第4話 獲物
ペイシャの森に入り、拠点を作ってから数日が経過した。
水は雨水を溜めてある程度凌ぎ、それだけでは足らなくなったら泥水を啜って水分を補給。
食べ物に関しては、植物に加えて虫も捕まえては食べることで凌いでおり、そして昨日……何らかの肉を森の中で見つけることに成功していた。
ほとんど原型を留めておらず、何の肉かも判断できないほど腐り切っていた肉だが、植物と虫しか口にしていなかった俺にとってはご馳走。
ペイシャの森に入る前では考えられないが、腐肉を大事に抱えて持ち帰ってきたという訳だ。
鼻がおかしくなるほど酷い臭いを発しているが、植物と一緒に焼いて香草焼きのようにすれば幾分かマシになるはず。
ワクワクしながら、腐った肉にどの植物が合うかどうかを吟味し、俺は現状できる最高の調理を施した。
今まで食べてきた肉の中では、最低の味と断言できるが……それでも今の俺にとっては美味しすぎる逸品。
涙を溢しながら、少しずつ大事に腐った肉の香草焼きを堪能した。
久しぶりに満腹となった俺は、一休みしたい気持ちを押し殺し、すぐに次の食材を探しに出かける。
とにかく生物の少ないこの森は、危険度が低い代わりにまともな食料が手に入りづらい。
俺は今、一日分の食材を探すのに一日浪費するという、費用対効果の悪すぎる生活を送っているのだ。
クラウスに負わされた傷も、食べた植物に薬草が混じっていたためか完治寸前まで回復しているし、木の棒に割った石を括り付けて簡易的な斧も製作したため、そろそろ動物や魔物を狩りたいところ。
時折、歩きを止めて立ち止まり周囲の気配を探ってみてはいるが、小鳥のさえずりと木々が擦り合う音しか聞こえないんだよな。
だからこそ、あの腐り切った肉でも本当にありがたかった訳で……。
そんなことを考えながら食材の採取を行っていると、明らかに自然の音とは違う草木を掻き分けるような音が、東の方角から聞こえてきた。
常に索敵しながら進んで来た俺の前に、ようやく現れた絶好の獲物。
ただ、聞こえた音の大きさからしてかなりの大物のような感じはするが、肉の旨味を知ってしまった俺を俺自身は止めることが出来ない。
一目散に音のした方向へと走り、獲物を見失う前になんとか見つけ出したい。
人生で一番の集中力を発揮させながら、五感を研ぎ澄ませて獲物の痕跡を追う。
草木を掻き分けた痕跡、僅かに残された足跡、仄かに漂っている獣臭を必死に嗅ぎ分け、俺はようやく物音を立てた獲物に追いつき――視界に捉えることに成功した。
音を立てていた獲物の正体は、危険な魔物の代名詞であるオーク。
以前、一度だけオークを見たことがあるが、今回のオークはその時よりも大きく見える。
天敵のいないこの森で育ったから大きく育ったのか、それとも今回は戦う相手として見ているから大きく見えているだけなのか。
どちらにせよ、危険な魔物であることには変わりはない。
小さい頃にオークと遭遇した時は、親父が一人で対峙し討伐していたのだが、天恵で【剣豪】を授かっていて更に剣術の稽古を毎日行っていた親父が、若干ではあるが手こずっていたぐらいの強さ。
俺も親父とはスキルなしでの戦いならば、少し手こずらせるぐらいの力はあるため、こいつがあの時のオークと同程度なら、実力はほぼ互角とみていいと思う。
互角の相手でこちらの装備が心もとない現状を考えれば、戦いを挑むのは危険極まりない行為なのだが……今の俺にはこのオークが美味そうな食べ物にしか見えていない。
思考し躊躇したのも一瞬だけで、すぐに絶対に狩ってやると決意を固めた。
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