、このオークをどう狩るのかを思考する。
体格、筋力共に上をいかれている相手だが、幸いなことにこの辺りは密集した木々によって身動きが取り辛くなっている。
上手いこと木を盾代わりに使い、視界も上手く外せるように動ければ、勝機は十分にあるはずだ。
オーク攻略法を思いついた俺は、作戦通り迫ってくるオークから木で身を隠しながら、攻撃の隙を窺う。
手に持った棍棒を振り回すオークに、とにかく木の合間を縫って躱してガードを図る。
近い距離で激しい攻防が行われるが、俺の想定していた通り、棍棒を振るのですら窮屈そうにしているオーク。
その光景を見て好機と判断した俺は、タイミングを見計らって木から飛び出た。
いきなり目の前に現れた俺に、すぐさまオークは棍棒を大きく振りかぶって攻撃してきたが……振り下ろされる直前に転がるようにして回避。
避けた俺に合わせて攻撃を追従させてきたが、大きく振りかぶってから振り下ろされた棍棒は俺に直撃する前に木に直撃した。
直撃した木が削り取られるほどの破壊力だったが、その反動はもちろんオーク自身にも襲い掛かる。
木にぶつけた衝撃によって痺れたのか、体を震わせながら怯んだのを俺は見逃さず、手に持った斧での攻撃を行うため一気に飛び出た。
“速度重視で少しずつダメージを与えていき、徐々に動きを鈍らせていく”。
そんな考えのもと振った斧は、オークの背中に直撃し――そのまま深々と斬り裂いた。
オークの悲痛な雄たけびが森の中にこだまし、俺が振り下ろした斧は先端から潰れるように壊れてしまった。
手にはただの木の棒となった斧だったものだけが残り、意図せず武器を失ったことで心臓が飛び出るかと思うほど焦ったが、雄たけびを上げて倒れたオークは体を震わせてはいるけど起き上がる気配がない。
俺の予想の斜め上のことが起こり、俺は木の棒を握ったまま固まり動けずにいる。
…………今の攻撃が予想以上の威力を誇り、一撃で殺せたってことでいいのか?
しばらくの間、呆然と倒れたオークを見つめていたが、理由を考えるのを後にしてオークの処理を行うことに決める。
死んだふりではないことを警戒しつつ、うつ伏せに倒れているのを仰向けに起こすと……ぐったりとした様子のオークが、虚ろな眼差しで俺を睨むように見てきた。
どうやら傷が深く動けなかっただけで、死んでいたわけではなかったようだ。
生きていたことに驚きつつも、すぐに息の根を止めることに思考を回す。
握っていた斧だった木の棒を振り上げ、これ以上苦しまないように一撃で仕留めるべく、脳天目掛けて振り下ろす。
勢いよく振り下ろされた木の棒により、オークの頭はぐしゃりと潰れ、残っていた木の棒の部分も粉々に砕けてしまった。
この一撃で木の棒すらも完全になくなってしまったが、今はそれよりも処理の続きを行うのが先決。
スキル【毒耐性】のお陰で、腐らさせても食べることはできるのだが……命を奪ったからには、美味しく食べて心から感謝したい。
解体の道具もないため、素手でまずは皮を剝いでいく。
針のように硬くごわごわした毛を避けながら、皮を丁寧に手で削ぎ落とし、次に胸から腰にかけてを開いて内臓を取り出す作業へと移る。
体内で内臓が破けないように丁寧に取り出し、とりあえずの処理は完了。
近くに川があれば、もっと楽で綺麗に出来たのだろうけど、付近には川どころか水溜まりすらも見当たらないから仕方がないな。
処理が完全に終わったところで、どう運ぶかを考える。
頭を潰し、内臓を取り出したとはいえ、体格が俺の倍ほどあるオークは想像を絶する重さだろう。
持ち運びやすいように切断しようにも、細かくすればするほど逆に持ちづらくなるし、そもそも切断するための道具がない。
相当な重労働を課せられるだろうが、背負うように持って帰るしかないか。
覚悟を決めた俺は、持ち帰ることのできない内臓部分を綺麗に地面に埋め、解体したオークをおんぶをするような形で持つ。
やはりズシリと重くのしかかるが……想像していたよりかは重くないな。
全身がオークの血で血まみれになるだろうけど、普通に歩くことは可能だ。
解体したオークを背負った俺は、転ばないように一歩一歩踏みしめながら、拠点を目指して戻ったのだった。
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